第8話 魔王と勇者の因縁
「おうおう! 飲んでるか!?」
そう言って魔王はあぐらをかきながらみんなに酒を注ぐ。
俺は今、上司(魔王)からアルハラを受けています。だって、魔王自ら酒を注いでくれるんだもん。無理じゃん。断れないって。
「そういえば貴殿は吸血鬼であったな。眷属はいるのかな?」
「ジェイドさん。いないっすよ。生まれたばかりなんで」
「そうかそうか。しかし吸血鬼が再び現れるとはな! 再び吸血鬼の世になってしまわぬか心配でもあるなぁ!」
「君が直接吸血鬼するのは少数にした方がいいと思うわ。直属の眷属が多いと動かすのも大変だもの」
「なんでそんなこと知ってるんすかルブさん……てかもう酒はいらないです」
「これはごめんなさい。眷属が多くない方がいい理由ね。それは単に親は子の面倒を見なきゃいけないからよ。めんどくさいじゃない、お守りなんて」
あぁ、ただのダメな人だった。そんなこと言っちゃおしまいだよ、ルブさん。しかし、ダークエルフが酒に酔って飲んも絵になるなぁ。可愛い。
「吸血鬼殿はどこで産まれたんだ!」
「俺はよく分からんダンジョンです。どこでしたっけ、アトラナートさん」
「アンデッドダンジョンですね。ほら、スカルドラゴンの」
「だ、そうですよ。ギガスさん」
アトラナートさんは博識で助かる。伊達に苦労人やってないね。これからはもっと苦労かけるだろうけど。
「む? ということは始祖か?」
「いや、
「再び現れた吸血鬼が下級ではなく上級……。人族はいよいよ終わりだな! ガハハ!」
うるさい。とてもうるさい。巨人は自分のデカさを理解していないのか?
「貴様ら、先程から聞いていれば、貴殿だの君だの吸血鬼殿だのと。名前を呼ばんかい!」
「「「だって……」」」
「名前、しらないですし」
「名前知らないもんねぇ」
「名を聞いておらんからな!」
「だって、名前言ってないですし、ないですもん」
「
と、リュシアン。いや、ネクロ? どっちで呼ぼうかな。まぁいいけど、確かに、生前の桜杜という名前は気に入ってはいるが、執着していない。俺の中では既に絶対神となった魔王から貰う名前にドキドキが隠せない。
「そういえばリュシアンの名も我がつけたものであったな。そうだな、ではこれからはサクラを名乗るがいい。この満開の桜のように我が国を明るい方へ導いてくれたまえ」
「ハッ! 仰せのままに!」
サクラ。サクラ! 俺の新たなる名! 前世の名前も入っているし、すごく嬉しい! しかし吸血鬼が明るい方にって皮肉すぎるだろ。しかし、魔王がそういう意味で名付けたからにはそれに恥じぬよう働かねば。
「ジェイドさん、よろしくお願いします!」
「あぁ、任せてくれ、サクラ殿。共に魔族を繁栄させようぞ!」
「はい!」
まずはジェイドさんの掌握に成功したと言っても過言では無い。やはり組織における好感度というのは高い方が優位にものを進められる。
「では産まれたばかりのサクラに我が国の情勢を教えてやろう」
「ありがとうございます」
実はかなり気になっていた事だ。魔王領とか言う割には支配領域が結構狭い感じだなと思ってた。
「まずはこれを見てくれ」
そう言って、魔王は一枚のでかい紙を取り出す。
「これは……」
うん、見るからに日本列島や。あと北海道さえあれば日本の完成。佐渡ヶ島もあるし。四国に九州もある。
「これは世界地図なのだが、まず、この世界は三つの大陸に別れている。そしてここ、この最北端が我が魔王領である。さらに北上すると海があり、
へぇ。日本列島をそのままバカデカにして、地球に貼り付けた的な。そんで魔王領は青森県あたりね。んで、氷の島は多分北海道のことか、北極のことか。まぁいずれにせよ、魔王領が狭いのはわかった。
「そして、我々魔族のことについてだ」
そこから魔王による、魔族についての講義が始まった。
魔族は千五百年ほど前、栄華を誇っていた。まさに魔族の全盛期とも呼べる時期だ。その時の魔王が吸血鬼の始祖ペーター。その者が魔王に君臨し、魔族人族吸血鬼化計画を実行した。
その計画は上手く行き、魔王領は日本で言う本州を飲み込み、四国まで到達。九州でも大分福岡辺りまで進行したが、異世界からの勇者が現れた。
その勇者はたった一人で戦線を押し上げ、たったの十日で九州から魔の手を払った。
その後も勇者の快進撃は続き、四国を奪還後、そのまま戦線を北上。日本で言う京都辺りで魔王と勇者の激突が起こった。
激闘の末、両者共倒れ。魔族は絶対の神である魔王を失い、混乱に陥る。そしてそのまま逃げるように北上。吸血鬼は根絶やしにされ、逃げ惑う魔族たちは皆殺し。
しかし、そこで新たなる魔王が台頭。竜人族の魔王は部下を引連れ戦線を維持した。各国が勇者を任命し、魔王に仕向ける中、ひとつの事実が判明した。人の身で、あるいは魔族の身で、魔王を殺すことは不可能。そう、時の魔王は幾度か窮地に陥るが、何故か致命傷を負うことはなかった。各国の勇者でさえ殺すことは不可能であった。そこに再び現れた異世界の勇者。
まだ未熟な勇者を殺さんと殺到する魔族であったが、ただの一魔族に過ぎない者たちでは勇者を傷つけることは出来れど、殺すことは出来なかった。そこで人も魔族もひとつの結論に至る。魔王を殺せるのは異世界の勇者だけ。異世界の勇者を殺せるのは魔王だけ。
そのことを知った両者は己の身を顧みず、戦線にたち続けた。もちろん両者の激突は両者の部下たちが良しとせず、戦線が拮抗したままであったが、このままでは同胞たちが死にゆくだけと理解した勇者と魔王は互いに出会い戦った。それが約二十五年前の話。
しかしそこで再び両者相打ちとなり魔族は再び混乱に陥り、北上。そして約二十年前、今の魔王が魔王としてその名を挙げた。
「なるほどな。そんじゃ今はまだ南下する意思はないのか?」
「あぁ。まずは北の獣人族を我が魔王軍に迎え入れてからだ」
「早くやればいいじゃん。なんで早く行かないんだ?」
「済まない、我々竜人と獣人は仲が悪くて……。中々首を縦に振ってくれないのである」
「でも竜人とは別の部隊に編成すればいいだけじゃないのか?」
「そうなのだが、奴らは人の下に付くのを良しとせず、自分たちだけで生きるとほざきおって」
「ふぅん。一個聞きたいんだけど、そいつらが魔王軍に入るならどこの師団?」
一番重要なことだ。まぁジェイド率いる第一師団はなさそうだが……
「第四師団、だな。デックの師団に付けようと思っている」
「うん、じゃあ俺とルブさんで獣人のとこ行こう。魔族は力を重んじるんだ。自分たちより上だと思ったら納得するって」
「しかし、獣人は私に扱えるような者では……」
「いや、いい案かもしれぬ。では明日、サクラとデック、数人の護衛をつけて獣人の村へ行け」
「「ハッ」」
こうして俺の初任務、獣人の懐柔が始まった。
◇
※あとがき
駆け足ながら一章終わりです。
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