忘れられた島の備忘録

七瀬雅

第1話-旅行計画

これはただの備忘録です。


私と友人が踏み込んだとある島、ここでは『●●島』としておきましょう。

『●●島』に行った私の後悔を綴った記録。

1人の人間の遺書として、読み進めてください――――


この春、大学を卒業する卒業旅行を計画していました。

とはいったものの、コロナ禍の影響で入学時に友人を作る機会に恵まれなかった私にとっては卒業旅行とは名ばかりのただの一人旅である。


就職活動をする気にもなれず、この4月からはただのニートになる私の本音は今は社会の喧騒から離れた場所に行って落ち着きたいというものであった。

できれば、この現実から目を背けたい。言ってみればただの現実逃避である。


そうは言ったものの旅行先のあてもなく、ただ静かなところに行きたいと漠然と思うだけであった。

困り果ててぼーっとしていたところに声がかかる。

『こんな昼間からそんな顔してパソコン睨んでて楽しいの?悩み事あるなら聞いてあげようか?』

母である。なにかにつけて、私が家にいるとちょっかいをかけてくるのが常だ。

専業主婦ゆえに暇なのであろう(女性蔑視の意図はない)

そんな母だが、これからニートになろうとしている私の現状にもある程度理解を示してくれているので心の奥底では感謝している。

「卒業旅行で人があんまいなくて落ち着いた場所に行きたいんだけど、なかなか見つからないんだよ」

そう聞くと、母は即答した。

『沖縄どうよ!沖縄!離島だと人もあんまりいないから良いんじゃない?』

実は私の両親は沖縄にルーツがあり、父方の祖父母はどちらも沖縄出身で父も生まれは沖縄である。母は生まれも育ちも沖縄で大学から上京してきたらしい。

家族で旅行に行こうとなると、しきりに『沖縄行こう!』というのが我が家では定番だったが飛行機が嫌いな父の要望で大概が草津や箱根などの温泉街に変更となるのもこれまた定番であった。

そんな母がまたしても自分は行かないにもかかわらず、沖縄を提案してきたのである。

「また沖縄だよ...」と思った一方で、「沖縄の離島でマイナーなところなら観光客も少なく、落ち着いた旅行ができるでは?」という思いも生まれ気づけば沖縄の離島を検索し始めていた。

”沖縄本島から行ける離島8選”などのサイトを何個も調べ、YouTubeも確認したが「こんなサイトやYouTubeに載っている島なんて観光客いっぱい来るじゃないか」という思いが頭をよぎり、頼りたくはなかったが母に質問してみた。

実は母はどこかの離島出身らしいのでこの手の話は詳しいに違いないという算段だ。

ことあるごとに”島での風習”や”沖縄の精霊の話””美人だったから島の巫女にスカウトされた”などを日常的に話すような地元愛にあふれまくっている母ならきっといい提案をしてくれるに違いない

「このサイトに載ってるような島以外にオススメの島ないの?母さんの出身のところ以外で」と私が聞くと、上機嫌で母は答えた。『最初から私に頼んなさいよ。心配しなくても私の出身はこのサイトに載っているこの○○島だから別の島でいいところ紹介してあげるわ。ってとこ昔遠足で行ったけどいいところだった記憶があるわよ。』

さすがである。さっそく、1つの島を紹介してくれた。どんな島か気になったので尋ねてみる。「遠足で島に行くってすごいね。その●●島ってどんなところなの?」

母が答える。『古い記憶だからあんまり覚えてないけど、綺麗な洞窟があって、歴史のある民族の人たちが色々教えてくれたなあ。あ、民族の人とは言うけど今はビジネスでやっているからそんな堅い感じじゃないよ。北海道のアイヌの人たちみたいな感じ』と笑って教えてくれた。『しかもビーチは超綺麗で、料理は食べたことないけど魚の料理がおいしいらしいよ』と追加の情報まで聞いてもいないのでどんどん教えてくれる。他にもたくさんいいところをプレゼンしてくれたが、もう私の耳には入っていない。

異文化にも触れられるし、人も少ない。ビーチも楽しめるとあれば●●島以外に考えられなくなった私は●●島行を決意した。気づけば、この離島に興味津々でとんとん拍子に旅行先と飛行機の手配が完了した。

ただ、どこを調べても●●島行のフェリーがなかなか見つからない。どうやら本島からのフェリーは無いようだ。母が昔に遠足で行ったという話を思い出し、母の出身らしい○○島を調べると簡単に●●島行きのフェリーが見つかった。

私は、問題なく●●島に行けることを喜びながら、そのフェリーを予約するのであった。

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