第11話 第一師団


「なるほど。では北の懐柔は成功したと」


「はい。獣軍の件については事後報告で申し訳ございません」


「よいよい。我の意図を汲み取った上での提案であろう? ならばそれで良いのだ」


 城に帰ってきた俺たちは早速魔王に報告しにやってきた。最初に魔王とあった場所だ。やはりあそこは謁見の間も兼ねているらしい。そして今回出向いた俺たち四人は魔王の前にて膝をつき報告をしている最中である。ちなみに『北』というのは獣人の事だ。


「しかし、サクラを連れて行って正解であったな。お主らも魔族の交渉の仕方を学んだのであろう?」


「はい。ですが、魔族のやり方ですと、我々ダークエルフには手に負えないとも実感致しました。対魔族の交渉に関しては我々は力不足にございます。ですので、今後魔族との交渉の場には主役として出るべきではないと感じました」


「ふむ、良い心がけだ。今後は魔王国の拡大を考えている。その際、魔族との交渉には第一師団が主に出向く。第四師団はブレーンとして随行して欲しい。もちろん、お前らアラクネもな」


「ハッ!」

「はいっ!」


 ルブさんもアトラナートさんも嬉しそうに返事をしている。やはり魔王に頼られると嬉しいのだろう。なんせ、自分の決めた絶対神に褒められているのだ。そりゃ嬉しいだろう。


「サクラについてだが、今日から早速第一師団の副官補佐に入るように。それと獣軍はお前の指揮下だ。お主が懐柔したのなら責任もって面倒みろ」


「ハッ」


「ジェイド、サクラを案内せよ」


「かしこまりました」


 魔王は後ろに控えていたジェイドに指示を出し、俺を案内するように命じた。ジェイドが「行きましょう」と言って歩き出したので、その後ろを着いて歩いていった。


 ◇


「すげぇ」


 城に併設されている訓練所にやってきた最初の感想がそれだ。赤青黄色、それに緑色の鱗を持つ竜人達が訓練を行っていた。


「全員、訓練やめ! 長が参った!」


 赤い竜人がそう叫ぶと、槍や剣を振るっていた竜人達がいっせいに動きを止め、こちらに向かって走ってくる。


「「お待ちしておりました! 団長!」」


「うむ、今日は新たに魔王軍に入った新人を紹介する。……サクラ殿頼む」


「あ、はい。サクラと申す! 魔王様に忠誠を誓った同志として共に人間共を駆逐しようぞ!」


「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」


 綺麗に色ごとに整列された竜人達が俺の声を聞いて雄叫びをあげる。実に楽しい。すごい気合いの入り方だ。こういう気持ちのいい奴らと共に仕事をしたいものだな。


「サクラ殿、ありがとうございます。おかげで士気が格段に上がりました。早速第一師団の副官を紹介させていただきます」


「あぁ、よろしくお願いします」


「パラゴナ、エレノア、アルセリア、スウェイト」


『はい』


 呼ばれた四人はズレることなく同じタイミングで返事を返した。すげぇ。呼ばれて出てきたのは、青、赤、黄、緑の竜人。各色の先頭にたっていた個体だ。各色のリーダー的存在だろうか。でも各師団に副官は二名ずつのはずだが、四名いるぞ。


「あ~、これには事情があってな」


 聞けば竜人は青竜人、赤竜人、黄竜人、緑竜人と種族が別れている。まぁ人種が違うらしい。食べるものは同じらしいが。それで、元々違う部族同士の集まりであったが、一つの師団にぶち込まれてしまったことで四位一体となる必要があった。そこで、ジェイドがリーダー、すなわち師団長として台頭したが、他部族の三種から、二種の副官を選べば残った一種が不遇な扱いになると心配し、いっその事全種から一名ずつ副官を選出したらしい。

 どうにも魔族らしくない考えだなと思っていたが、俺自身が魔族の在り方を勘違いしていたらしい。


 弱き者は強き者に従う。


 これが俺の思っていた魔族像。ジェイド的には合ってるけど間違っているらしい。この時の弱き者と強き者と言うのは同じ種であることが前提らしい。つまり竜人は竜人に従うし、獣人は獣人に従う。そして、その種の主は他種の強き者に従う。

