第23話 魔族のやり方


 人間たちに対する宣戦布告後、魔王軍の幹部会議では今後の動き方の会議を行っていた。

 俺たちの最終目標は人類の殲滅……ではあったが、人間たちが居なくなればもしかしたら魔族同士で争いが起きるかもしれないので、一定数の人を各地に散りばめておこうという結論に至った。


 まぁ、前述した理由は単なる建前で、本音は女神への嫌がらせ。自分のお気に入りの人族たちが殲滅されるのと、自分の嫌いな魔族によってその人族たちが支配されるのとどちらが嫌かと聞かれれば後者だろう。なので後者をとることにした。それは魔王的にも良いらしく、大陸全土を支配したとして、領域が広すぎるが故に魔王ひとりで管理することは不可能なのだとか。

 四天王が手伝ったとしてもどこかで魔族同士の争いが起こるかもしれない。

 そうなった時その怒りの矛先を人族に向けさせようという考えだ。

 まぁ、俺の考える「女神が嫌がること」=「魔族が望むこと」みたいなものだし、話し合いもスムーズなのだ。


「では今後は人族同士で戦争をやらせ、両軍が疲弊したところに割り込むという形で良いか?」


 魔王の締めの言葉に幹部たちが頷く。とりあえず今後の目標は人族同士の戦争を誘発させることになる。

 あぁ、それとリュシアンの後釜は俺に決まった。エイジュが仮で大将をやっていたが、正式発表前に辞退したことで俺が大将になることになった。ちなみに、リリアーヌは中将に昇格だ。魔人の中で一番の出世頭と言えるだろう。


「では、戦争の誘発等は我々吸血鬼隊が行うとして、飛行戦力を持たない種族には飛行戦力の確保をお願いしたいです」


「ほう……。具体的には?」


「ワイバーンを手懐けるのがいいでしょう。上位の者であればドラゴンを手懐けるのもいいかもしれません。それと、人族の国に飛竜と契約し、戦力活用している国もあります。対空戦術も身につけておいてもいいかと」


「で、あるな。まずは飛行部隊の確保。その次にその部隊を使い、対空戦術の実演。良いだろう」


 これなら対空戦術を学べるし、飛行部隊も対空の対策も出来るから、一石二鳥だ。


「では、我々吸血鬼隊はロウアットとハイアットの戦争を誘発させるべく動きます」


「それは、第二軍団を全て動員させて行う必要があるか?」


「いえ、少数で問題ありません。……十名ほど選出して連れていきます」


「よかろう。残った者は一時的に魔王直轄部隊として動いてもらう」


「はい、異論はありません」


「よい、行け」


「はっ。リリアーヌ」


 ◇


 とりあえずリリアーヌを連れてきたは良いが、どうしようか。

 エイジュには残った者達を統括して貰いたいので、残ってもらう。そうすると右腕にリリアーヌを抜擢するしかないのだが、迷いどころなのが他隊員の選出だ。


「有志を募ってそこなら選べばいいのでは?」


「アホか。そんなことしても現状と変わらん」


 そう、有志を募ったところでどうせ全員応募するのがオチなのは分かりきっている。

 実力で上から残り八人採ると、エイジュが可哀想だし、だからって下から採る訳にも行かない。となると、悩みどころではあるが……。


「よし、リリアーヌが決めろ」


「え、あ、はい!」


 まぁ、上からの命令は絶対だ。断ることなんてできないだろう。吸血鬼隊の中での実力差はそこまで大きくないから、下から数えて八人採るなんてことしなければ多分上手くいく。



 そうして集まったのが……


「まぁ、悪くないな」


 上から数えて三人分と、吸血鬼隊の中でも真ん中辺りの実力を持つ五人を採用した。まぁ普通に良い選出だ。


「十人で行動する訳にも行かないから基本は二人一組で行動する。俺とリリアーヌ、ハロルド、ジュリア、アルフレッドはバラバラの班にしよう」


 ハロルド、ジュリア、アルフレッドは吸血鬼隊の中でも上位の実力を持つ、吸血鬼族のうちの三人だ。


 ハロルドは元はオーガで、吸血鬼になる前はスキンヘッドで筋骨隆々の大男だったのに、一回り小さくなって、黒色の髪が生えたことで見た目の威圧感は無くなった。

 その実、内包される筋肉量や魔力量は格段に増え、感じ取る威圧感は圧倒的に増した。その事でわかる人にはわかる威圧感が増したが。

 あとはまぁ、小さくなったことで近接戦の時、自分の拳と敵の的との接触面積が減ったことで一撃の威力はさらに増えた言える。


 ジュリアはリリアーヌと同じく元魔人。ヤギのようにうねった角を持つ。俺から見れば歪で気持ち悪い見た目だが、魔人の中ではその立派な角こそが強さの証らしい。リリアーヌとは違い、吸血鬼感が強く、肌の色は不健康な程に白い。黒い色の長い髪に、真っ黒なローブを着ていて、見るからに悪役だ。いいね、こういうの。


 アルフレッドに関しては実を言うと元は人間だ。その長身と白色の長い髪が似合う顔立ちからは知性が満ち溢れている。メガネを左手でクイッと持ち上げる動作が様になっててウザイ。だが、彼の魔法は吸血鬼隊の中でも随一だ。


 残りの五人の下級吸血鬼は有象無象なので紹介はカットで。

 とまぁ、下級吸血鬼と吸血鬼でタッグを組んで、五つのグループで行動することになった。


「よ、よろしくお願いするッス!」


 そして俺のパートナーとなったのは……。


「宜しく、ウォルター」


 ウォルターは、リリアーヌの弟だ。リリアーヌと同じように、魔人の頃と同じ、紫色の肌に青い髪、それと黄色い瞳を持っている。リリアーヌと違い、俺との相性が良くなかったのか、吸血鬼ではなく下級吸血鬼になってしまったのだ。


「俺たちの役割は、奴らが戦争するための理由を作ることだ」


 俺たち以外の八人は両国の貴族間同士で揉めさせる。俺たちは王族同士で揉めさせる。

 具体的に何をするかと言えば、お互いに挑発するような書状を偽装して送り合わせたり、両国の有力貴族を暗殺し、その罪を押し付けるとか、簡単な事だ。


暗殺それなら我々吸血鬼の十八番おはこですね」


「あぁ。じゃあまず俺たちはハイアット帝国に潜入だ」

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