第5話 第一歩
「ふむ、特に何もないし、何もいないな」
広さは教室ひとつ分程度だろうか。床も壁も天井も洞窟と言った感じで塗装すらされていない。端っこの方に荷物が転がっているのを見るに、さっきの勇者様御一行がここで休憩していた可能性があるな。ということは、ここはボス戦前のセーブポイント……休憩所か。
「まぁ、関係ないし、上がるか」
幸い、目の前に上りの階段があるので上の階層に行けるだろう。上りの階段があるということはやはりここは地下で間違いなさそうだな。階段の幅は通常サイズのエスカレーター分くらい。2人並ぶと少し狭いかなって感じだな。まぁ俺は一人だから関係ないけど。
「うぉ、なんじゃこりゃ」
十数段程度の階段を登り終えると、新たな階層が待ち受けている訳だが、墓地モチーフの階層らしく、思わず顔を顰めてしまう。
「ボスも骨だったし、俺も元骨だしアンデッドのダンジョンであれば墓地であるのにも納得か……。幸い、他の魔物たちは俺を敵視していないようだし……」
多分ダンジョンマスターなんてものになってしまったのが原因だろう。下層の魔物であれば良い肩慣らしになると思ったのだが、それも叶わないらしい。……ん?
「あ、ちょっとそこの君」
「ワフッ」
「俺を乗せて上層まで連れてってくれ。寄り道は必要ない。まっすぐな」
近くにいた骨の犬……スケルトンウルフと呼称しよう。そいつに頼み、乗せてもらうことにする。「ワフッ」と言い、俺のお願いを聞いてくれるらしいので、遠慮なくまながることにする。
「乗り心地はあまり良くないな。まぁ骨に直乗りだし、多少のゴツゴツ感は我慢しよう」
「クゥーン」
「すまんな。ほれ、これで元気出せ」
つい思ったことを口に出したためにスケルトンウルフが悲しそうな声を漏らすが、頭を撫でながら魔力を分け与えると、喜ぶように遠吠えを行ったので、多分機嫌は直してくれただろう。ちなみに魔力を分け与えるなんて行動もヴァンパイアの本能として理解しているらしいので、魔法面で今後苦労することは少ないだろう。
スケルトンウルフに乗った感想だが、普通に速くてビビる。多分俺が自分で走った方が早いのだろうが、これが一番楽だと思うので、やめられない。
十五、いや二十個程の階層を駆け上がると、明らかにモンスターの格が落ちた。上層、中層、下層に別れているとすると、中層に差し掛かったと考えるべきだ。
となれば今までの二倍量が残っていると考えると、結構気が楽になる。
――そんなことを思っていた時期が俺にもありました。
具体的に何が問題なのかと言うと、層が上がるにつれて一階層ごとの大きさがさらにでかくなるのだ。下層では一階層で4km四方くらいの空間だったのだが、中層に差し掛かってからはその倍である8km四方程度の空間になったのだ。探索系の魔法で空間を把握できるので、間違いない。そんでもって、中層からはタチの悪い迷路があったり、大量のトラップがあったりと散々であった。
「さて、ここまで苦労かけてすまんな。もう戻っていいぞ」
「クゥン」
上層に続く階段に来た俺はスケルトンウルフからおり、下層に帰る許可を出す。すると、悲しそうに泣いてくれるが、正直こいつに乗って上層を駆け上がるのはかなり時間がかかりそうなので、一人で行くことにしたのだ。
「さて、まずは身体強化」
そう呟くと身体の内から漲るようなパワーを感じる。そして踏み込んでやると先程までいた地面がえぐれ、再び階段の元へ来る。
元いた場所に戻った訳ではなく、次の階層への階段へやってきたのだ。コンマ数秒で。
上層は中層よりも広く、12km四方程度なのだが、その距離をも一瞬で来てしまった。
「やはりこの肉体は良いな。10km以上の道のりにも関わらず、疲れすら感じないとは。……それにしてもダンジョン入口に留まる気配はなんなんだ?」
上級吸血鬼と言うだけあって、かなりタフらしい。これなら戦闘にも期待出来そうではある。
そして、下層を駆け上がり始めた頃から存在する謎の気配。かなりデカい気配だが、上級吸血鬼である俺よりかはしたっぽいな。多分勝てる。このまま上層に転移してやろうかなとも思ったが、ダンジョンマスターでも不可能らしいし、空間系の魔法でも不可能らしい。
ちなみにダンジョンマスターがダンジョン内で唯一転移できるのはボス部屋だけ。一方通行らしい。実にいやらしいな。
まぁ構わん。とりあえず全力疾走だ!
そうして走ること一分弱。上層の最上部、つまり入口に到着した訳だが……。
「お待ちしておりました。魔王陛下がお呼びですので着いてきてもらってもよろしいでしょうか」
入口に立っていたのは蜘蛛の下半身に女の、女性の上半身……いわゆるアラクネだろう。というか、ちゃんと言葉は理解出来るっぽいな。
「ちょうど俺も魔王に用事があったんだ。連れて行ってもらえるとありがたい」
「それでは魔王陛下の元へご案内致します。あぁ、申し遅れましたが、私はアトラナートと申します。種族はアラクネです。魔王陛下より魔王軍の参謀役を任命されております」
「自己紹介痛み入る。俺は
「そうですか。やはり生まれたばかりなのですね。それならいっそう早く魔王陛下の元へ行きましょう。空から北へ向かうのですが、その羽はお飾りはありませんね?」
「あぁ。多分飛べる」
俺がそう言うと、「そうですか」と呟き、アラクネ……アトラナートさんは空高く飛び立った。そして空中に魔力の足場を作り出し、はねながら前進する。へぇ、魔力にはそう言う運用方法もあるのか。どれ、とりあえず飛ぼう。そして俺も飛び立つ。高く飛び、翼を羽ばたかせるとそのまま飛ぶことが出来た。滑空ではなく飛翔である。
「このまま北へ向かいます! 着いてきてください!」
「はい!」
ようやく魔王に会える。女神への復讐の第一歩だ。待ってろよ、魔王。
ちなみにだが、少し飛んでいると、太陽の圧にやられそうになったので、勇者パーティの魔法使いさんが着ていたローブを途中で羽織ることにした。アトラナートさんは「やはり太陽は克服していないのですね」なんてボヤいていた。俺は聞こえてたぞ。
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