第12話 第一師団の内情
「ジェイドさん、おはようございます」
「サクラ殿おはようございます。いやはや、サクラ殿のおかげで第一師団は格段に成長しましたよ」
「そうすか? それなら良かったですけど、相変わらずそれ好きですね」
「竜人の好物ですから」
朝、食堂であったのは、バッタ炒めを皿に盛り付けたジェイドさん。一週間ほど副官見習として経験を積んできたが、わかったことがある。竜人の好物はトカゲ寄り。バッタとかダンゴムシの魔物とか好んで食べてるんだよ。それに付随して、種族ごとに師団が別れている真の理由も理解した。
「自分と同じ種族の長に従うから」前にこう結論づけたが、早計だった。兵糧の違いから種族ごとに師団を分けていたのだ。竜人はバッタなどの昆虫飯が好きだし、ギガス率いる巨人族とかは肉食だ。食べるものが違えば、色々な種類の食料をもって遠征に行かなければならない。そういうのを避けるために種族毎に師団が別れているのだ。道理でアンデッドである俺が第二師団に放り込まれる訳だ。多分、第二師団の副官が戦死した云々は嘘かもしれない。
リュシアン率いるアンデッドは雑食でなんでも食べるらしい。スケルトン系は倒した魔物の魔力を餌にするんだとか。
吸血鬼の俺は血が好きなんだけどね。
「それより、この生活には慣れましたか?」
「はい、第一師団の副官の皆さんは優しいので、仕事とかはわかってきました」
第一師団の副官の仕事は主に部下の育成と戦術の考案。
部下の育成面では単純な戦力アップに戦術を叩き込む。ざっくりとこんなもんだ。
戦術考案面では第一師団における陣形の変更や、より流動的に敵を倒す陣形の考案が行われている。
今までの第一師団は所謂、魚鱗と言われる陣形を作って戦っていた。魚鱗とは兵を三角の形に配置し、大将を底辺の真ん中に配置する戦い方だ。遊軍が多くなるため全体的に自由に動き回り易くなるが、これでは魔族の強みが活かせない。魔族の強さは人間からすればほぼ全てが自分より格上。副官、師団長になると一騎当千なんて言葉では表せないほど強い。魚鱗ではその強い者が戦い方難いので、早々に廃止させた。
もちろん、魔族が魚鱗を愛用している理由もわかる。魔族は自分の王、第一師団で言うとジェイドさんだが、その王がいなくなることを想定していない。理論としては「自分より強いあの人が負けるわけない」だ。そんなわけで、指揮官が死ねば一気に士気は下がり、指揮系統も壊滅し、一気に戦況が崩されてしまう。なので、極力師団長クラスは直接戦うことは無い。
しかしそれでは宝の持ち腐れも良いとこなので、所謂、鶴翼を提案したのだ。両翼をVの字に兵を配置し、敵軍を囲む戦い方。囲むまで大将であるジェイドさんの守備ががら空きだが、それでいい。ジェイドさんには先陣切って戦って貰うのだ。そうすることで魔族側の士気が上がり、敵軍の士気が下がる。
まぁこれは地上戦の話。空を飛べる竜人には他の陣形も提案している。
「それは良かったです。魔王様からは二週間ほど副官候補として経験を積ませるよう言われています。ここからは実戦に移ってもらいます。少し南下したところに人狼の集落があります」
そう言って地図を出てきたジェイドさん。ジェイドさんが指さしたのは岩手県の上辺り……久慈の辺り。海に面している土地っぽい。
「北部はギガスが制圧予定なので、制圧する前から南下する作戦です。なにか質問はありますか?」
「えーっと、人狼の集落には何人程度で攻める予定ですか?」
「人狼の集落は500人程度と想定しています。格の違いを見せるためにも300……いや、200人程度で攻めるのが妥当ですね」
「なるほど。では各竜人から50人前後選抜して出向く形ですね」
「予定ではそうですね。出発は二日後です。準備しておいて下さい」
「はい」
そう話しているうちにジェイドさんはバッタ炒めを食べ終えて食堂を後にする。
ちなみにギガスが制圧する「北部」とは、青森県のこと。さらに豆知識で、人間の生息域は東北以南。つまり、東北地方は魔族が住んでいる。しかし、人間は魔族が住んでいるところさえ人間の領土だと言い張り、攻めてくるらしい。そしてそこに住んでいる全てが魔王に味方している訳では無いので、魔王は青森県に拠点を構えているのだ。
だから、目先の目標は東北統一。その後南下し、人間の領土を踏み荒らす。
人狼の後は、懐柔しやすい東北南部……福島辺りにいる魔族を狙おう。人間からの脅威を救ってやれば魔王に靡くだろう。
そうとなれば行動開始だ。俺は、食べていたオーク肉の生姜焼きを平らげ、南下の準備を始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます