第21話 ユニコーン勇者


 side:サクラ


「あ、マルスさんと……誰!?」


 やばい、びっくりして普通に呼んでしまった。

 てかなんで凜がこんなところにいるんだ!?

 でも状況的には別に悪くはないなぁ。ここは正直に話して信用を勝ち取るべきか?


「なんだ、サクラ殿は彼女のことを知っているのか?」


「今は一方的に知っているだけだが……。あ~まぁ前世の親友の彼女的な?」


「前世……親友……彼女……。悠真君の親友と言えば桜杜さん?」


「あぁ、そう、桜杜。悠真と一緒じゃないの?」


 これは普通に疑問に思っていた。俺があのクソ女神によってこの世界に連れてこられたなら悠真もワンチャン犠牲になってると思ったんだよな。


「いや、私は君たちがいなくなってから一週間向こうの世界で過ごしてて……。でも神様の口調的に五年間生き残れば悠真君に会えるんだって!」


 へぇ、こりゃ良いこと聞いたな。状況的に凜は異世界の勇者である。そんで五年後に悠真も召喚されるのだろう。期間的に悠真の方が先に召喚されてもおかしくないが、凜が先に召喚されたということは、まぁ察しがつく。


「おぉ、それは良かったな。それじゃあ五年間生き残らなきゃな」


「うん! 桜杜さんも一緒に生き残――? え、マルス、、さん?」


「すまない、今はサクラに屈して魔族側に着いているんだ」


 完全に油断しきっている凜の心部をマルスの剣が突き刺し、凛が吐血する。

 異世界の勇者は、魔王以外からの攻撃を受けても時間が経てば回復する。心臓を刺しただけでは普通に意識があるし、多分すぐに治ってしまう。だから――


「うっ桜杜、さん?」


 ユニコーン、なんちって。予備で持ってた何の変哲もないただのナイフを凜の額に突き刺し脳まで貫通させた。

 ここまですれば気を失うらしく、力なく倒れた。


「よし、コイツが治る前に魔王様の元へ連れていくぞ。……飛べるか?」


「拙くても構わなければおそらく飛べる」


「よし、そんじゃあいくぞ」


 俺に着いていた吸血鬼隊は既に帰還させているのでスピードを気にせず帰れる。


 ◇


「クク、カッハハハハ!」


 カクカクシカジカを魔王に説明したところ、この反応だ。


「それで、九星仙人の一角である火星を味方にして更に勇者まで生け捕りにしてくるとはな!」


「まぁ、生け捕りと言っていいのかわからないですけど。それと、いくつか報告があります」


「申せ」


「はい、まずリュシアンがこいつに殺されました。直接見た訳ではないですが、彼が行った街にこの勇者がいたので状況的間違いないかと。それと五年後に勇者が再び召喚されます。それが今回含めて二人目なのか、はたまた三人目なのか分からないですけど、準備はした方が良いかと」


 凜から得た情報は五年後に悠真が来るという事だけ。この五年間の間に他の勇者が召喚されるかもしれないし、されないかもしれない。ただ、事態は最悪を想定して進めるべきなのは言うまでもない。


「そうか……。では臨時的にエイジュを大将に、あー、リリアーヌを中将に昇進する。正式な発表は後日だ。まずはこの勇者の処刑からだ」


「あー、待ってください、五年後に召喚される勇者ってのはこいつの恋人なんですよ。こいつを使えば効率的にその勇者を捕獲して持って帰ることも可能かと」


「……。一理ある。が、その場合の最悪の事態はこの勇者の脱走だ。五年間もそこに人員を割くことは不可能だ。今ここで処刑する」


 うん、魔王の言うことも一理ある。だが、俺のやりたいことは女神への復讐。ここで勇者を殺すより、召喚元の国で民衆の前でさらし首にするのも悪くなくないか?

 そう思い、そのことを魔王に相談する。


「ふむ、いい案だ。では我も出向こう」


「はい、それが良いかと。なんなら魔王軍総出で行くのも悪くないですねぇ。宣戦布告も兼ねて」


「良いな。では出立は三十分後で構わないだろう。留守はアラクネに任せる。軍勢を連れていく必要は無い。各軍から百名ずつくらいで構わん」


「はい。リリアーヌ」


「かしこまりましたー!」


 うん、やっぱりこいつはパシリが一番だな。

 ハイアット帝国に行くまでに凜が目を覚まさぬよう、側頭部と後頭部、更に心臓部にもナイフを突き刺しておく。ここまですればさすがに起きないだろ。……もうユニコーンじゃないけど。


 ◇


「壮観だな……」


「これでもまだ全体の万分の一程度なのだから恐ろしいな」


「いや、あんたの軍だろ」


「それは言わない約束であろう?」


 ここには、ジェイドを初めとする四天王達と、その部下百人が集結している。

 四天王とは言ってもリュシアンが殺されてしまったので、今は代理でエイジュが任されている。


「これより行軍を開始する。目標はハイアット帝国帝都だ。見せしめにこの女勇者を殺す」


「そこまで気負うことは無いですな」

「今回、我々はお飾りみたいなところありますしね」

「我らが巨人族だけで十分威圧できるというものだ」

「……」


 やっぱり自由だよな、この人たち。ちなみに俺含む吸血鬼隊数名は直前まで敵に悟られぬよう、隠蔽用の魔法をこの軍全体に施す要員として呼ばれている。

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