 つまり、青竜人はジェイドにしだがっている。他種の竜人はそれぞれの副官に従っている。他種の竜人の主、つまり副官達はジェイドに従っている。そのジェイドは魔王に従っている。ということは全員魔王に従っていると言うことになる。

 これが、弱き者と強き者に従う。の意味だ。

 だから獣王は自分より弱いルブさんの下に着きたがらなかったし、俺の下に着きたがった。

 魔王が獣軍の指揮権をくれたのもこれが理由だろう。漸く全ての謎が解けた気がした。

 だから副官は四人必要なのだ。


「なるほど。そういう事でしたか」


「そういう事です。では、副官以外訓練に戻ってよし! 解散!」


『ハッ!!』


 ジェイドの指示に従いテキパキと持ち場に戻る竜人達。これが第一師団……。


「ではパラゴナ」


「ハッ!」


 彼は魔王が台頭する前、青竜人が集落で暮らしていた時からジェイドの側に居たらしい。竜人の見た目なんて区別つかないけど、ジェイドよりも鱗に傷が多い。戦場で突っ走るジェイドのサポートに忙しいのだろう。

 ちなみに青竜人は物理攻撃特化型のステータスらしい。ジェイドの脅威度はA級の中でも上位。パラゴナはA級中位程度。他はA級下位~B級上位程度らしい。


「エレノア」


「はぁい」


 おっとりした声におっとりした返事をかます割にはいかつい見た目をしているエレノア。彼女は赤竜人だ。赤竜人は青竜人ほど物理に特化している訳では無い。青竜人が9:1程度で物理振りだとしたら6:4くらいで物理振り程度。青と赤は共に前衛で、手柄を奪い合う仲なのだとか。彼女の脅威度はA級でも上位。ジェイドと同程度だ。彼女の部下はA級中位~B級上位程度。実に優秀だ。紅鱗こうりん騎士団を率いているらしい。


「アルセリア」


「はいっ!」


 黄竜人の彼女は元気潑溂で天真爛漫な性格……らしい。なんかもうその片鱗見せてるけどね。竜だけにってね。あはは。

 黄竜人は赤竜人と逆で4:6で魔法型らしい。時には前衛としても戦うらしく、その際は緑竜人が忙しくなるらしい。彼女はA級中位の実力だ。部下もA級中位~B級上位程度。黄鱗おうりん魔術士団を率いているらしい。



「最後にスウェイト」


「……」


 緑竜人の長、スウェイト。彼は寡黙な男だ。後方から前方を支援するために全神経を集中させて、援護に回っているらしい。他の緑竜人達はそのおかげ好きに魔法をぶっぱなして戦場を荒らすのだとか。ちなみに1:9で魔法型である。

 脅威度はA級上位。数値上はジェイドよりも高いらしい。しかし、「柄では無い」そんな理由で師団長をやらないのだとか。魔族らしくないが、その実熱い男らしい。緑鱗りょくりん魔術士団を率いているらしい。


 まぁ思ったことは、普通に副官を選出していれば、赤竜人のエレノアと緑竜人のスウェイトだろうなと。黄竜人のメンツを立たせるために副官が四人いるんだなって。


「ではサクラ殿、この者たちから我が団の副官の何たるか学んでいただければ」


「ありがとうございます、ジェイド殿」


 吸血鬼は魔王軍には俺しかいないし、多分この世界にもいないっぽい。だから俺が師団を率いることはないだろうから最終的に俺が行き着く先は魔王の副官、アンデッド集団である第二師団の副官辺りが妥当だろう。となれば、色々な副官から学ぶ必要があるのだろう。

 副官として経験を積んだあとは、不死者王リュシアンが、新しく副官にふさわしい強いアンデッドを作り出すまで第二師団の副官として魔王軍を盛り立てるとするか。

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