第二章 副官見習い編

第9話 獣人の街


「それじぁ行きましょうかルブさん」


「あぁ」


 ルブさん、とは言ったものの、今回はルブさんの副官の二人も一緒だ。名をダイロンとアイナノアと言う。二人は夫婦らしい。夫婦揃って副官とは優秀なこった。二人とも弓を担いでいるので、後衛が三人いることになる。俺も魔法の方が好きだから後衛やりたいんだけどね。今は副官見習としてダイロンとアイナノアに従う。

 最初はジェイドのところで副官補佐としてやる予定ではあったが、この作戦が終わり次第、第一師団に入り、正式に副官補佐になるらしい。


「それにしても、サクラさんは吸血鬼なのに太陽が平気なのですね」


「少し耐性があるだけですよ。長時間太陽に晒されたら多分死にます」


「わぉ。じゃあもうフード被ってください。新戦力の貴方が死んでは元も子もないので」


 アイナノアさん、後ろから化身みたいなの見えてる。怖い。ダイロンも諦めたような顔で頷くなよ。耐性つけるために太陽に晒されてるのに逃げたら意味無いじゃん。


「まあまあ、落ち着いてノア。彼には彼なりの考えが……」


「うるさいわね。魔王様より獣人との仲を取り持つよう言われているのよ! 途中で倒れてなんも出来ませんでしたなんて言ったら魔王様が落胆してしまうじゃない!」


「まぁアイナノアの言う通りだ。サクラ、済まないが太陽避けとしてフードをしっかり被ってくれ」


「はい」


 元々そんなに期待してないと思うけどなぁ。本当に獣人が欲しいなら魔王自ら行くだろうし、それをしないって事は絶対に獣人が欲しい訳じゃなくて、いれば良いよね的な軽い気持ちなんだろう。そもそも二十年魔王やってて東北どころか岩手秋田辺りにすら手を出さないって何よ。慎重すぎる。異世界の勇者でなければ魔王の脅威でもないのに。

 しかし、多分、魔王には魔王なりの考えがあるのだろう。


「見えてきた、あれが獣人の集落だ」


「集落、ねぇ。普通の街だろあれ」


 通称漁業都市。都市とか言ってるのに集落呼びはまずいよ。ほら、門番が構えちゃってるじゃん。


「得物は剣に槍、弓、徒手もいるな」


「あまり歓迎されていないようですね」


「ちっ、魔王様からの命令でなければま殺していた」


 ちょぉい。アイナノアさん血気盛んすぎね? 恐怖を覚えるよ、俺は。


「魔王の手の者か!」


「我々は魔王様より命を受けてやってきた! 開門されたし!」


 とりあえず俺が叫んでおく。


「魔王など信用ならん! 早く帰――ヒィ!」


「ちょ、ノア! 落ち着いて。ビビらせてどうするんだよ。師団長もなんかいってやって下さい」


 アイナノアの覇気にビビった門番を見たダイロンは慌てて止め、ルブさんに助けを求める。


「そうだな」


「師団長……」


「奴らの言動には目に余るものがある。灸を据えねば」


 一瞬安堵したダイロンの顔が見る見るうちに青くなっていく。面白いなこの人。この人も案外苦労人か。


「まあまぁ。魔王から命を受けたのは俺です。俺にやらせてください」


 そう言って再び街に近付く。すると、壁の上に隠れていた門兵達が矢を飛ばす。うん。遅いな。それに手がブレブレだ。初心者か?


「こんぐらいで良いか」


 取り敢えず水属性の魔法で弓を作り出す。うん、組み立てる手間とか省けていいね。弦もちゃんと張れてるし、普通の水ならこうはならない。魔法さまさまである。もちろん矢も水。


 ――カンッ


 水でできた弓矢なのに綺麗なツルネを鳴らし、矢が放たれる。俺が狙ったのは敵の弓。ものすごい勢いで放たれた矢は一直線に敵の弓に向かう。そして、音も立てずに崩れ去ってゆく弓。


