第24話 スピーディーリリアーヌ


 と、言うことで、ハイアット帝国にやってきたが、ウォルターの見た目はすごく目立つため、幻影魔法でその姿を偽っている。

 顔のベースはそのままに肌の色は紫色から、吸血鬼のように白い肌に。青い髪と黄色い瞳はそのままなのだが、こいつ、普通にいい顔してるよな。悪人顔の俺と違って、爽やかイケメン風だからこうやって街を歩くと視線を集める。

 だからって、仮面つけると変に目立つのだが、幻影魔法は俺が使ってる訳では無いので、とやかく言えない。


「そういえば、帝都まで来たはいいですけど、ここからどこに向かうんですか?」


「城に直行だ」


「へぇ……。って、城!?」


「あぁ。行動は早く起こすに越したことはない」


 今から俺たちがやることはハイアット、ロウアット両国の要人を暗殺し、それぞれの国に擦り付けるだけ。ハイアットの皇帝は聡明なため、こちらの思惑には気づいてしまうだろうが、ロウアットの王は馬鹿だし、ハイアットと戦争する理由が出来たと喜ぶだろう。

 それならロウアットの要人だけ殺せばよくねって思うかもしれないが、普通に戦争したらハイアットの圧勝で終わる。だから、ハイアットの要人……つまり、文武の最高権力者、宰相と騎士団長を殺す。騎士団は団長の圧倒的な強さが目立つのだが、他の団員もなかなかの実力者揃い。ただ、軍を指揮する能力は団長がずば抜けているため、放ってはおけない。

 だから騎士団長を暗殺するのが得策だと考えたのだが――


『中将、ロウアットにギルガキア皇国の皇太子がいるんですけど、どうしますか?』


「数分考える時間をくれ。それまで皇太子を追え」


『了解!』


 ギルガキア皇国。

 ハイアットと、もうひとつの国、レテンテ帝国と共に三国協商を形成し、お互いに助け合う関係を築いている。

 それに対を成すように、ロウアット王国、フロムスニア王国、フェンリア王国で三国同盟を形成している。


 以上の六カ国は日本地図的に言うと本州にあって、三国同盟は関東甲信辺りを支配している。

 ハイアットは言わずもがな、現在の人類最北端の地、栃木辺りを。ギルガキア皇国は北陸辺りを横長に、レテンテ帝国は東海地方の四分の三程度を手中に収めている。三国同盟を囲むように出来た三国協商だが、国力の差は一目瞭然、協商の方が上だ。


 とまぁ、リリアーヌから報告が入ったことで、絶賛悩みまくりの俺。人間同士の戦争は俺に一任してくれているから、独断で決められるが……。

 ここでギルガキアの皇太子を暗殺すれば、大戦のきっかけとなるだろう。時代背景は全く違うが、サラエボ事件と似たような状況が生み出せる。

 そこに協商三ヶ国の要人達の殺害と来れば、同盟の仕業と思うのではないだろうか。


「よし、聞こえるか全部隊」


『『聞こえます!』』


「これより作戦を開始する。リリアーヌは皇太子の殺害、俺たちはハイアットの要人の暗殺、ジュリアとハロルドはレテンテの要人の暗殺。アルフレッド、お前はギルガキアの要人の暗殺だ。行けるな?」


『はい、ありがとうございます!』


 ジュリア、ハロルドは元魔人とオーガ。少しガサツなところがあるから、一人では任せられない。アルフレッドは元人間だから、その辺は上手く対処してくれるだろう。


「そんじゃ今から作戦開始だ。自分の持ち場がわからんやつはいるか?」


『……』


 沈黙……。誰も居ないってことか。


「じゃあ行動開始! やるべきことが終わったら報告するよう……に」

『終わりました!』


 まぁ、そうだよね。目の前に暗殺対象がいればすぐやるよなこいつなら。でもまぁ俺はリリアーヌの成長が嬉しいよ。


『ロウアットの騎士を殺害し、その剣を使用したので、ロウアットの仕業に見せ掛けました! あとその騎士は灰にしておきました!』


「うん、すごくいい対処だな。それじゃあ適当にワイアットの偉そうな人たちを殺せ。あとは、お前はアルフレッドの助けに入ってやれ。いいか? お前はあくまで補佐としてやるんだ。アルフレッドが指揮を執るんだぞ」


『『了解!』』


「サクラ中将、なんか、うちの姉が申し訳ないです」


「いいんだよ、あんたの姉は良く働いてくれてる」


 まぁ、実際リリアーヌの育成は成功してて、指揮官としても補佐官としても申し分ない実力を持っている。また、吸血鬼になったことによるステータスの向上に上手く適応し、自分なりの戦闘スタイルを確立しているし、上司としては嬉しい限りなのだ。


「だが、まぁリリアーヌに遅れは取りたくないよな?」


「それは……、はい。もちろんです」


「じゃあ速攻であの城を攻略するぞ」


 この国の都は門から城まで一直線に出来ている。理由としては、何かあった際にすぐに逃げられるように、というのが大きいだろう。まぁ、その分、警備も厳しいが。


「はい、わかりました」


「よし。準備しておけ」


「は、はい!」


 そう言いながら俺は伸びたり、足首を回したりと準備運動をしていた。この身体に準備運動は多分必要ないが、気分の問題だ。

 だが、ウォルターは俺を見て慌てて屈伸とかしてる。普通におもろい。


「よし、そんじゃあ。よーい、ドン」


 俺の合図とともに駆け出した俺たちは、人間達からは見えることの出来ないスピードで走っていることだろう。

 城って警備が堅いイメージがあるから、スピード勝負だよな。


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