本来の使い道
翌朝。僕は集団登校のために、いつもの待ち合わせ場所に向かった。そこにはすでに結衣ちゃんの姿があった。昨日の今日だ。何を話せばいいか分からない。
「ほら、どうしたの? 登校しないと遅れるよ?」
どうやら考え込み過ぎたらしい。
登校途中、重そうな荷物を抱えたお婆さんが信号待ちしていた。果たして、その荷物を持って信号が変わる前に渡り切れるだろうか。
「お婆さん、荷物持ちますよ!」
「あらあら、嬉しいねぇ。ちょうど困っていたところなの。ここの信号短いからねぇ」
そう言ったはいいものの、僕でも持てる自信はない。そうだ! 人の役に立つんだから、こういう時に魔法を使えばいいんだ!
うーん、と唸りながら荷物を持ちつつ「浮かべ、浮かべ!」と念じる。すると、予想通り軽くなり、なんとか持てる重さになった。しかし、おかしいな。僕にはここまでの重さのものを持ち上げる実力はまだないはずだ。
無事に信号を渡り切ると、お婆さんにお礼を言われた。「情けは人の為ならず。きっと、巡り巡ってあなたに良いことがあるわ」と。
お婆さんとお別れして少し経ってからだった。
「蓮くん、優しくて力持ちなんだね」
結衣ちゃんが微笑みながら、褒めてくれる。うん、人の役に立つのも悪くはない。
「さて、物を浮かせるのには慣れてきたようだから、次の魔法を教えよう」とお父さん。
「次は動く物のスピードを遅らせる魔法だ」
何の役に立つのか、検討がつかないが、いつか役立つに違いない。
その日の夕方、僕はへろへろだった。新しく魔法を覚えるのが、こんなに難しいとは。お父さんも修行を乗り越えたのだ。僕も頑張らなくては。
翌朝。僕はひどく頭痛がした。おそらく昨日魔法の練習をしすぎたからだろう。まあ、なんとかなるだろう。待ち合わせ場所に行くと、微笑んだ結衣ちゃんがいた。そうだ! 昨日はかっこいいところを見せたんだ。僕に惚れたに違いない。
登校途中に信号待ちしている時だった。幼稚園くらいの子どもがボールを車道に転がしてしまい、拾おうとした瞬間に自動車が突っ込んできたのは。
まずい。このままでは、あの子は死んでしまう。とっさにスローモーション魔法をかけて、子どもに覆い被さる。きっと、僕も無事ではないんだろうな。
あれ? 自動車とぶつかったのに、痛くない。それどころか、自動車がぷよぷよしている。まるで、ゼリーのように。
何はともあれ、僕も子どもも助かったわけだ。一件落着。もちろん、警察から事情聴取を受けたけれど。
その日の帰り道だった。結衣ちゃんから驚きの発言があったのは。
「蓮くん、魔法使いでしょ」
急な質問に答えが出ない。そもそも、なんで結衣ちゃんから魔法使いという言葉が出たのだろうか。
「実はね、私も魔法使いなんだ」
結衣ちゃんが魔法使い!?
その時、あることに気づいた。お婆さんの荷物を持った時の異常な軽さ、自動車に轢かれても痛くなかったおかしさ。結衣ちゃんが魔法使いだったなら、合点がいく。荷物運びを手伝うため、僕が交通事故で死なないため。どちらも人のためだ。
「まあ、僕も魔法使いなんだけど、結衣ちゃんみたいにうまくは使えないかな。半人前だよ」僕は素直に白状する。
「それは私も一緒。交通事故の時なんか、私一人じゃどうにもならなかったわ。ありがとう。かっこよかったよ」
おそらく、僕の頬はりんごのように真っ赤に違いない。
「じゃあ、半人前同士が力を合わせれば、一人前になれるのかなぁ」と僕。
「そこまで、うまくいかないと思うけれど。でも、一緒に頑張る価値はある。これからも一緒に頑張ろうね!」
その時の結衣ちゃんの笑顔を忘れることはないだろう。これから先、どんな困難が待ち受けていようとも。
我が家は魔法使い一家 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993
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