第28話 傭兵国家


「魔王の介入だと!?」


 ハイアット帝国にある、とある豪奢な一室。お国の幹部達が集い、戦争における作戦を練っていたが、とある情報筋からその情報を手に入れた。


「はっ。現在、十数万の魔王軍が我々ハイアットに向けて軍を進行中にございます」


「ギルガキアに軍を送ったのは間違いであったか……。この国に勇者はもう居ない。テルース殿を呼んでくれ」


 彼女一人で魔王軍をどうにか出来るだろうか。いや、あのマルス殿でさえやられてしまったのだ。マルス殿に実力で劣るテルース殿では手に負えないのではなかろうか。


 そう思案する皇帝と同じように、各国の重鎮はこの出来事を重く受け止めていたが、むしろこの事態を楽しもうとする国すら存在していた。


 ◇


「ハロルド、密命だ」


「はっ。中将、なんでも言ってください」


「お前は、傭兵国家ゼルドナに行って武功立ててこい」


「傭兵国家に、ですか」


「ああ」


 ハロルドは今回連れていった吸血鬼族のひとり。吸血鬼族は他にもリリアーヌ、ジュリア、アルフレッドといるのだが、他のメンツは少々くせが強いため今回の作戦には不向きと判断したのだ。


 リリアーヌは有能ではあるが、それ故に手元に置いておきたい。

 ジュリアは元魔人と言うだけあり、異形の角を生やしている。これでは人族の社会には潜り込めない。

 アルフレッドも見た目のもんだがある。見た目が知的すぎる。傭兵国家に派遣するならアルフレッドのような弱そうな見た目のやつより強そうなやつの方がいい。


 それに対してハロルドは元オーガなだけあり、見た目の威圧感が良い。元は筋骨隆々だったが、吸血鬼になりスマートな見た目になったことで細マッチョ……よりはムキッとしている感じだ。それに、元オーガと言うだけあり、近接戦闘が強い。傭兵国家において、魔法達者よりも、近接の武闘派の方が出世しやすい。


「お前のやることはひとつだ。武功を立ててゼルドナの中枢に潜り込め」


「……最初から潜り込むのはなしなんですか?」


「お前、そういうの好きか? 魔法で偽って内部に侵入するの好かんだろ」


「まぁ、そうですね」


 吸血鬼になったとはいえ、こいつは生粋のオーガだ。魔王軍内でも"戦闘バカ"と揶揄されるオーガがそんな姑息な手を使いたがるとは思えない。それに、これが成功すれば魔王軍の脅威が世界各国に知れ渡るだろう。


「よし、じゃあ作戦開始。頑張ってこいよ、ハロルド」


「はい!」


 気持ちいい返事をして、ハロルドは去っていった。ゼルドナは現在色んなところに喧嘩を売っているから、戦力はあるに越したことはない。ハロルドが武功を立てて中枢に潜り込めれば人族を一気に叩くチャンスにもなる。


 ◇



「オレにこんな大役任せてくれた大将の役に立つために、絶対に成功させてやる……!」


 と、言うか。まず傭兵国家ゼルドナがどんな国でどこにあるのか分からない。

 大将閣下に貰った地図ではレテンテ帝国のさらに西側、アワキムとアガヌボンに面していて大まかな国境が書かれているが、戦争を繰り返し勝利していることで、実際はもっと大きい国だと思われるな。「三重の上部辺りだ」って中将が言ってたけど、ミエってなんだろう。


 それに、ゼルドナは完全実力主義。文官でも結果を出せば文官としても出世出来るが、それには時間がかかるから武功を立てて出世しろってことか……!


 サクラの唯一の誤算はハロルドが脳筋という訳ではなく、聡明であるという点だろうか。

 サクラ視点で見ればオーガの一人であるが、ハロルドは元々オーガたちの頭脳であった。戦闘の実力もさることながら、ハロルドはオーガたちの頭脳として皆をまとめていたのだ。


 しかし、その内に秘めた闘争心をサクラが刺激してしまったことで、ハロルドは覚醒してしまった。


 ◇


「はぁ!? もう一国を落としたァ!?」


 ハロルドを傭兵国家ゼルドナに派遣してからはや三日。ゼルドナの北東に位置する、ネベンロールを攻略した、らしい。それも、一番の武功を挙げて。敵兵の殲滅力も去ることなが、敵将を複数人討ち取り見事勝利に導いたとか。

 その結果国から打診を受け、正式に国お抱えの傭兵になったらしい。


 そもそも、ゼルドナの成り立ちが特殊なのだ。ゼルドナは新興国なのだが、元は傭兵団だったのだ。そこのトップが国を興した。元が傭兵団ということもあり、傭兵を大量に雇用し、様々な国に喧嘩を売っている。その悉くに勝利し、領土を奪っているのだからタチが悪いったら無い。

 しかし、人族同士の争いは魔族的には嬉しいことだし、女神的には良くないことだとわかっている。だからハロルドを派遣し、ゼルドナの上層部に上り詰めた暁には今以上に戦争を引き起こし、女神への軽い復讐とする。


「はい、ハロルドくん、張り切ってるらしくて」


「リリアーヌ、お前なら何日で落とせる?」


「半日あれば、一国程度余裕です!」


 うーん、こいつに聞いた俺が馬鹿だった。ニッコニコで言うな。半日はさすがに盛りすぎだと思うが、三日で国落としするのすげぇな。

 しかも、リリアーヌの国落としは王都を焼き払うことだろうし、それに比べてハロルドは敵将を複数人討ち取った上で、王都を制圧し、国王を生け捕りにした。王都制圧時の殺しは最小限だとか。そのやり方は、俺の望むところではなかったが今後統治していく上で必要な方法だから、今後のゼルドナの成長考えれば悪くないな。


「ゼルドナの成長、ですか? 人は沢山殺した方がいいのに?」


「ん? あぁ。俺の本来の目的は女神への復讐。人族同士の戦争を誘発させるのが間接的な復讐にあたるな。そんで、ゼルドナは最小限の殺傷で王都を制圧したな。人族は殺しを好かん種族だ。殺しを最小限に抑えて制圧したゼルドナに対しての反発は少ない。そうするとゼルドナの力が強まるな。その強まった力であちこちに喧嘩を売れば、より効率的に人族同士の戦いを誘発できるんだ」


「な、なるほど。目の前のことだけじゃなく、先のことを考えた上で、より効率のいい方を選んだんですね」


「あぁ」


 結局はゼルドナ諸共、人族は絶滅の危機に追いやられるがな。なんてことは口に出さないでおこう。

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