第22話 宣戦布告


「帝都と言うだけあって栄えてんなぁ。今ここで都市ごと破壊すれば甚大な被害に……」


「リリアーヌ、それは無しだ。今から俺たちがやることは外道のそれだが、勇者が殺されたこと、宣戦布告された事を知る者が居なくなる。効率的に戦争するためにも相手の戦意を煽らねばならん」


「戦争ってめんどくさいですね。パシリしてる方が数百倍簡単です」


 あぁ、こいつ生粋のパシリじゃねえか。普通パシリと戦争は天秤にかけないよ。


「サクラ、良いか」


「はっ。……隠蔽解除!」


 俺の号令と共に軍を隠していた隠蔽が解ける。

 それなりの人数なので、上空にいても目立つのか、下にはこちらを見上げるか人間たちがよく見える。


『ハイアット帝国に告ぐ! 我らが魔王軍四天王であるリュシアン・ネクロを処した勇者を捉えた。我が軍の者を手にかけたということは宣戦布告と受け取ることとする。よって、この勇者を返すこともなければ生かすこともない。今此処で処し宣戦布告する!』


 自分たちが攻め込んだ事など棚に上げ、最高戦力である四天王を倒されたと言う主張だけで宣戦布告。まさに悪役の所業だな。さすがは魔王。対して相手……と言うより王宮からはバルコニーのようなところからおっさん達が出てきてこちらを見あげていた。

 焦ったような顔をしているが、口の動きでわかる。『あの勇者は魔王にしか殺すことが出来ない』と言っている。


 つまり、殺せるもんなら殺してみろってことだな。過去のことから人間的には魔王は戦線に現れない、と言うのが共通認識だ。絶対の神である魔王を失った魔族たちは混乱に陥る。過去がそう証明しているから。しかし、今最前にいるのは魔王。人々の予測など嘲笑うかのように今、勇者に手をかけようとしている。


 今ここで「ちょっと待った!」的なことを言う勇者、「話をしよう」的なことを言う王族など存在しない。誰もが「やれるもんならやってみな」と思っている。本当に可哀想な勇者だ。本当に同情する。が、ここで勇者を助けるのは俺の本望ではない。勇者を殺し人々を恐怖に陥れる。それこそが女神が嫌がることだと思う。それが俺の本望。さあ、殺せ、魔王。


「ふっ、こやつの生を願うものは無し、か。ならば苦しませず殺してやるか」


 そう言って、勇者に刺さっている複数のナイフを抜く魔王。あれは勇者が目を覚まさないように俺が刺しておいたやつだ。

 俺が心を込めて刺したユニコーンナイフも抜くと、すぐに勇者が目を覚ます。


「ん、んぅ」


「貴様はたった今死ぬ事が確定した。それではな」


 そう言って魔王は勇者凜の首をはね、その身体を燃やし尽くした。そして何を思ったのか勇者の首をハイアット王に投げつけた。まぁこれも宣戦布告のひとつだろう。


「ふむ、まぁこれくらいでいいだろう。帰るぞ。サクラ、頼む」


 魔王に頼まれ、転移系の魔法を発動する。全体を転移させる魔法は中々高度な魔法なのだが、普通に無詠唱で発動できてしまう。これも吸血鬼の恩恵なのかもしれない。なんて思って転移魔法を発動させた瞬間、帝都の複数箇所で爆発が起きた。

 犯人は言うまでもなく、エイジュだ。まぁ気持ちはわからんでもない。リュシアンのことを一番慕ってたやつだしな。なんて思っていると


「宣戦布告は終わっている。これくらいは許されてもいい」


 誰もダメなんて言ってないけどね。ただまぁ、攻め込んだ上に殺されたのはリュシアンだという現実を棚に上げ、一方気に相手を悪たらしめる言い草は中々に魔族っぽい。魔王城に戻ってからはエイジュのまわりに魔族たちが群がり、「良くやった!」などと言っている。

 うーん、これはこれで女神が嫌がりそうでいいね。

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