第18話 勇者召喚
「今回集まって貰ったのは他でもない、異界の勇者が召喚された。それも魔王領から一番近いハイアットで、だ。勇者が成長する前に国ごと叩く。良いな?」
リリアーヌを眷属にしてから数週間後、幹部会議で魔王から異界の勇者すなわち真なる勇者の召喚が告げられた。
「では先方は我が軍に任せていただきたい」
「それは些か早計ですなぁギガスさん。ここは軍の補充が可能な我が
「私は魔王様の選択に従う」
「デック殿に同意ですな」
四天王の意見はふたつに別れた。先方……つまり一番槍を務めたいギガスとリュシアン。どっちでも良くて魔王の意見を尊重するルブさんとジェイド。
「ふむ、では
「おまかせください」
「はっ!」
「……」
エイジュさん、リュシアンに着くもう1人の副官だが、寡黙な人だ。種族はワイト。俺の補佐として控えているリリアーヌに目線で合図を送ると意図を理解し、会議室から退出していく。今回俺は手勢の吸血鬼隊だけで行くつもりだから準備させておかなければならん。
「では020は直ちに行動せよ。他部隊は話し合いの続きだ」
◇
「
「ご苦労。これよりハイアットへ向かうが、俺たちが攻め落とすのはアイザンという都市だ。喜べ、
ハイアットの皇帝は非常に優れた人物だ。もしかしたら三都市のいずれかに勇者を派遣しているかもしれない。
「っしゃあ! やったろうじゃねぇか!」
「一人ずつ確実に屠る……」
「ノルマ達成すればそれでええんやで」
魔族……吸血鬼と言ってもみんなに個性があるから三者三様の反応だが、共通してるのは血気盛んというところだろうか。
「残念だがネームドは俺の獲物だ」
そういうと皆が「仕方ない」と口にする。強者には逆らわない習性なのは喜ばしいことだ。
「そんじゃあサクッと都市制圧だ。行くぞ」
翼を出し、飛び立つ俺の後ろに約五十の吸血鬼が続く。
◇
side:ハイアット帝国
「ふう、ようやく勇者召喚の許可が降りたか。国中の魔法使いを集めよ」
「はっ! それともう1つご報告が」
「なんだ、申せ」
「はっ、どこから情報を得たのか、ロウアットより助力するとの申し出が……」
ちっ、勘のいい奴め。スカルドラゴンの死は既に伝わっているはず……。となれば我が国が勇者召喚に走るのは想定内か……。正直ありがたい申し出ではあるが相手はロウアット。あの狸爺の考えることくらい想定しておくべきであった……。
「とやかく言ってられんな。申し出を受け入れる旨を伝えてくれ。出来ればテルース殿を呼んで欲しいものだが……。それとマルス殿にも応援要請をしておけ」
「はっ!」
◇
side:???
悠真君と
「
「麗奈ちゃん……。心配だよ。でも悠真君が何も言わずにどこかに行くなんてありえないと思うからちゃんと帰って来てくれるはず」
「厚い信頼ねぇ~。私は彼ピッピが失踪したら一年は寝込むね。そうでなくとも好きピッピの桜杜くんが失踪しただけで三日寝込んじゃったし」
「麗奈ちゃんは学校をサボってただけでしょ。髪も金髪でワイシャツのボタンなんて閉めてないじゃん。なんでそんなギャルになっちゃったかなぁ」
「凜ちゃんこそ清楚系貫いちゃって。あんたの彼ピッピだってチャラチャラしだしちゃって。その点、桜杜くんは硬派なイケメンだよね!」
その分ファンが多すぎて近づけないよなんてことは思うだけにしておこう。
麗奈ちゃんと何の気なしに話してはいるけれど内心悠真君のことで頭がいっぱい。
彼が私の事甘やかすからもう彼なしじゃあ生きて行けないじゃない。どうしてくれるn――
『見つけた』
えっ、?
一度瞬きし、瞼を開けた時そこには知らない空間が広がっていた。
長く伸ばした金髪に健康的な肌。翠色の瞳に女神と言っても過言では無い儚げな面立ち。そして玉座に座る姿から溢れる圧倒的な強者感。私はこの人を神だと即座に認識した。
「あら、今回は分を弁えた子が来たわね。というかそもそも桜杜とかいうあのクソが例外なだけよ」
桜杜……?
「あ、あの! 今、桜杜と言いましたか!?」
「えぇ、言ったわ」
「それでは、その、あの、悠真という男の子を知りませんか!?」
つい興奮して何も考えずに喋り出してしまった。私の悪い癖だ。言うことを決めてから喋らないとダラダラと続けてしまって話が纏まらない……。
「えぇ、知ってるわ。二人とも別の世界に転移・転生させたけれど、ね。桜杜とかいうヤツは生意気だったから骨に転生させて~、悠真とかいう男は見た目に反して誠実そうだったから勇者として転移させたわ」
桜杜さん……、ちょっと生意気なところあるけど神相手には謙遜しなきゃダメだよ……。でも悠真君は勇者として転移かぁ。流石だなぁ。私も悠真君と同じ世界に行きたい!
「あ、あの! どんな形でも良いので悠真君の世界に私も連れて行って貰えないでしょうか……!」
「ふぅん。まぁポテンシャルは彼に劣るけどいい物を持ってるわね。
ダメ元で頼んだらOKもらってしまった。五年間生き延びるという条件付きで。でも、私はそろそろ16歳だし五年間なんてあっという間のはず――
「――あぁ、先に言っておくけれど、あなた達が行く世界は剣と魔法の世界。命なんてものは日本と比べたら軽すぎる物だわ。いくらポテンシャルがあると言っても、日本でぬくぬくと育ったあなたが五年間生き延びる保証はないけれどいいかしら?」
全てを見透かしたような瞳でこちらを見つめて来る女神に対して否定の言葉を出せず、ただ頷くしかできない。でも五年、たった五年あれば悠真君にまた会える。それなら答えは一つよ。
「もちろんです!」
その瞬間、再び私の見る世界が変わった。
◇
「お初にお目にかかる、勇者殿。余はハイアット帝国の皇帝である。この度は召喚に応じて頂き感謝の言葉も出ない……」
「いえいえ! 事情は女神様から何となく聞いています! 五年後にさらに強い勇者が来ますので、私は戦線の維持に努めたいと思うのですが大丈夫でしょうか?」
「それだけでもとても助かる。貴殿の剣の師となる者を用意している。その者に剣を教わりながら戦線へ向かって欲しい」
「わかりました! 任せてください!」
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