第6話 魔王との出会い

 side:ハイアット帝国


 その日ハイアット帝国帝都にある城の中は大騒ぎであった。


「我が国の勇者が死んだだと!?」


「そのように報告を受けております……。勇者の宝珠が破壊されると共にスカルドラゴンの魔力の消滅も確認されました」


「しかし、かの者らのレベルはダンジョンボスであるスカルドラゴンより高かったはずではないか? それに危険があったとしてもあやつらであれば退散も可能なはず……。しかし、スカルドラゴンも死んだとすれば相打ち第三者の可能性……」


 勇者の宝珠とは我々が勝手に呼称しているだけの魔道具である。設定した者が死ぬとその宝珠が壊れるというもの。昔からどの国も重宝していて、戦の際は大将の魔力を設定し、その宝珠が破壊された時は負けを意味する。その場合は早々に次の手を打たなければならない。


「今はそんなこと考えていられぬな。魔族の可能性はまず無い。調査隊を派遣せよ」


「かしこまりました。それでは軍務大臣の方に話をお持ち致します」


「よろしく頼む」


「かしこまりました」


 そう言うと、余の腹心は部屋を出ていった。それにしても我が国最強の勇者にして最後の勇者まで魔王とか戦う前に討たれてしまうか……。

 やはりあのダンジョンの攻略を決行したのが良くなかったのであろうか。いずれにせよ、この国に再び勇者の資格を持つものが現れる可能性は無に等しいだろう。教国に話を通し勇者召喚の許可を得ねば。


 ◇


 side:ロウアット王国


 ハイアット帝国が教国へ勇者召喚の許可を得るために使者を派遣した。という報告を部下から受けた。


「そうか。ハイアットから教国へ使者が……」


 つまりは、ハイアットの連中の策略が失敗したということ。実に気味がいい。魔族領に一番近い国として魔族の全ての攻撃を受け止めて欲しいものだ。


「ハイアットに使者を送れ。ハイアットが異世界からの勇者を得れば確実に差をつけられてしまう。少しでも甘い汁を吸わせてもらう」


 余は勇者召喚における費用の半額を負担する旨を記した手紙をしたため、余からの手紙であるという証拠の郎風を付け、部下に投げつける。


 手紙を拾った文官の男は急いで部屋を出ていった。


 その部屋に残ったのはこれでもかと言うほど豪華な椅子にふんぞり返った男だけ。



 ◇


 side:主人公


 目の前の蜘蛛……アラクネさんを追うこと数時間。俺は初めての感覚に陥っていた。初めて飛んだにしては上手く飛べたと思うが、今はそれどころではない。

 どこか不気味で、それでいて心地いい感覚に襲われている。


「魔王領に入りました。目の前のお城で魔王陛下がお待ちです」


「わかった。そのまま案内してくれ」


 魔王領とは言っているものの、多分魔王領ってかなり狭い。だって目の前の城が見えたのが数分前だったのだが、その時はなんも感じなかった。しかし、ある一定の距離に近づくとあの感覚に襲われたのだ。多分これは魔王の支配領域に対して発揮される効果だろう。城を中心に半径10kmないくらいか。


「立派な城だな」


 城内に入った感想がそれだ。見た目も魔王城っぽくて良かったが、内装もそれっぽくて興奮する。


「えぇ、この地を魔王領と定めた時、魔王陛下が一瞬にして築城なさったのです」


 一瞬にして、ねぇ。一瞬にして築城したならば魔法を使ったと考えるのが妥当だが、そんな魔法あるのか? 少なくとも今の俺にはそんな芸当は不可能だ。


「っと。ここです」


「なんじゃこれ……」


 俺たちの目の前に現れたのは高さ10mはあろうかと言う扉。その装飾も凝っているがそれでいて汚くない。物語に出てくるような魔王は普通なら宝石を散りばめたりしたような悪趣味な扉を作ると思うのだが、むしろ逆だ。色の濃い木材のような質感。両開きの扉には向かい合うような鬼のデザイン。

 すごくかっこいい。


「魔族には色々な種族がいますからね。巨人族などの大きい身体を持つ種族も入れるよう、大きい扉となっています」


「なるほどね。ちゃんと色んな人の事考えてんだな」


「えぇ。では開けます」


 アトラナートさんが扉に手をかざすと音を立てて扉が動き出す。


「ようやく来たか」


「――ッ」


 扉が開かれ、部屋の奥から聞こえた声からはとてつもない覇気を感じた。広いが薄暗い、まさに魔王のいるに相応しい部屋の奥にそのものはいた。


「人……いや、鬼か」


 覚悟を決め顔を上げた先にいたのは人の形をした鬼であった。鬼人族とでも呼ぶべきか。細身であれど鍛え抜かれた肉体、王のような佇まい、燃え盛るような赤い髪、額から伸びるは自分の強さを誇示するような太く、鋭く尖った一本の角。その縦に伸びた瞳孔が俺を捉える。


「待ちわびたぞ。滅びた種族にして我が同胞よ」


「同……胞?」


「お主は吸血鬼であろう? ならば我とおなじ鬼であるな」


「そう、かもな」


 そうだろう? と言い、否定を許さないような眼光に思わず肯定してしまう。目の前の鬼に従ってしまう。これが魔族と言うもの。力の絶対王政。弱き者は強気者に従う。おそらく魔王の後ろに控えている四人も魔王に魅せられ従うと決意したものたちだろう。


「我は嬉しく思う。滅び去ったかつての同胞とこうしてまた出会えたのだからな」


「滅び去った、か。相手は人間か?」


「で、あるな。憎き人間を滅ぼすため、我に協力せよ」


「わかりました。仰せのままに」


 気がつけば膝をつき胸に手を当てていた。

 それを見た魔王は、ニッと笑う。


「ならば紹介しよう。我の手足達を」


 次の瞬間、魔王の後ろに控えていたものたちが一同に立ち上がった。



 ◇

 ※あとがき

 ハイアット王国は人間の国の中でも最北端の国。故に魔族領と隣接。スカルドラゴン……ダンジョンボスの消滅は各国が認知しています。スカルドラゴンの魔力は膨大で魔法使いならどこにいても感知できるくらいには。そんな存在が消えたとなれば魔法なら誰でも認知できる。という設定、です。

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