 続けて二射三射と続け四射目も中る。うん、皆中。そしてそのまま歩みも止めない。

 矢の射程から外れ、中距離と近距離の間。門兵のうち、弓矢以外を得物とする兵たちがいっせいに動き出す。


「あぁあぁ。皆で来ちゃダメでしょ」


 胸の辺りに土属性の魔法でサッカーの5号球程度の玉を作りだす。そしてそのまま俺の制御下から離し、重力に従い落ちていく。そのまま地面に当たる前に右足を目にも止まらぬ速さで振り抜く。


 ――ドンッ


 鈍い音を立てて先頭を走る獣人の顎を撃ち抜く。そのまま撃ち抜かれた獣人は後ろに倒れ周りの獣人達も何が起きたのか分からず進行を止める。あぁ、あれは骨逝ったな。


「我々に戦いの意思はない。君たちの王に話があるだけだ」


 悪い吸血鬼じゃないよ。信じて。


「サクラ、さすがに無理があるぞ」

「サクラさん、無理ですよそれは……」

「右に同じくです……」


 ふむ。やれやれと言った感じの魔王軍。目を見開きびっくりした様子の獣人。よし、今だ!

 獣人達のどうぞ攻撃してくださいと言わんばかりに隙だらけな身体を殴るなり蹴るなりして振り抜き、全員気絶させる。


「そんじゃ行こっか。獣王の元に」


「へぇ、やっぱ吸血鬼って強のね」

「やるわね、吸血鬼」

「さすが吸血鬼ですねぇ」


 吸血鬼ってそんなに高評価な種族なのか。

 まぁそりゃそうか。魔族の全盛期を支えた種族だしな。

 その後、俺たちは無断で街中に侵入し、我が物顔で街を歩く。周りからはヒソヒソと声が聞こえるが、無視だ。目指すは獣人の主、獣王が住まう土地。それにしても、家が特徴的だな。漁業都市と謳っている割には家が積雪地帯味に包まれている。三角屋根を採用し、雪が積もらないようにしているが、文明のおかげか材質は古民家っぽくない。


「結構人間臭い家に住んでるんだな、魔族の癖に」


「元々は人族側の種族でしたしね。全盛期時代に魔族に付いたってだけで人族からは裏切り者扱いよ。まるでどこかの種族と似てるわね」


「そうなんだ。じゃあ人間臭い建物に住んでるのも納得だな。特に、この家。まさに権力者が住んでますと言わんばかりの家じゃないか」


 魔族は強さで自分の強さを誇示する。人間は外側で自分の強さを誇示する。このように周りと違った家を建てることで周りの獣人とは違う階級の生き物だと誇示しているようだ。周りが積雪地帯っぽい家なのに、一つだけ洋風の館があったら浮いてるよ、さすがに。


「何奴!」


 その館から出てくるのは門兵とは違い装備をつけた獣人。こいつらも伸すか?


「我らは魔王陛下より勅命を受けて来た。戦う意思はない。貴殿らの主と話がしたい」


 俺が先程と同じく、話に出ようとするが、ルブさんが横から入ってきた。横入りはダメだよ。


「そういうのは困る。我らが王も暇では無い。面会はしてやるから、また後日に――ひぃっ」


「面会して? 後日? お前ら身の程を弁えろよ。こっちは魔王の命だっつっねんねん。はよ入れろや。どつき回したろか? あぁ?」


「ちょ、サクラ落ち着け」


「は? 別に俺を侮辱しても魔王を侮辱しても良いよ、でもさ身の程知らねぇのにイキるのは違ぇだろ。こちとら吸血鬼だぞ。眷属にしてやろか?」


「いい加減にしてくれ。これでは脅迫だ。こういう交渉は師団長である私の役目だ」


「あ、あぁ。すまない。ついカッとなった」


「別に構わないさ。でも、魔王様が侮辱されたら怒ってくれ。流石に」


「わかってるって」


 先程から目に余る獣人達の態度についカッとなって怒気を漏らしたまま詰め寄ってしまった。

 でもルブさんが止めてくれたし、俺の怒気に怖気付いた獣人兵達は素直に道を開けてくれた。

 はっ、最初からそうしてれば良かったものを。


「では邪魔するぞ獣王」


「よく来たな、ダークエルフ……いや、害悪王」

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