お気に入りの、水平線。

豆ははこ

きみと、きみたちと、みる。

「きれいだね、来てよかった! 泰斗たいとは残念だったね、純哉じゅんや

「うん、海、三人で見たかったなあ」

「帰る前に写真撮ろう! で、泰斗にメッセージ送るの。俺も行きたかった、って悔しがるよ!」

 渚で笑う、なぎさ。


 ごめんね。

 僕は、君と二人きりでいるこの時間が嬉しいんだ。


 「いいね」

 本音を隠して、僕は笑う。


 なぎさと泰斗と僕、純哉。

 

 うちの中学校からは進学者が一人も出ないことがあるくらいにレベルの高い進学校に三人で行こうとしている僕たち。


 そう、三人は、幼稚園からの、いわゆる幼なじみ。


 三人で海を見に行こう、なんて約束を三日前にして、全員の両親から三時間以内に了解をもらえるくらいに、家族ぐるみでも仲がいい。


 そんな僕たちは、こんなふうに見られている。


 かっこいい泰斗。

 かっこよくてかわいいなぎさ。

 かわいい純哉


 学年の成績上位を三人で独占しているだけでなくて。


 泰斗は女子から、なぎさは女子からはかっこいい、男子からはかわいいと言われている。

 僕は、男女両方からかわいい扱い。


「泰斗、バスケ部の助っ人でしょ? 背が高くてジャンプ力があるから、って。少し前までは、私よりも小さかったのに!」

 ほぼ毎日、そう言うなぎさ。女子にしては背が高い。165センチはある。

 運動神経もいい。短距離なら男子の平均よりも速いくらい。


 泰斗と、なぎさ。二人はライバル。


「俺は四捨五入しなくても170あるんだぞ、ってね。今は四捨五入したら180?」

「ね! 175よりもありそうで。悔しい!」

「大丈夫、なぎさはなぎさ。僕となら変わらないし」


 僕は169、ということにしている。

 少しでも、なぎさの近くにいたいから。

 しばらくは、170にはなっていないことにしておきたい。


 そう、僕はなぎさのライバルにはならない。なりたくない。


 僕は、きっと、わがままなんだ。


「ありがとう、やっぱり純哉、かっこいいよね。優しくてかわいいし」


 じっと見つめられるのは、嬉しいけど、辛い。

 僕のことをかっこいい、と真顔で言ってくれるのは、なぎさと泰斗だけ。

 なぎさからなら、優しくてかわいい、がついても嬉しい。


 なぎさのきりっとした眉と、きれいな黒目。


 二人きりが嬉しいとか、色々なずるさを。


 その目で見られると、辛いんだ。


 僕からは、夕日が沈みかけているのが見える。


 まぶしさのせいにしたら、なぎさの目を見ずにすむのかな。


 視線を外そうとした、その時。

「おーい」


「泰斗!」

 なぎさの声に振り向くと、砂浜につながる石段の一番高いところに、自転車と、泰斗。


「僕たち、バスで来たのに」

 中学校からだとしたら、自転車で30分くらい? バスケの試合のあとなのに。


「大丈夫、自転車乗せていい電車の駅、近くにあるから」

「え、泰斗だけ自転車で帰るの?」

「なぎさがひでえ! 二人と、海が見たかったから爆走したのに!」


 二人と。つまり、三人で。

 やっぱり、泰斗はそう言うんだね。


「えー、まあ、私たちもそうだけどね、ね、純哉?」

「うん。おつかれ、泰斗。試合は?」


「ほれみろ、純哉は優しいぞ、なぎさ! 勝った。入部してくれとか言われたけど二人と約束してるから、って自転車チャリ飛ばした!」

 邪魔にならないところに自転車を置き、石段を駆け下りてくる泰斗。


 いつでも、全力疾走。


 飛ぶような距離でも、飛び越えてきそうな。


 きらきらして、海にとけていきそうで。


 泰斗は、夕日みたいだ。


 なぎさは。


 ああ、そうだ。


 遠くに見える、水平線。

 手を伸ばしても、届かない、遥かかなた。


 それでも、夕日と、水平線。

 今日は沈んでも、また、明日。ずっと、一緒だ。


 僕は、なんだろう。

 寄せてかえるだけの波、とかかな。


「今何時……あ。俺も海! ってメッセージ入れたのに、二人とも見てねえ!」

「海がきれいだったから。もうこんな時間? 何か食べるにしても、最寄り駅にしないと叱られるよ!」

「うん、中学生だけで歩いていていい時間じゃなくなるね。行こう」


「じゃあ、手」

 なんとなく、石段では手をつなぐ流れになった。手を出す泰斗。


 あ、なぎさとだよね。

 僕が場所を譲ろうとしたら。


「こうだろ」

「そうそう」

 泰斗、僕、なぎさ。


「私や泰斗が真ん中って、なんだかしっくりこなくて」

「な、真ん中はやっぱり」

「「純哉」」


 泰斗、僕、なぎさ。


「ね、純哉って、水平線みたいだね」

 位置が決まり、石段を上っていたら、なぎさがこう言った。


「俺も思った。近くにみえるけど、遠くにも、な感じだろ? でも、必ず、俺たちと一緒にいてくれるんだよな」


「泰斗なのに、いいこと言ってる」

「なのに、ってなんだよ」

「だって、国語、純哉に勝てないじゃない。私にも!」

「真実だからムカつく!」


 夕日が輝いていて、よかった。

 そうじゃなかったら、僕の顔。


 赤いのが、丸わかりだよ。


 泰斗の自転車のところに着いたころ、僕はスマホを構えた。


「1枚だけ、撮らせて」

「どうぞ。あとでちょうだいね」「俺にも」


「もちろん」


 夕日は、泰斗。

 渚は、なぎさ。


 そう。

 だから、僕は、写す。


 お気に入りの、水平線を。



※こちらの三人は、カクヨムコン9参加作品『君は、ともだち。』の三人でございます。


https://kakuyomu.jp/works/16818023211957944018


自主企画主催者クロノヒョウ様のご配慮によりまして自主企画開催中ですがリンクを貼らせて頂きます。

本編は2,000文字を遵守しております。

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お気に入りの、水平線。 豆ははこ @mahako

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