第14話 拡大する魔王軍
「青槍!」
この指示の意味は青竜人による槍の投擲攻撃。
緑、黄竜人が各々の得意属性で槍なり剣なり生成し、ステータスを力に振られている青竜人が投擲する。
これが第一師団に仕込んだ技と言えば技なのだが、飛翔して三次元の戦いをすること自体仕込んだ技なのだ。
こいつら、竜人のくせして、二次元の戦いをするから、自分達の長所を全部捨てて戦っていたのだ。
例えば、こいつら各色で固まって戦っていたのだ。青赤は近接戦闘職人なので飛ぶ必要が無い。緑、黄も「竜人のプライド」などと意味のわからんことを言うので、そのプライドを打ち砕いてやった。
具体的には地面から戦う竜人たちと一人で空から戦う俺で模擬戦をやったのだが、当然彼らの攻撃が届くことなく、一方的な蹂躙劇で幕を閉じたのだ。身をもってしたったことで、彼らも三次元的な戦い方に肯定的な意志を示してくれた。
その結果がこれ。
竜人を分隊に分け戦わせる実戦がまだであるが、三次元的戦いの実戦が出来たのはデカい。
「人狼族よ! 降伏せよ! さすれば殺しはしない!」
拡声魔法を使い、人狼全体に呼びかける。しかし、この呼び掛けが逆効果だったのか、人狼族は遠吠えを上げ、再び交戦体制に入る。
「竜人の王よ、それは本当であるか!」
竜人の王……。多分俺がこの竜人達を束ねていると思っているのだろうか。ジェイドさんに視線を向けると、頷いているので、そのまま向こうの勘違い乗るとしよう。
「事実だ! 我々の目的は、人狼族を魔王軍に迎え入れること。話し合いがしたい!」
「その言葉、信じるぞ。アォーーーン!」
声を上げていた人狼が遠吠えをあげると、人狼達の動きが止まる。あの者が人狼の主なのか。
その者は遠吠えを上げ終えると、二足歩行のオオカミの姿から、人型の姿へ戻った。人狼の主は初老の男だった。
「あのような凶悪な姿よりこちらの方が話しやすかろう」
うむ、なんという心遣い。さすがは人狼の王。
「総員降下!」
ジェイドさんの指示で全ての竜人が地面に降り立つ。俺たちの前には先程叫んでいた人狼の王……いや、長の方が合うのだろうか。
◇
「なるほど……。それではようやく魔族の報復が始まるのですな」
「あぁ。だが、今は戦力増強中でな、魔族全体を味方につけるところから始めている」
「それでは魔王様は我々人狼に何をお望みかな?」
「人狼には人間の姿で人族の街に侵入し、戦争が始まれば街の中で暴れて貰いたい」
「それにはリスクが大きすぎますな。我々が暴れたところで魔王軍が攻めて来なかった場合我々はすぐに鎮圧されてしまうでしょう」
「お前、さっきからなんで交渉しようとしてんの? 負けたんだから従えよ」
今回は黙って見ておこうと思ったのだが、ジェイドさんに交渉しようとしている人狼に少しイラッときてつい口出ししてしまった。
「し、しかしそう言われましても……」
どうやら、こいつらが魔族らしく強者に従わない理由があるらしい。
曰く、前魔王が死んだあと、後退した魔族とは対照的に人狼は人の姿で人の街に住んでいたらしい。その際に人間のような生き方を学び、それが染み付いてしまったらしい。全くだらしない奴らだ。
さらに人狼の話によれば、オオカミの姿がデフォなんだとか。変身して人間になるらしい。まぁそりゃそうか。魔族だし。
「てめぇらが人間領で暮らしてたとか知らねぇよ。だから魔族らしく強者に従えよ」
うーん、自分で言っておきながら種族ハラスメントが過ぎるな。
「わ、分かりました。魔王様の軍門に降らせてもらいます」
「うん、分かればよろしい」
こうして人狼が魔王軍に加わった。
◇
人狼が味方に加わってから三年。魔王軍は着実にでかくなって行った。
まず各地に散らばっていた人狼も味方に引き入れ、多種多様な魔族が魔王の軍門に降った。一番厄介だったのはやはり人狼だった。人としての生活を知った以上、魔族としての本能が薄れてしまい、どの部族も交渉を求めてきた。まぁ全員力でねじ伏せたが。
多様な種族と言えば、魔人族の存在が大きかった。魔人族とは、人間で言う人族。魔人族こそ、生粋の魔族。つまり吸血鬼や、巨人族、魔王である鬼人は魔人族からすれば亜人。
しかし、彼らには亜人の治める国に属するのが嫌という考えがない。強者に従う事が出来て嬉しいとすら思っている。
他には
ゴブリンとかオーク、オーガなんてのは魔物の類いだと思っていたが、この世界ではその感覚は間違いらしい。
魔族と魔物の差は二つ。一つは喋ることが可能な種族。二つ目は二足歩行である事。だから獣の類は魔物になる。イノシシの名を冠するオークですら二足歩行で会話での意思疎通が可能なことから魔族もされている。
まぁ後は食べる部分がないことだろうか。俺の知識ではオークなんてのは豚で、狩れば食べるなんてのが異世界の常識だと思っていた。だが、オークを始め、オーガもゴブリンも人間が食すには少々癖が強すぎるのだ。
◇
※あとがき
第一部完結ですので、次回から第二部となります。
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