第20話 勇者の力


 side:リュシアン


「……はめられましたか。」


229にーにーきゅーより、人狼の裏切りが発覚した。各隊人狼狩りも視野に入れて欲しい』


 うるさいですねぇ。わかってますよ。今は返答している暇はない。目の前には裏切った人狼たちと女勇者。手勢の不死者達は全滅。この街の人間たちは生気を吸い取ることで全滅しましたが、状況は依然劣勢。

 人狼たちの事前情報により聖水を大量に用意されていましたか……。

 上位のアンデットである私に聖水は効かないですが、この数的不利は心に効きますねぇ。


「私は朝日凜。ハイアット帝国より召喚された勇者。貴殿の名を聞く」


 うーん、ここで名乗らないとダサいですねぇ。

 時間稼ぎも兼ねて簡単に自己紹介しましょうかね。


「私はリュシアン・ネクロ。魔王様より四天王及び大将の地位を賜っています。まぁ部下のサクラくんの方が強いんですけどね。ははは」


「全然笑えない。死んでもらう」


「――ッ! いきなり剣を振るうなんて礼儀のなっていないレディですなぁ。しかし私に物理攻撃は効かないんでs――」


「じゃあこれで死ね。光の聖域ホーリーサンクチュアリ


 うーん、まずいですねぇ。光属性の結界ですか。実力的にも向こうの方が上手と考えるのが妥当でしょうか。

 副官頼りになってしまいますが、時間稼ぎに興じますか……。


「貴殿、中々の実力者と見受けるが、このような戦は初めてかな?」


「うるさい! 私にはやらなきゃいけないことがあるんだ!」


 会話はしてくれるようですね……。短期での戦いを望んでいる訳ではないということですか。

 であれば時間稼ぎに乗ってくれそうですが……。

 仮に「口振り的に時間稼ぎが目的のようですね……。私も時間が必要になりました。ここは一時休戦にしませんか?」

 などと言えば、向こうは速攻を仕掛けて来そうですね……。

 であれば答えは一択ですか……。


「私には時間が無いので、早く終わらせますよ」


 ここで持てる限りの魔力ちからを解放する。

 魔力量だけならサクラ君に引けを取らない私の魔力量を目の当たりにした女勇者は一度距離をとりますが、間髪入れずに間合いを詰める。


「ひっ! きゃぁ!」


 だから、物理攻撃は効かないんですよねぇ。

 なりふり構わず剣を振るう女勇者に哀れみの感情を向ける。一度我を失うと人間はこんなにもなってしまうのですか……。

 人狼たちは魔法攻撃なぞ出来ないから戦力として数えないでいいでしょう……。

 問題はこの女勇者。物理攻撃は効かないと一度言ってしまったから気付かれるのも時間の問題ですか。

 ならば思考させぬよう攻撃の手を緩める訳にはいきませんね。


 ◇


 side:サクラ


222ニーニーニ、街の制圧を完了した。どこに向かえばいいか』


「エイジュナイス! 団長の方から連絡がない! 俺も向かっているから、エイジュの方は帰還して最悪の事態に備えてくれ!」


『了解。九星仙人は討伐したか?』


「あぁ、我が子にしてやったぜ」


 エイジュの野郎、スパダリじゃねぇか。こんなに早く終わらせるなんて。

 こっちの方も都市制圧が完了し、人族と人狼族の殲滅が完了した。人狼が、素の姿で人間たちと共闘していたところを見ると、この街の人達と人狼は関係を持ってそこそこ経つと言う見立てで良いだろう。時期的に見ても、人狼は派遣された当初から人族と関係を持っていたと考えてもいい。


「マルス、お前がやるべきことは心得ているな?」


「当然、承知している」


 マルスの口振り的に眷属にしたら洗脳したことになるのかと言う問いが生まれるが、答えはNOだ。俺と眷属の関係は普通に親と子供。しつけることはあれど、行動を制限し強制することは出来ない。マルスは俺と自身の力量さ、逆らえばどうなるのかを理解し、やらなければならないことをやる。実に物分りが良くて助かる。このまま九星仙人達全員を吸血鬼にしてやろうか。


 なーんてくだらないことを考えていると、リュシアンが攻め込んだ街、シャムの街に到着した。


 ◇

 side:女勇者、凜


 この骸骨、骨のくせにいい動き……!

 どんな事情かは知らないけれど、どうにかして早く決着をつけたそうに見えるわね……。


 私は時間稼ぎが目的だし、このままジリ貧を維持したいけれど、本当に物理攻撃が効かないの……? そんな種族聞いた事ないわ。魔法は効いていたようだし、物理攻撃を受けない代わりに魔法攻撃に倍率がかかるとか……? とりあえず不確定要素は無いものとして考えましょう。

 さっきの光の結界は避けているようだったし、状況から察するに光属性の魔法が弱点? それすらもミスリードの可能性も……。こうなったら片っ端から試すのみね。マルスさんが来れば勝ちは約束されたようなものだけれど、マルスさんが楽に戦いを進められるように少しでも弱点を探るべね。


「と、なればまずは“陽光よ、我を照らし給え”《サンライト》‼︎」


「“全ての光を喰らえ!”《ダークミスト》」


 うん、光魔法が弱点で間違いなさそうね。私の作り出した小さな太陽を包み込むように黒い霧を覆った骸骨は間一髪といった表情。まぁ骨からは表情なんて読めないけどね。太陽が弱点なのかはわからないけれど、もしそうならこんな時間に攻めてきたのにも辻褄が合う。なら、やることはひとつね。闇で覆うことの出来ないくらいの光を生み出し奴を切り裂けば良いッ!


「“なんじ、光の加護を授さずかりし者 、天啓の如ごとくその身を貫つらぬきて、気高き天より切り裂さけ”! 《ジャッジメント・ライト》」


「なッ!“ひ、光を包みし漆黒よ、その全てを黒に染め上げ我が力に還元せんとす。かえし力は我が望みのままに汝を討ち滅ぼす闇とな――」


 ――チュン


 ド派手な音なんてない。落ちた雷のような光に撃たれた骨の魔族――多分リッチ――は、消滅した。

 勝った、勝てた!

 意外と呆気ない終わりに見えるが、私が放ったのは光魔法の中でも上位の魔法。それに奴が対抗手段として切った魔法カードは闇魔法の中でも最上位。それくらいの魔法を使わなければ対抗出来ないと思ってくれたんだろう。ただ、あの魔法の詠唱がやたら長すぎるおかげでなんとか勝てたと言うのが内訳。


「……。はぁ~~~。緊張したぁぁ」

 あぁ、疲れた、お腹空いた、眠い。


 今回の戦い、人狼達の寝返りがなければこの街の住民全員がアンデッドにされていた可能性がある。しかし、私達の戦いの影響で辺りの建物は破壊され、周りを取り囲んでいた人狼たちは息絶えていた。自業自得と言えばそうだけど、少し申し訳ない。

 人狼たちの事前情報のおかげで住民たちを予め避難させることが出来たので被害は建物だけとなった。


「凜殿!」

「え、凜!?」


「あ、マルスさんと……誰!?」

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