第27話 各国の動向


 同盟軍対協商軍の戦いが始まった。世界中に知らされたその報告だが、他国の動きは色々であった。

 知らぬ顔をする国、武器を売りつけて金を稼ごうとする国、九星仙人エニアグラムを擁しており、戦力提供を提案する国。戦争における勇者の使用を非難する国。そのどれもに共通するのは、この戦争に対して、大きく動けていないてんだろうか。


 どの国にもある程度戦争の経緯は行き渡っているだろうが、自国の貴族が殺されたと言って宣戦布告したのがロウアットで、様々な要人を暗殺された協商側はそれに呼応し、挙兵した。

 それだけ聞くと、どっちが悪いのか分からないのである。無論、先に手を出した方が悪いのだろうが、この場合どっちが先かなんて分からない。

 国によっては「魔王が関係しているんじゃないか」なんて言われているが、「そんなことあるわけない。魔王であればそんな回りくどいことしないであろう」と言うのが大半の意見だ。


 戦況としては、協商優勢と言ったところだろうか。1ヶ所で戦っている訳ではなく、多方面から仕掛けているので、その対応に同盟軍が追われている様子だ。協商軍がいい感じに押し込んだ! と思ったら、同盟側は勇者の手札を切り、戦線を維持し、ある程度押し返せたら勇者を後退させる。これの繰り返しで、長丁場の決戦となっている。


「サクラ大将、あの勇者殺しますか?」


「いや、必要ない。そんなことしなくても、戦況が大きく変わるぞ」


 三次元的にこの戦争を見ている俺たちだからこそわかるのだが、レテンテ帝国とハイアット帝国は現在、ギルガキア皇国に軍の主力を移動させている。まぁ、やりたいことは分かる。そこから一気に風穴を開けて、押し通すつもりなのだろう。悪くない案ではあるが、それではレテンテが危ないな。


 アワキム王国という、レテンテの南西側の国が挙兵したのだ。位置的には愛知、三重の間あたりの小国だ。これは、同盟軍からの要請を受けて、挙兵したものと思われる。

 その国の将軍がユーサエィと言う、勇者ほどでは無いが、個としては申し分ない実力且つ、軍を率いる才に溢れている。


「そっちは俺たちでやっておくか」


「そうですね。……あ、でもその必要もなくなりそうですね」


 挙兵したのはアガヌボン公国という、かつてギルガキアの皇族の分家が興した国で、建国千年いかないくらいの歴史を持つ国だ。

 そのため、分家が興した国とはいえ、そこそこ大きい。滋賀県と福井県の尻尾の辺りだ。そして、なんと言っても、傭兵の聖地として傭兵から人気が高く、質のいい傭兵が多いのだ。その理由としては、アガヌポンは他国と戦争を繰り返し、領地を奪って大きくなった国だからである。公国という皮を被った帝国なのだ。


「あそこが挙兵したとなれば色々な国が動き出すぞ……」


「本州のほとんどの国が戦いを始めると言っても過言ではないですね」


「そうだな。これほど上手くいくとは思っていたなかったのだが……」


 逆に上手く行き過ぎて怖いまである。

 協商のどこかの国と縁がある、同盟のどこかの国と縁がある、なんて国があればこの戦に参戦するだろう。「味方の手助け」という名目で、勝てば敗戦国の領地を奪え、金が手に入るからハイリスクハイリターンの作戦だ。こうなると、傍観を決め込むことも難しくなるので、ほとんどの国はこの混乱に乗じて戦いを始めるだろう。

 そうなると戦地はギルガキアだけに留まるはずもなく、各地で戦争が勃発するだろうな。


「一旦戻って魔王の指示を仰ごう。俺たちだけの少数部隊だけじゃ手に負えん。計一個師団程度の戦力があれば、戦の勝敗をコントロール出来るはずだ」


「了解! 099きゅーきゅー、全部隊帰還!」


『はっ!』


 099って言ったのに、全部隊とか言ったら、意味ないじゃんなんてことは俺の胸の内に秘めておこう。


 ◇


「それは誠か」


「はい、当初の予定では例の六ヶ国による戦争に乗じてその全ての国を滅ぼし掌握する予定でしたが、世界的に戦争が勃発するおかげで、世界的な戦力は半分程度になります。なので、今後の人族の攻略が楽になります」


「うむ、どの地域の人間を生かしておくかは決めているのか?」


「未だに構想段階ですが、一応世界中にまばらに街程度の大きさの集まりを作らせようかと考えています」


「ほう、妥当な考えであるな。相手は人間だ。もちろん成長や退化などするだろう。国程度の大きさになった街はどう扱う?」


「魔王軍により滅ぼします。そもそもの話、魔族と言えど、純粋な魔族は魔人族だけ。我々のような準魔族の集まりではいずれ争いが起きます」


 魔族の生存本能として、強者に従うというのは言うまでもない。これは純魔族にも準魔族にも言える。純粋な魔族なんてのは魔人族しか居ないから、大概の魔族は準魔族ということになるのだが。

 純魔族は力による支配で良い。でも準魔族はいつしか限界がやってくる。そうなると、魔王でも抑えが効かなくなる"かも"しれない。四天王のように、忠誠を誓っていればそんなことは起きないが、小規模でもそういうのが勃発するとめんどくさい。そういう、部下の不満管理も行わなければならないのだ、王というものは。


「そうか。では、現在勃発中の人族の戦争への介入作戦を始める。……あぁ、言っていなかったな。協商・同盟主要6ヶ国は全滅だ」


 そう言って、魔王はニヤリと嗤った。

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