第拾弍話「異世界と繋がる村」


「え?」


「お三方、私の部下が何か?」


 いきなり声を荒げる老婆三人に俺と夏純は困惑する。だが須座井さんは冷静で即座に対応していた。


「似ている、いや……まさか」


「失礼した須座井の客人、そちらの男性が知人に似てましてな……」


「う、うむ、客人すまなんだ……」


 今、謝罪したのが岩古総代の岩古松だ。これは事前情報で仕入れていたから間違いない。残りの二人は知らないが恐らくそれに次ぐ立場の人間だろう。そしてこの三人こそが村の支配者だ。


「そうでしたか……高本さん?」


 俺は当然、首を横に振る。するとそれを見た老婆の中の一人が口を開いた。


「他人の空似……か、失礼、客人そなたの祖母の名は?」


 右に座する老婆、後で聞いたら中央に座する松の妹にあたる岩古 カイは俺にしつこく詰問して来た。だから俺は偽名を答えようとしたがなぜか素直に祖母の名を口にしていた。


「は、はあ……珠子、ですが……」


「ふむ、……いや、まさか……な、だが似ている……」


 そんなに似ている奴が過去に村に居たのか? と、考えていたら再び須座井さんが話に割って入る。タイミングは完璧だ。


「お三方……その、本日は……当家の」


「おお、そうであった、多額の奉納には岩神様もお喜びに違いない」


 話しが上手くそれた。そして姿勢を正した松を始め列席している者が頷いていた。田舎の占い師が占いで指示を出すなんて時代錯誤を越えたファンタジーだ。


「ありがとうございます……当家が有るのは全て岩神様と岩古家の御威光あってこそでございます」


「そうかそうか……当家も須座井の家の活躍に期待しているぞ」


 だが目の前で女子高生が頭をこすり付けている以上、俺と夏純も同じようにするしかない。その俺達の態度に気を良くしたのか話はサクサク進み、お布施の確認と神の宣託を告げられ儀式は終了した。


「では、宣託の義と、お言葉をしたためた書、確かに……」


「うむ、本日はゆるりと過ごすがよい、共の二人も自由にされるがよい」


「「ありがとうございます」」


 須座井さんだけ別室に通されると手紙を受け取り、その間に俺達は残された者らとの歓談をする。探られている感じはしたが問題は無い。俺達は全て想定通り受け答えし戻った須座井さんと本殿を出ると驚かされた。




「体が楽になった……でも何でだ?」


「ハル? もう大丈夫そ?」


「……気付いてたのか夏純」


 疲れているように見せていたが夏純には気付かれていたらしい。だが、当然かとも思う。だって俺が夏純に隠し事は不可能だ。


「そりゃカノジョですからね~?」


「え? 疲れていただけでは無かったのですか?」


「さすがにこの程度じゃ疲れないさ須座井さん……だが本殿に入ってから急に体が楽になってね、出て来てからも落ち着いてる」


 こうなると考えられるのは一つ。二人と俺の違いは体内に魔力を保有しているかどうかだ。そこで俺は道すがら魔導スマホを起動させた。


「そのスマホは?」


「千堂グループから渡されてる物さ……ある数値を測る機能も有ってね」


 正確にはカイさんから渡された物だが面倒なので千堂グループ関連にするのが定例だ。何よりこれは七海会長も納得済みの対応でも有る。そしてスマホは岩古本殿だけは魔力濃度が低いと示していた。


「そうなのですか……初めて聞きました」


 須座井さんは魔力や神気について知らされていないらしい。つまり異世界について知らない表の人間だ。


「それでハル、どうなの?」


「反応有り……千堂に報告をしよう」


 俺は那結果さんと千堂グループ双方に魔力検知された村の存在を改めて報告した。そして岩古村は異世界と何らかの繋がりが有るのがほぼ確定した。


「七海先生に?」


「ああ、こんな事例は初めてだしな、じゃあスマホの電源は落としておくか」


 そして結果的にこの判断は正しかった。この時は知らなかったが実は魔導スマホの魔力は敵に探知されていた。


「それより色々と回って良いって言われたし、行ってみる?」


「ではお二人は予定通り調査を、私は実家への報告の準備が有りますので先に」


「分かったよ。じゃあ後で平泉さんの家で」


 神社の長い階段を降りると俺達は須座井さんと別れ村の探索を始めた。気になっていた箇所の調査を始めた。西側の俺達が侵入するために使ったトンネル方面や、反対側の東側は谷が有って調査のしがいがある。


「トンネルと谷か……気になる?」


「少し、違和感がな」


 さらに南側つまり村の入口で森付近は大きな屋敷と数軒の家が有るだけで過疎っている。反対に中央には大きな屋敷が三軒ほど有った。そして、それらを監視するように岩古神社が山の上に建っている。そこが北側だ。


「逃がさないような監視体制か?」


「そっか……でも南が過疎ってるのって関係有る?」


 そんな風に俺と夏純が話していると不意に後ろから声が聞こえた。


「わたしの家は嫌われてるから……村から」


「え? あっ……君は」


「ちゆちゃん!?」


 背後から声をかけて来たのは以前お菓子を渡した女の子ちゆちゃんだった。彼女は今日も白のワンピースを着て一人だけ浮いてるが礼儀はしっかりしていてペコリとお辞儀した。


「この間はお菓子ありがと……美味しかった……です」


「そう、良かった。今日も後で少しあげるね!!」


「いいん……ですか?」


 彼女は小さい子供ながら前回も意外と色々と教えてくれた。だから会えれば話を聞きたかったから実は用意していたりする。そして俺達は彼女から岩古村の思想や幾つかの謎を知る事になった。

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