第二部 侵略編

第一章 協商・同盟編

第15話 魔王軍の事情


「リュシアンさん、不死者アンデッド達なんですけど、魔王様からもう少し数を多く出来ないかと言われています」


「いやぁ、私も増やしたいと思っていますよ、思っていますけど……」


 魔王城にあるリュシアン専用の不死者生成工房にて、俺とリュシアンさんはある一点を見つめてため息をつく。


「あの状態じゃあ戦力にすらならないですねぇ」


「そうですよね、確か担当はギガスさんでしたね、魔王様に言って担当を変えてもらいましょう」


 俺たちが見つめる先には山積みになっている魔物の死体。これはギガスの軍団が持ってきた。

 魔王より、不死者を増やすよう言われているが、元がなければ作り出すことは出来ない。なので、魔物を狩って持ってきて欲しいとギガスの方にお願いしたのだが、五体満足の死体はゼロだ。どこかしら損傷していて、このまま不死者化したところで大した戦力にならない。

 もうちょっと丁寧な狩りをして欲しいものだ。


 あぁ、ちなみに、他師団の副官修行を終えて今は第二軍団の副官をやっている。

 それと、全師団は解体されて軍団に呼称変更となった。その理由としては師団と言うには人数が多すぎるからだ。我々第二軍団は約十万の不死者を従えている。しかし、その量を一人で捌くのは無理なので、二個軍団に分け、ひとつはリュシアンが、もう一個軍団は俺ともう一人の副官が指揮権を持っている。


「おい、そこの魔人の使用人!」


 と、外で魔人の使用人が庭園を歩いているのを見つけた。

 魔人族は姿形がひとつの形に定まっている訳では無い。一応全ての魔人はその名の通り人型をしている。肌の色は青だったり赤だったり色々だ。これに関しては人種としか言いようがない。黒人だったり白人だったり黄色人種だったり、そんなのと同じ。ただここに差別はない。色によって顔がいいとか身体能力が高いとか魔法を扱うのが上手いとか特にない。あとは異形の角を有している。真っ直ぐ生えたツノやうねったツノ。曲がったツノもある。また、一本だけ生えている者もいれば二本三本生えている者もいる。これに関しても見た目が違うだけらしい。特に能力に差は無い。もっとも、生まれた場所によっては身体能力に差が出るかもしれないが。


「は、はい! なんでしょう中将閣下!」


 俺が呼びつけたのは給仕メイド服を身につけた女の魔人。紫色の肌に肩くらいまで伸びた青い髪。黄色い瞳をしているが、本当に慣れない。ちなみに呼び方も全然慣れない。


「少し頼み事をしたいのだが良いか?」


「はい! サクラ中将のお願いとあらば死地へでも向かいます!」

 うーん、この忠誠心、流石は魔人族と言うべきか。強き者の命令には命懸けで従うのは実に魔族らしい。


「うん、別にそこまでは求めてないけどね。魔王に伝言を頼みたいんだ」


「魔王様への伝言……。まさに死地へ赴き!! 是非やらせて欲しいです!」


「お、おう。じゃあ031さんいち隊の任務を240にーよんれー隊に引き継ぐようお願いしてくれ」


「はい! サンイチからニーヨンレーですね! 行ってきます!」


 そういって魔人の女は走り去って行った。ちなみに031とか041とかは大きくなった魔王軍の中で分かりやすく部隊を伝える方法だ。

 百の位は部隊の種類。0ならば軍団、1なら師団、2ならば大隊。3以降は諸事情で存在しない。

 十の位は所属部隊を表す。0は魔王直属……つまり近衛兵。1はジェイド、2はリュシアン、3はギガス、4はルブさんに所属していると言う意味。

 一の位はより細かく分類したもの。0の時はどこの部隊でも良いと言う意味。要は上官に一任するということ。ここで言う上官は魔王やジェイド、ルブさんたち四天王。

 112いちいちにーとかだと、ジェイド所属の第二師団と言った具合に。中隊や小隊、分隊規模になるとそれはまた別の呼称方法があるのでそれはまたの機会に。

 他には099きゅーきゅーがあり、これは「戦場にいる全軍に告ぐ」という意味がある。



 今回俺が指示を出したのは031から240への変更。

 つまりギガスのところの第一軍団からルブさん所属の大隊に変更してくれという意味。一の位を0で指定したので、どの大隊でも良いという意も込めた。

 ルブさんのことだし、新たに大隊を再編成して来るのではないだろうか。


「とりあえず伝言は頼んでおきました。ルブさんのところなら丁寧に殺してきてくれるでしょう」


「ありがとうございます、サクラくん。では不死者に出来ないこの死体たちはゾンビ我が子の餌にしてしまいましょう。手伝ってください」


 第三軍団は唯一魔人族の居ない軍団だ。リュシアンが手ずから作り上げた不死者約十万を二個軍団に分断しているのだ。中には人族の不死者もいる。人間側には気づかれぬよう、村を襲撃して不死者にしているのだ。

 他にも俺直属の吸血鬼隊約五十名もいる。もちろん厳選しているので下級レッサーは居ない。全員吸血鬼族だ。


 今は俺の手元には居らず、秘密裏に各町に派遣している。


「……いつ見ても凄い光景ですね」


「わたしは何も感じませんよ。月に一度食事を与えるだけで稼働してくれるので、燃費は良いですし」


「まぁ我が子ですもんね。それに屍鬼やワイトなんかは自分で餌を取ってきますし偉いですよ」


 ちなみに吸血鬼は月に一度血を一滴飲むだけで普通に生きていくことが出来る。戦闘をしたり無理に魔法を使いすぎたりしたらその分血液を欲するが。

 ――トントントン


「おや、誰か来たようですね」


※あとがき。

補足情報。

第二軍団約十万の内訳。

ゾンビ、スケルトン→約八万。

屍鬼、ワイト→約二万

屍鬼、ワイトは腹が減れば自分で魔物を狩って捕食する。

サクラの直属の吸血鬼達の食となる血は魔王軍により飼われている人間から採取している。

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