第13話 戦闘開始


 二日後、予定通り今日は人狼の集落へ赴く予定だ。生粋の魔族である人狼に話し合いは不可能なので、武力で従わせるらしい。悪役っぽくていいね。


「傾注」


 青竜人の副官であるパラゴナの号令で集まった二百の竜人が注意をこちらに向ける。


「これより、人狼の集落へ向かう! 我々の任務は殲滅では無く、服従させることである! 人狼はその後魔王軍として迎え入れる予定であるため、なるべく捕獲という形式を採用する! また、人狼の数は我々の倍だ。言っていることがわかるか? 圧倒的勝利が求められる! 貴様らにはそれが可能だと信じている! 我の期待を裏切るなよ!」


『応!!』


 ジェイドさんのスピーチを聞き、士気がMAXな竜人。この勢いのまま、進みたいものだ。


「では我に続け!」


 ジェイドさんが地面を蹴り、空へ飛び立つ。その後ろを竜人達が列を乱さずに着いていく。

 数秒もすればそこにいた竜人達は皆、飛び立って行った。残ったのは俺と青竜人の副官であるパラゴナだけ。俺は隊列の最後尾を任されているのだが、パラゴナさんは違う。今回はお留守番だ。今回動員されなかった竜人たちの指揮・監督をすることになっている。本当はこっちに俺を置く案もあったが、吸血鬼の戦いぶりを見てみたいとのことで動員されることになった。


「それでは行ってきますね」


「はい、お気を付けて。こちらは任せてください」


 それだけ言葉を交わして、俺も飛び立つ。太陽に耐性自体はあるのだが、無効という訳では無いので、ローブのフードを深深と被って、みんなの後を追う。

 数時間も進軍すれば、人狼の集落が遠目に見えてきた。海辺に面していて、周りには森が広がっている場所にその集落は見えた。

 そこで、ジェイドさんが進軍を停止し、こちらを向く。


「間もなく人狼の集落だ! これより作戦を開始する! 各員所定の分隊を組め! 」


 ここで新たに導入したのが、四人一組の分隊を作ること。今まで竜人は色毎に部隊を組み、戦っていたが、各種から一名ずつ一個分隊に四種の竜人がいるように形成する。一つの少人数部隊で前衛後衛の分担がハッキリしているため、竜人の強みである機動力がさらに強みになる。

 今までは色毎で固まっていたせいで、素早く行動することが出来なかったが、そのデメリットを打ち消す策というわけだ。少数なら移動に時間はかからないしな。


 そして、各分隊を降下させる。空から攻めるとバレるので、地面を走って攻めるのだ。


 ――ダダダダ!!


 竜人たちの行進は静かに、されど勇ましく行われる。そのまま数分も走ればやがて人狼の集落が見えてくる。


「おいおい、誰だよ、集落とか言った奴……」


「せ、先遣隊からの報告でしたが、これは先遣隊の練度を改める必要がありますな……」


 俺の呟きに反応したジェイド。可能性はいくつかあるが、ジェイドさんも俺と同じ考えだろう。憶測に過ぎないことをここで口に出す訳には行かない。その先入観で先遣隊を見てしまい、妥当な決断が出来ないからだ。


 然して我々の目の前には集落や村では言い表せないほど大きく、街と言うには小さい人狼の住処があった。この規模だと人狼の数はおよそ500人は下らないだろう。その数倍はいるとみていい。気配を察知した限りでは、万を超えた集落と見える。

 森を抜ける少し前に軍を一時停止させ、作戦を改める。


「先遣隊の情報以上に敵が多いことが発覚している! 出来れば無力化をして欲しいが難しい場合は殺しても構わん! 以上!」


 それだけ言ってジェイドさんが俺の方を向く。

 あぁ、そういう事ね。


「魚鱗の陣で進め!」


 竜人達は返事することなく、再び行進し始める。しかしそのスピードは異常だ。陸上の短距離選手の倍以上のスピードで進む。装備を付けている状態で、しかも、ここで本気を出すわけにもいかないから、かなりセーブしているのに。やはりこの世界が元の世界と全く別の世界であると、思い知らされる。ちなみにジェイドさんの部隊と俺は最後尾だ。


 ―――カンカンカン!!


「ワォーーーン!」


 門番をやっていた人狼が鐘を四回ならし、オオカミの姿に変身し、叫ぶ。

 まぁ、ここでバレるのも計算通り。俺達には理解できないが、あの遠吠えひとつで色々な情報を共有しているのだろう。実に便利だな。

 そんなことを悠長に考えている間に門が開き、多くの人狼が飛び出す。


「散開ッ! 鶴翼の陣!!」


 竜人の先頭部隊と人狼が激突しそうなタイミングで散開を命じる。三角形を形作っていた陣形は前方から裂けるようにVの字に変形する。

 そして最後尾、ジェイド隊と俺たちと人狼の戦士が激突する寸前。


「飛翔!! 赤ブレス!!」


 ――キィィィン!


 そう指示したは良いが、人狼の太く長く伸びた爪が飛び遅れた竜人に向かっていたので、こちらも吸血鬼の鋭い爪で防ぐ。その時間稼ぎのおかげで飛び遅れた隊はなんとか飛べたらしい。

 それを確認し、俺も飛び立つ。

 赤ブレスと指示したのは赤竜人による炎のブレスのこと。人狼の里が作る外部からの攻撃を守る壁は木製でできた杭のようなアレだったのだ。これはよく燃える。

 みるみるうちに外壁は崩れ、人狼たちは悲しみの遠吠えを行う。


「構わん、続けろ! 青槍!」


 竜人による第二攻撃が始まる。

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