茜色のソリチュード。

猫野 尻尾

第1話:素直になったら?

二話完結です。


亮介の家は両親が離婚した。

原因は父親の浮気・・・父親は女を作って家を捨てて出て行った。

母親も父親の浮気と多少ボケた義理の母親のなじりがひどくヒステリックを

起こして家を出て行った。


おまえら子供を放って・・・親の責任果たせよって亮介は思った。


残ったのは亮介と祖母のふたり。

彼はボケた祖母の面倒なんかみれない。


で役所に連絡して相談にのってもらった。

そしたら祖母は介護が必要だからと施設に入ることになった。

だけど、施設に払うお金なんかない。

で、自治体に保護申請をして金を借りることになった。

祖母の遺族年金も少しは足しになるだろう。

で、祖母はなにも知らないまま、施設に入った。


だからそれほど大きくもない家には亮介だけになった。

静かすぎる部屋にただひとり・・・一気に孤独がやってきた。

だけど泣き言は言ってられない・・・とりあえず生きていかなきゃ。

それだけだった。


ひとりになっても、それでも亮介は高校にだけは通っていた。

学校に行けば、誰かがいる・・・友人だっているから学校にいる間は孤独じゃない。

だけど家に帰ると気抜けしてしまって、なにもする気がしない。

明かりもつけないままの部屋で涼介はまるで生ける屍みたいだった・・・。


ある日、昼休み机につっぷして寝ていたら女子の誰かに声をかけられた。

誰だ?と思って顔を上げたらクラス委員の「西脇 雛乃にしわき ひなの」だった。


明るくて、見目麗しく、成績優秀・・・なにもかも逆の亮介とは月とスッポン。


「田所くん・・・あのお弁当は?・・・持って来てないの?」

「もう一週間以上、お昼食べてないでしょ?」


「見てたのか?西脇・・・」


「うん・・・田所くんの席より後ろだからね、目に入るの」


「自分で作れるけど・・・作れないって言うか、作る気がしないって言うか

もうどうでもいいんだ」

「俺のことなんか放っておいてくれ・・・」


「食べなきゃ夕方まで持たないでしょ?」


「だからいいって・・・お節介だよ西脇」


「どうしたの?・・・田所くん前は明るかったのに・・・何があったの?」


「言いたくない・・・人には言いたくないし言っても誰も分かってくれない」

「みんな自分のことで精一杯で他人のことを気にする人なんていないよ」


「そう・・・何かあったんだね」

「それにしたって・・・お昼はちゃんと食べなきゃ栄養のバランスが取れないよ」


あのね、よかったら私、明日から田所くんのお弁当作ってきてあげる・・・

自分のお弁当作るついでだから・・・」


「え?・・・いいよ、そんなこと」

「なんの義理があって俺に弁当なんか・・・」

「俺の彼女でもないのに、なんでそんなに親切にしてくれるんだよ」


「私ってね、お節介なの」

「ね、いいよね、田所 亮介たどころ りょうすけくん・・・今だけでも

素直になったら?」


今だけでも素直になったら?・・・そう、いつの間にか亮介は卑屈になっていた。


西脇にそう言われて、亮介はハッと目が覚めた気がした。

なんて説得力のある俺の目を覚まさせる言葉・・・「素直になったら?」


だから亮介は素直に雛乃の申し出に従った。


そんな訳で、次の日から雛乃は亮介に弁当を作って来てくれるようになった。

西脇と同じ弁当。

クラスのやつに引かやされた。


「ペアか?・・・仲がいいな・・・おまえらもうやったのか?」


って・・・下品なやつ・・・。


そんな言葉なんか気にしないように西脇がクスクス笑った。


「笑うなって・・・からかわれてるんだぞ・・・」


「言いたい人には言わせとけばいいの」


(別に仲がいい訳じゃない・・・西崎のお節介と、それから思いやりだよ)


でも亮介は内心嬉しかった。

だから少し笑ってしまった。

で、それを西脇に見られた。


雛乃は眉に皺を寄せて亮介に向かって親指を立てた。

その瞬間、亮介は雛乃のことを可愛いって思った。


弁当をきかっけに亮介は雛乃とよく話すようになった。

明るい性格の雛乃と話してると気持ちがほぐれた・・・つまり亮介は雛乃に

癒されたのだ。


ただ亮介にしてみれば雛乃は同情で弁当を作って来てくれてるだけで、

なにかを期待しても虚しい思いをするだけだと思った。

西脇は今更、俺なんか相手にはしないだろうから・・・そう思った。


つづく。


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