第2話-島へ

旅行当日――――

準備をしていざ空港へ、と思っていたら母に呼び止められた。

『空港まで私、見送り行こうか?一人で行かせるの心配だし車で送っていくわよ』

全く、心配性の母だ。もう22歳にもなる私をいまだにガキンチョだと思っている。


そうはいっても夫である私の父は私が中学生の頃に亡くなっており、母の家族も母が大学生の頃に全員亡くなってしまっている。母にとって家族と呼べるのは私だけなのだ。

そんな母の気持ちはわかっているものの大学生にもなって、いやもう卒業するというのに母の付き添いありで空港に向かうのは気が引けたのでここは強引に断ることにした。

「何歳だと思ってるんだよ、さすがに一人で行くよ。お土産は買ってくるから楽しみに家で待ってて。」

『じゃあ、無理は言わないからこれだけ持って行って』

そう言って母はへんてこなネックレスを渡してきた。

当然私はこう答える。

「なに?この変なネックレス。もっとカッコいいの付けるからいらないよ。」

そう言うと、母は苛立ちの表情を浮かべながらネックレスを押し付けてくる。

『見送りはさせてくれないならせめてお守りくらい渡させてよ。手作りだから効果はばっちりよ。私の地元の精霊パワーこれでもかと込めといたから』

ここまで言われると私も引くに引けなくなり、ダサネックレスを首にぶら下げて空港に向かった。


空港に着いてからは一言も誰とも話すこともなく、手続きを済ませ飛行機にさっさと乗り込んだ。

ネットフリックスであらかじめダウンロードしていたアニメを見ながらのフライトだったのであっという間に沖縄に到着した。


飛行機を降りると少し肌寒かった東京とは違い、そこには暖かな南国の空気が広がっていた。

「一人旅だけど沖縄に来てよかったな。気分改めてまた4月から頑張ろう」

空港から降り立っただけでそう思えるくらいに私はリフレッシュしていた。

全く単純すぎる、と思いながらも鬱屈とした都会から解放された私は既に満足しきっていた。

今思うと、ここでどこか知らない離島になど行かずに沖縄本島に留まっておけばまた平凡な日常に戻れたのかもしれない。だが、さらに現実から遠ざかりたかった私はより異国感にあふれる離島行きをこの時は強烈に望んでいたのである。


そんなことを思いながら、バスに揺られること約30分。

フェリー乗り場に到着し、母の故郷である○○島行きのフェリーに乗り込んだ。

このタイミングで、無事に沖縄についたこと、○○島行きのフェリーに乗ったことを伝えるために母に電話した。

母は上機嫌で私が故郷に向かっていることと私の無事を喜んでいた。

一方的にテンションの上がっている母の話をただただ返答をするだけだったが、心に余裕の生まれた私は母の話に耳を傾け続けた。いつもならありえないが(笑)

おしゃべりな母の話を聞いているとすぐに○○島に到着した。

島は来たこともない場所だったのに懐かしい気がした。おそらく母との電話でこの島について聞かされ続けていたからだろう。

最後に母からおすすめの飲食店を聞き出し、電話を終えた私はその店で昼食を取ることにした。


母の薦める郷土料理のお店でゴーヤチャンプルーなどをたいらげた私は

「母が良くこの店来ていたんですよ!」なんて自分が陽キャなら語りかけるんだろうなと妄想しながら店をあとにした。

●●島行きのフェリーの時間まで少し時間があったので島内を散歩して過ごした。散歩してみたものの、観光客が来るような島ではないので目立った観光名所はなくただ南国の暮らしを感じ取れるだけであったが私にはそれで十分だった。

そうこうしているうちにフェリーの時間になったので船着き場に向かうと、いかにも島の船乗りという様相の船頭さんがそこで待っている。

私に気づいた彼が声をかけてくる。

「おう!兄ちゃん。待ってたぞ。●●島まで送っていけばいいんだよな?」

私が頷きながら目線を上げると、そこにはフェリーではなく小さなモーター付きのボート?があった。

「この船で●●島まで行くんですか?」つい不安になり尋ねてしまった。

船頭さんは笑いながら答えた。

「不安になるのもわかるが、二人ならこの船で十分よ!そもそも●●島に行くやつなんて商売するやつしかいないからな。兄ちゃんもサンゴ買いに行くの?」

なるほど、●●島に行く物好きなんて私以外にはまずいないようである。

●●島行きは○○島出身の母から勧められたことを伝えるとさっきよりも一層元気になった船頭が言ってきた。

「兄ちゃんの母ちゃんうちの島出身なんか!それなら知り合いかもな!母ちゃん何歳だ?」

私は母の情報を伝えた。

「今年47になる歳で高校までは○○島で過ごしたみたいです」

船頭さんはガハハと笑いながらこう答えた。

「俺とは一回りも違うから全然わかんないや。あそこかあそこの家の姉ちゃんかな?」

島にルーツがあることがわかると途端に優しくしてくれた船頭さんとの会話は弾みに弾み、「仕事がないなら俺と漁師やろう」なんて誘いも受けながら船は●●島へと向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

忘れられた島の備忘録 七瀬雅 @nanamiya_01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画