第25話 強襲
「貴様! どこの手の者だ!」
うーん、すごくめんどくさいことになってしまった。
俺とウォルターは城に侵入後、速やかに宰相を殺害した。その後騎士団長がいるであろう訓練場に来てみれば、宮廷魔法師団と合同演習を行っていたのだ。それだけならまだいい。だが、魔法師団長に普通に見つかってしまった。騎士相手だからと、魔力を抑えずに来たことで、魔法使いにはバレバレだったわけなのだ。
「そう言われて答えるヤツなどいるか。我が君が貴様の死を望んでいる」
「なっ。やはり、貴様はロウアットの者か!」
「さ、さぁ? どうだろうな? ち、違うかもしれないだろ~?」
ここは、わざと目を泳がせ、動揺しているように努める。そもそも、相手が魔族っていう選択肢はないらしい。まぁ、魔族なんかが戦いの前に総大将討ちに来るなんて思わないだろうしね。
「ふっ。そのように感情を表に出すなんて、二流の証拠だな。殺れ」
魔法師団長の「殺れ」の一言で、その場にいる魔法師達から魔法が一気に放たれ、俺たちに着弾した。爆発系の魔法も放たれたのか、目の前で爆発し、前が見えなくなる。
「……なっ!」
「残念。効かないんだよね、魔法攻撃。さて、魔法師団長の女、お前は生かしてやる。騎士団長の居ない戦争でどう足掻くかな?」
「……! ウェルベック殿! 息をしていないッ! お前ら、医務室へ運べ!」
「は、はい!」
「あぁ、ダメダメ」
騎士団長が倒れているのは俺がやったから。前が見えない状態でもだいたいどこに誰がいるかわかるしね。魔法でちょちょいと心臓撃ち抜いてやったんだが、回復系の魔法を使われると息を吹き返してしまう可能性があるので、風魔法で首を落としておいた。
「貴様、よくも……ッ!」
魔法師団長の女は赤い瞳に涙を浮かべ、下唇を噛むように悔しがる表情をする。
「あ、君の魔法攻撃は効かないよ?」
俺のRESの値が奴のINTの値の倍以上あるから、魔法攻撃は通らない。この場にいる魔法使い全員で俺の攻撃しても攻撃は通らないだろう。先程の魔法攻撃がいい例だ。
ここまで、ロウアット派を演じれば協商と同盟による戦争が起こることは必然だろう。
「それでは、我々は役目を果たした。我が王に報告するためここで失礼する」
「ま、待て!」
名も知ら魔法師団長の制止も聞き止めずにウォルターと共にこの場を去る。この一件で帝国の戦力は一気に低下。戦闘面でも内政面でも。
それに加え、ギルガキアとレテンテといった協商組の主要人物も居なくなったことなら協商組の戦力低下は必至だろう。そこまでしてようやく同程度の力になる同盟側もどうかと思うがね。
「魔王軍はここまで出来るんなら一気に殲滅した方が早そうですけどね」なんて言っていたウォルターくんはわかっていないね。
俺がやりたいのは女神が嫌がること。魔王はその考えに賛成してくれているから、俺のやりたいことが出来ている。でもこういうことをやりすぎるとバトルジャンキーの多い魔王軍内で不満が溜まるから、残党掃討はしっかり魔王軍が行うし、協商及び同盟、計六ヵ国滅亡後の南下作戦は今回のようなやり方ではなく魔王軍の力を見せつけるやり方を予定している……らしい。部下の不満管理もお手の物な魔王には流石としか言いようがない。
その魔王の評価を下げないために今回の作戦は可及的速やかに行い、魔王軍が暴れる舞台を整えなければならないのだ。
「こちらも作戦を終えた。作戦を終えた部隊はその国の諜報活動に移行だ」
『了解!』
全員から、返事を得た俺たちは一先ず帝都内に潜伏することにした。
「さっきはバレてしまったが、次からは魔力を抑えて侵入するぞ。できるか?」
「はい、魔力制御は得意です」
ウォルターは、そう言うと、上手な魔力制御を見せる。みるみるうちにウォルターから感じる魔力量が減っていく。これほどの制御はおそらくリリアーヌ以上だ。まぁ、リリアーヌ自身が魔力制御得意と言う訳ではないのだが
「うん、上手いじゃん。魔力量が少し多い人間の魔法使いって感じ」
「……人族の一般人の魔力量程度まで下げられるサクラ大将に言われたくないですね。それにサクラ大将なら、もっとできるんでしょう? それ以上やると不自然になってしまうから、その位で制御してるんですよね?」
「流石にな。やり過ぎると実力者にはバレる」
名前を聞きそびれたが、この国の魔法師団長クラスになら、普通にバレるだろう。何事もやり過ぎないくらいがちょうどいい。
◇
「では、ロウアットの刺客である可能性が高いと? バンヤード卿」
「彼の国にあれほどの実力者がいるのか不明ですので、三国同盟の国からの刺客と捉えるのが無難でしょう。目の前でクレンケル卿が殺されるのを見ました。勇者様、マルス様に続いてクレンケル卿まで……」
「……ん? 今回の一件、魔王軍の仕業と考えるのは早計だろうか?」
バンヤード卿と呼ばれた、赤い瞳に深紅の長髪をした魔法師団長含む、国の重鎮達の会議を覗いているのだが、鋭い人もいるもんだな。
「しかし、あれほどの力を持った魔王軍がこんな姑息なことをするのか……?」
「魔王軍の仕業に違いないな」
うーん、この一件の犯人が魔王なのか同盟なのか割れてるなぁ。ここは一芝居打ってもらうか。
「ウォルター」
「え、まじですか」
「まじだ」
少し睨むと「はぁ」と、ため息をつきながらウォルターは持ち場を離れた。
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