第10話 和解
館に入り、獣王がいるであろう部屋に行くと、二人はそう言葉を交わしあった。
知り合いなのか? 周りを見渡してみるが、あまり豪華な部屋という印象は受けない。この獣王が公務なりなんなりするためだけに作られた質素な部屋という印象。
「そっちは新人か。よくもまぁこんなのを見つけてくるな」
「サクラだ。吸血鬼だ」
獣王をよく見ると、ライオンが二足歩行になっているみたいだ。獅子獣人と言うやつだろう。そういえば、ここに来るまでに色々なモデルの動物の獣人がいたな。でもやはり王は獅子か。
実に綺麗な毛並みだ。
「また、オレと戦うのか。害悪王」
「否。私は貴殿と戦うつもりは無い。話し合いに来た」
「そうか。それでそいつを連れてきたってわけだな」
話を聞けば以前に獣王とルブさんで戦ったことがあるらしい。その際はルブさんの惜敗で終わったが故に魔王軍に下ることはなかったと。まぁ害悪王とかいう名前から一騎打ちは得意じゃないと推測出来るし、獣王は見るからに肉弾戦の一騎打ちが得意そうだしな。
「この、サクラは交渉役に過ぎない」
「オレはその吸血鬼の下になら付くぜ? なんせオレより強いからな」
「そいつは無理な相談だ、獣王。お前はルブさんの下に付く。これは決定事項だ」
「ルーブの野郎が強いのを連れてたと思ったらとんだ脳筋じゃねえか。そんなんで交渉役だぁ? ふざけるなよ、オレはな――」
「そもそも」
ここはそこまで怒気を強めず、冷ややかで落ち着きのある声で。怒気を強めてしまっては話し合いにならず戦いに発展しかねない。
「な、なんだよ」
「そもそも、お前が勝ったと言うのは一騎打ちの話だろ? 肉弾戦にしか脳のないお前らがダークエルフに勝つのは普通なんだよ。なにイキってんだカス。それに獣人は頭が悪いから師団長には向いていない。適材適所ってやつだ。お前はルブさんの下につけって、言いたいところではあるのだが……」
「ボロクソに言ってどうするのよ……」
「言い過ぎな気がしますよ、サクラさん」
「僕も少し言い過ぎかと思います。内容については否定はしません」
おいおい、否定しない御三方も大概だなこりゃ。しかし、ここの村ってか街に来てひとつ思ったことがある。ここの獣人達をルブさんのところの師団に入れると一師団にしては些か数が多すぎる。元々はルブさんを師団長にして、現副官であるダイロンとアイナノアのどちらかを副官から外して獣王を副官に据えようかと思っていたのだが、こいつの性格的に副官は向いていない。前にガツガツ出ていくようなタイプは副官ではなく大将、つまり師団長の方が向いている。まぁ何が言いたいのかと言えば……
「お前がルブさんの下に着く必要は無い」
「ほぅ、ならば貴様の下に着くって事か? それならオレァ異論ないぜ。なんせ自分より強いやつだからなぁ」
獣王はルブさんを一瞥しながらそういう。嫌味のつもりか?
「まぁいい。お前には新たに第五師団を形成して欲しいと言いたいところだが……。兵士に分類される獣人はこの街にどれほどいる?」
「万は下らないな。三いや、……四万程度だな」
「では師団ではなく軍団と呼称しよう。魔王様には事後報告で構わんだろ。もし、獣人が魔王軍に味方すると言うのであれば獣人の暮らしは保証する。今よりも快適な暮らしを約束しよう。そして、お前らは獣王を長とした獣軍を形成してもらう」
「ま、待てサクラ。そんな勝手が許されるか? 一度魔王様に確認を……」
「ルブさん、今回の俺たちの任務は獣人の懐柔。魔王は南下時に北方から攻撃を受けることを気にしている。その不安を払拭するために獣人には魔王軍に降ってもらう必要がある。ならば無理にルブさんの師団にぶち込む必要は無いです」
「そうですね、確かにサクラさんの言う通りですが、わざわざ魔王軍で面倒を見る必要はないと愚考しますが……。同盟で手を打つなどはないのですか」
そう言ってきたのはダイロンだ。何を言うのかと思えば同盟だと。笑っちまうよな。
「はぁ。俺たちの王が獣人やダークエルフならばその手もありました。しかし、現魔王は純粋な魔族。獣人やダークエルフ等とは違い純粋な魔族なんですよ。人間らしい思考は必要ない。どっちの種族も先祖が魔族に着いたからという理由で今も魔族に着いていると思うが、どんな理由であれあんた等は魔族なんだよ。甘っちょろい思考は放棄してください。魔王は自分の配下にしか手を貸さない。同盟なんて魔族からしたらあってないようなものです」
俺の饒舌にびっくりしたのか、獣王もルブさん達もびっくりして口をあんぐりと開けている。
しかし、さすがは師団長。俺の発言の後、考えるような仕草を挟み、「確かに……」と俺の発言を自分なりに噛み砕き、理解しようとしていた。何様だよって思われるかもしれないけど、こうやって自分で考えられる人は組織には必要だ。この人が魔王軍四天王で良かったと心から思う。
「まぁ、何が言いたいかと言うと、弱肉強食の魔族の世界には従うか従わせるかの、どちらかしかない。対等な関係などありえない。家族でもない限りな」
まぁ、獣人もダークエルフの先祖も魔族の在り方に共感するところがあったから魔族側に着いたのだろう。この人たちの表情を見る限り、本能の部分では異なるかもしれないが、弱肉強食という在り方に賛成したからこそ魔族となったのだ。それに、この人たちは何代目か知らないが、生まれた時から魔族側の人達だ。子供の頃から強気者に従うと言うのが普通と思って生きてきたはずだ。まぁ、心のどこかで人族と共存出来ると思っているのかもしれないが、魔族と人族では在り方が根本的に違う。
より考え方の近い方の陣営に着いた結果魔族だったと言うわけだ。ならば魔族らしい思考をして欲しい。斯く言う俺も元は人間だが、吸血鬼になったことで多分思考の仕方が大幅に変わっている。9:1くらいでこっちに引っ張られてるから魔族の考え方の方が共感できるのだ。
「その魔王とやらはお主より強いのだな?」
「無論だ」
「では我ら獣人は魔王の軍門に降るとしよう。これからよろしく頼む」
そういうと獣王は立ち上がり、手を差し出してきた。お、こっちにも握手の文化があるのか。しかし、副官の俺ではなくルブさんがやるべきでは……。あ、俺にやれと。はい。
「これから共に魔王軍……いや、魔王国を繁栄させよう。あぁ、そういえばまだ名乗っていなかったな。サクラだ。よろしく頼む。今は副官見習として第四師団に随行しているが、今度からは第一師団に異動となる」
俺は最初に名乗ったんだけどね。獣王は名乗る気もなかったし、一応これからは同期として戦いに行くわけだから名前くらいは知っておきたいよね。
「そうか。オレぁスカーフェイスだ。よろしく頼む」
へぇ、スカーフェイスねぇ。名前負けしないように頑張って欲しいものだ。まぁ獅子獣人だし、獣王だし、名前負けは今のところしてないな。ただ従わせる側ではなく従う側になっているのが気になるが……。
「では、スカーフェイス殿、今後の予定は魔王様と話がつき次第、報告させてもらう」
「了解した。では害悪王……いや、ルーブ殿、これからよろしく頼む」
「あぁ」
どうやらここの二人は漸く和解したらしい。と、言うわけで、俺の獣人懐柔編は幕を閉じた。
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