第17話 家畜村
――ドスン!
「ほれ、今日の肉だ食え」
「「ひ、ひぇ」」
俺がやってきたのは畜舎……もとい人間の村。
安定して血を得るために人間の村のひとつを支配しているのだ。健康な人間ほど血は美味いのでこうやって毎日強い魔物を狩っては持ってきている。かれこれ一年くらいやっているものだ。
魔物は強い種族ほど肉に魔素を含んでいて味がいい。それに肉体を強くしてくれる。ステータスが上がる訳ではなく、健康になると言う意味だ。ここの村は人口約百人の本当に小さな村……というより集落で、一年前から魔王の提案でこいつらを飼うことにしたのだ。
自分たちで野菜を作らせているし、肉も毎日与えている。初めて見た時はやせ細った奴らしか居なかったが、今となってはみんな血色のいい村人ばかりだ。
そしてこいつらの血はめちゃめちゃ美味い。魔王の血を少し貰ったこともあったが、吸血鬼の味覚的に魔族の血よりも人族の血の方が美味しく感じる。配下の吸血鬼達も時々ここに来ては血を啜って帰って行くものだ。
「何か困ったことがあったら言えよ」
「……あ、あの!」
「なんだ、早速困り事か?」
「いえ、そういう訳ではなくてですね……」
「……。うじうじすんなよ、早くしろ」
魔族である俺を恐れているのか、吸血鬼である俺を恐れているのかあるいはそのどちらか知ったとこではないが、ここの村人たちが俺に対して恐怖心を抱いているのは事実だ。
「その、なんでここまでしてくれるんですか? 私たちは見放され、ろくな生活も出来ていなかったのに……」
「だから、だよ。極限まで衰退していた村をあえて狙ったんだ。俺のお陰でみんな十分以上の暮らしができているだろう? そうやって俺に依存してくれ。血を分けてくれればそれで良い」
どうやら魔王領に一番近い人族の村として国から補助金が出ていたが、ここ数年はどうやらそれが止まってしまっているらしい。
ちなみに魔王は地図で言うと東北統一を果たしている。この人族は、日本地図で言うと山形県辺りに住んでおり、「北方も人族の支配領域」を示すためにここに住まわされていたとか。
補助金を打ち切られ、貧困に喘いでいたところに俺が現れ、幸せな生活を送ることが出来た、と。
「はい、そうさせていただきます。では依存ついでにホロホロ鳥を狩って来てください。それが私の望む幸せです」
「ははっ、随分と図太い神経だな」
「褒めとこばとして受け取っておきますね」
「あいよ」
いやぁ、実に面白い村長だ。若くして村長の座を継いだだけはある。明日はホロホロ鳥を狩って来るかー。こっちの世界のホロホロ鳥はB級下位の魔物だ。並の人間じゃあ太刀打ちできない。
あいつはいつか眷属にしてやろうな。
◇
数日後
「やっぱルブさんのとこは丁寧に狩りされていて良いですね」
「えぇ、これなら強い個体が生まれる確率が上がるというものです」
「そ、そんなに褒められても魔物狩りしか行かないぞ」
数日後、どうやら俺の予想は正しく、ルブさん自ら隊を率いて魔物狩りに行ってきてくれた。獣王も一緒だったようで、少し傷が多い魔物は獣人達によって狩られた魔物らしい。
「ダークエルフってのは魔法も上手く扱えるんですね」
「まぁな。魔法が得意とされるエルフとほぼ同じ種族だしな。肌の色が違うだけだ」
へぇ、そこに能力の優劣はあまりないのか。
「そういえばサクラ、君宛に手紙を預かっている。すまないが検閲済みだ」
「ありがとうございます」
ルブさんから受け取った手紙を受け取り、中を開ける。
……へぇ、そうかそうか。確かにあいつは相性は悪くなさそうだし。うん、良いね。
「それじゃあ用ができたので少し席を外しますね」
「はい、どうぞ」
「あぁ、私は魔王様に用があるのでな。私も席を外す」
◇
「よう、数日ぶりだな」
「ひぇっ! ってサクラ中将!?」
うん、この前パシリにしたこの魔人の女は古参の魔人だったようで、色々な場所に駆り出されているらしく、探すのが大変だった。
「そこまで驚くことじゃないだろ。それに、ちゃんと褒美を欲する手紙を書いたそうじゃないか」
「あ、はい! もう読んでくれたんですか?」
「まあな、それで、眷属化だよな。いいだろう。お前は相性良さそうだし
「あ、ありがとうございますま――」
パシリ……
「ヤベェなこいつ」
吸血鬼に進化したリリアーヌの周りには大量の魔力が渦巻いている。さすがに上級吸血鬼では無いだろうが、吸血鬼族の中では上位の個体だ。
「な、なに事だ!」
「こっちだ急げ!」
すると、普段暇にしている警備兵達がよってきてしまった。
「これはサクラ中将! 既に異変を察知して駆けつけてくださっていたのですね!」
「いや、多分お前たちの言う言えんとやらは俺が原因だ。済まない、戻っていいぞ」
などという一幕はあったものの無事にリリアーヌの眷属化が成功した。
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