第29話 ハロルドの活躍


「順調か?」


「はい、同盟・協商の六ヶ国の戦争は激化していて、このまま泥沼化するかと。他国同士の戦争はまぁおまけみたいなもんなのでそこまで注意深く観察はしてないです」


「そうか。それで、残す都市は決めているか?」


「はい、同盟側三国は滅ぼします。協商側から六つの都市を選びました。後で地図で見せますね」


 魔王城にて、魔王の私室の模様替えを手伝わされながら現在の進行度を報告している。てか、こういうのはアトラナートさんたちの仕事じやねぇの? それと、魔王の意向である、六ヶ国全滅とはならなかったが、これが最善だと考えた上で、決めたのだ。


「それと、九星仙人エニアグラム、地球のテルースが出張って来ましたね。ハイアットの最後の個の戦力です」


「そうか。その者はどこに位置している?」


「ハイアットの北方、魔王領と対峙するように陣取ってます。こちらの動きが観測されたのでしょう。どうします?」


「その、エニアグラムとやらはお前以外の四天王で倒せるか? 無理ならお前が――」


「ルブさんとジェイドさんの部隊に任せましょう」


「……ほう、あの二人か? 理由を聞かせてくれ」


「テルースは大規模な土魔法を得意としています。主に大地震を起こすのを得意としてますね。そこで図体のでかいギガスでは体勢を崩しやすく、隙を作りやすい。ジェイドさんは空を飛べますし、俺仕込みの戦術もあります。ルブさんには工作員として、また、その下の獣軍も戦力として数えていいでしょう」


「ふむ、理解した。聞いていたか?」


 魔王がそう言うと、どこからともなくアトラナートさん率いるアラクネが数匹現れた。ビビったぁ。


「はい。しかと聞きました」


「よい、勅命扱いで構わん」


「かしこまりました」


 そう言うとアトラナートさん達アラクネは姿を消した。隠密かよ。


「びっくりしたであろう?」


「えぇ」


 こいつ、悪い笑顔浮かべやがって。ふざけるなよ。に、しても俺ですら感知できないってどんだけだよ。


「サクラはこの後どうするんだ?」


「臨機応変に対応しつつ、戦争の行く末を見届けようかと」


「介入は程々にな」


「心得ています」


 そう言って、自然にここを立ち去る。

 うーん、完璧なムーブ。魔王ですら見逃しちゃ――


「どこへ行く? まだ終わってないぞ?」


「ふ、副官をよこしますので少々お待ちください!」


 そう言って魔王の私室を飛び出し、エイジュとリリアーヌを「上官の命令である!」とだけ言って魔王の私室に向かわせた。


 ◇


「ハロルド、調子はどうだ?」


『はい! いい感じでございます! 』


「そうか、近況報告たのむ」


『はっ! 私の指揮能力と戦闘能力を買われ、指揮官に任命されました! このまま精進致します!』


 ぐぅ有能。アトラナートさん達によって指揮官レベルに育て上げられた吸血鬼隊の中でもトップクラスの指揮能力を誇るハロルドなら、すぐに頭角を現すと思ってたよ。


「オーケー。いい調子だ。このまま出世したまえよ」


『任せてください!』


 そう言ってハロルドは魔力による通信を切った。

 六ヶ国の戦争は順調、傭兵国家の躍進、魔王軍挙兵の匂わせ。ここまでやればハイアットは混乱、六ヶ国の戦争が終われば魔王軍の名が世に轟く。

 あぁ、待ちきれねぇな。人族同士の戦争もいいが、悪である魔族に殺される人族を見ることしか出来ない女神を想像するだけでぞくぞくしてきた。


「サクラ、よくもめんどくさいことに巻き込んだ」


「ご、ごめんエイジュ。リリアーヌが一緒だっただけマシだろ!?」


「それは当然。あいつは良い。簡単に身代わりに出来る」


 たしかにな。リリアーヌは単純なヤツだから簡単に騙される。基本的にはポンなクセに重要な場面でいい働きをしてくれるから副官として働いているんだよな。


「まぁ、なんだ、魔王の扱いも覚えおけよという上官からの気持ちだと思っておけ」


 そう言って、俺はエイジュの元を逃げるようにして去った。


 ◇

 side:ハロルド


「ハロルド中尉」


「は!」


「先の戦争により貴殿の上官であるゼフ中佐が殉職した。その枠を埋めるため貴殿を中佐に任命する」


「ありがたき幸せ!」


 これは玉座の間なだけあり、周辺の貴族たちからも一部反対の声が聞こえてくる。しかし、声高らかに反対など出来まい。何せオレの方が優秀なのだから。だが、この異例の昇進にはオレも疑問に思っている。が、そんなことはどうでも良い。ここでもっと出世するのがオレの任務だ。



「よう、ハロルド中尉――いや、中佐殿?」


「ホフマン大尉。いつの間にか私の方が偉くなってしまいましたね」


「そうだな、たった三日で軍曹から中佐になるやつがとこにいる?」


「ここにいますよ、ここに」


「くぅー、やっぱできる男は違ぇなぁ!」


 そう言ってオレの背を叩くのはホフマン大尉。この人との関係は簡単だ。先輩と後輩。

 オレとホフマンは同じ傭兵団出身で、ホフマンはその傭兵団の出世頭なんだとか。


 この国の仕組みとして、傭兵を雇う→実力があれば国で召抱える→昇進する。の順番なのだが、オレは傭兵団に入った直後に国に召抱えられた。オレが入団した直後、古巣である傭兵団を視察しに来ていたホフマンが俺の実力を見て王に進言してくれたらしい。傭兵団に在籍していた期間は被ってもないし、全くの初対面なのにここまで良くしてもらっている。


「俺もそろそろ少佐に、佐官になれそうなんだ」


「確かに、ホフマン大尉殿の実力であれば佐官でもおかしくないですしね。それにレベル200越えのCランク下位なら全然有り得ますしね」


「Bランク上位の言うことは違うねぇ! ありがとよ。俺ぁ次の戦争終わったら彼女にプロポーズするんだ。だからちゃんと勝たせてくれよな」


 そう言ってホフマン大尉は走り去って言った。

 ……これ、サクラ大将が言っていたフラグと言うやつでは。

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