第2話:お互いの想い。

雛乃はなにかにつけて涼介のことを気遣った。

下校時「一緒に帰えろ」って誘ったり・・・休み時間には涼介のそばにいる

ことが多かった。


それと言うのも雛乃は涼介のことが前から好きだったのだ。

そして涼介の家の事情を彼の親しい友人から聞いていて、それもあって同情と

愛情が相まって涼介のことが放っておけなくなっていた。


そんなこと知らない涼介はなんで雛乃が自分をかまうのか不思議でしかたが

なかった。

それと言うのも涼介は雛乃にコンプレックスを抱いていたからだ。

綺麗な子はまともに見られない・・・しかも自分より優秀な子には頭が

上がらないもの。


でも雛乃が涼介の心を癒していたことは間違いなく学校にいる時だけ涼介は

孤独から解放された。


だけど冷たい家に帰ると一気に孤独がやってきて、やりきれない寂しさに

心が震えた。

ここに西脇がいてくれたら・・・。

涼介は無性に雛乃に会いたかった。

そう思うと、雛乃に対する感情が一気に溢れ出た。


「会いたい・・・西脇・・・雛乃・・・会いたいよ」


「俺・・・雛乃のこと好きなんだ・・・」


それは今、気づいたことじゃなくずっと涼介の心の中でくすぶっていた。

涼介は相手のことも考えず自分の感情だけで衝動的に雛乃に連絡していた。


「はい、西脇だけど・・・田所くん?・・・なに?」


「会いたんだ・・・」


「え?会いたい?・・・」


「うん、会いたい・・・西脇に会いたい」


「田所くん・・・」

「分かった、今すぐ田所くんのおうちに行くから・・・待ってて」


雛乃はママチャリで涼介の家に向かった。

駅前を走って商店街を抜けて河川敷の土手を走って涼介の家の近くまで

30分かけて必死でやって来た。


涼介の家が見えると、彼が表に出てきていて雛乃を待っていてくれた。


「田所く〜ん」


雛乃は手を振った。

ママチャリは嫌なブレーキ音をたてて涼介の前に止まった。


「呼び出したりしてごめん・・・西脇・・・」


「いいんだよ・・・」


「しばらくでいいんだ・・・俺と一緒にいてくれないか・・・」


「いいよ・・・徹夜はできないけどギリまで一緒にいてあげる」


「外で話そう・・家の中に女の子を入れるのはよくないから?」


雛乃はクスって笑った。


「田所くん・・・案外真面目なんだね」


「からかうなよ・・・モラルの問題だよ」

「すぐそこに公園があるから、そこで話そう」


涼介と雛乃は家には入らず、歩いてすぐの公園へ行って古ぼけたベンチに

腰掛けた。


「あ、あのさ・・・涼介って呼んでいい?」


「いいよ・・・じゃ〜俺は西脇のこと雛乃って呼んでいい?」


「うん、いいよ」

「あのさ・・・涼介・・・この際だから伝えたいことがあるんだけど・・・」


「ん?なに?」


「私、前から涼介のこと好きだったの・・・でもなかなか言い出せなくて」


「え?知らなかった・・・でも俺って雛乃に好きになってもらえるような

出来のいい男じゃないよ」


「そんなことないよ・・・誰かを好きになるのに理由なんかいる?」

「好きになっちゃったらそんなことどうでもよくない?」

「それとも迷惑?」


「なに言ってんの・・・迷惑だなんてそんなことないよ」

「雛乃から好きって言われて迷惑だなんてそんなもったいないこと言ったらバチが

当たちゃうよ」

「あのさ、言葉を返すようだけど・・・実は俺も雛乃のことが好きなんだ」


「本当?」


「うん・・・嘘偽りなく」


涼介と雛乃はごく自然に手をつないでいた。


「ほら見て涼介・・・綺麗な夕焼け」


「ほんとだ・・・綺麗だ」


涼介も雛乃も今までこんなに綺麗な夕焼けは見たことなかった。

西の空一面が茜色に染まっていた。


「雛乃・・・あ、あのさ・・・キスとかって・・・まだ早いかな?」


「え?・・・キス?・・・早くないよ、遅いくらい」

「ああ・・・だけど私、今夜もう晩ご飯に焼肉、死ぬほど食べちゃったから、

めちゃニンニク臭いよ」


「別にいいよ・・・それもいいんじゃないか?」

「初キスがニンニクの臭いって、きっと忘れないと思うから・・・」


雛乃は笑うとまた眉に皺をよせて涼介に親指を立てた。


「じゃ〜いただきます、これ、俺の晩ご飯にしようかな」


「普通キスはデザートでしょ・・・晩ご飯はちゃんと食べなきゃ」


その言葉を無視するように涼介は雛乃を抱き寄せた。

そして綺麗な夕焼けに照らされて、ふたりの長い影がひとつに重なった。


おしまい。

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茜色のソリチュード。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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