我が家は魔法使い一家
雨宮 徹
僕は魔法使い見習い
僕は頭が悪い。学校のテストの順位は、下から数えた方が早いくらいだ。
この前は国語の小テストで36点を取ってしまった。お母さんに見せるわけにもいかないから、バレないように捨てた。テストの存在自体を知らなければ、問題あるまい。
しかし、テストがあったことがバレてしまった。友達のお母さんから聞いたらしい。これだから、お母さんたちの井戸端会議は嫌いなんだ。
「
唐突だった。お父さんから呼び出しをくらったのは。どうせ、「もっと勉強しなさい」という内容だろう。お母さんから口うるさく言われたから、もうお説教なんてごめんだ。
「そこに座りなさい」
お父さんに指示されるがままイスに座る。
「前置きをするのは嫌いだから、結論から言おう」
「分かってるって! 勉強すればいいんでしょ!」二回も叱られたら、たまったものじゃない。
「蓮、人の話は最後まで聞いてから喋りなさい。まあ、確かに勉強を頑張るのは大事だ。でも、今回の話は違う」お父さんの表情がより深刻なものに変わる。
頭が悪すぎて、家を追い出されるのだろうか? いや、さすがにそれはないか。
「実はな、お父さんは魔法使いなんだ」
魔法使い!? お父さんまで頭がダメになったらしい。我が家でまともなのは、お母さんだけになってしまった。
「その表情からするに、信じてもらえてないらしいな。よし、論より証拠。一つ見せてやろう」
お父さんはリビングの机を指さすと、何やらぶつぶつと呟いた。次の瞬間、机が宙に浮く。
「これで、信じてもらえたかな?」
「お父さん、バカにしないでよ。どうせ、天井から吊ってるとかでしょ」
いい大人がタネが分かりやすい手品をするなんて。
「ふむ。じゃあ、次は蓮を浮かせて見せようか」
今度は僕を指さす。なんと宙に浮いた。おかしい。僕にはピアノ線なんてついてないぞ?
「さて、今蓮が宙に浮いているように、お父さんは魔法が使えるんだ。これで、信じてもらえたかな?」
「ひとまず信じてあげるから、おろしてよ!」
宙吊りのまま会話ができるほど、僕は器用じゃない。
「ああ、すまん」
僕がイスに座り直すと――正確には宙吊りから解放されると――お父さんは小さく咳払いをした。
「さて、お父さんが魔法を使えるように、蓮も魔法が使える」
僕にも魔法が使える!?
「もちろん、修行したらだ」
うへぇ、ここでも修行という名の勉強が必要なのか……。
「でもさ、お父さんが魔法使いなら、家だって新しく出来るんじゃないの?」
何を隠そう、我が家は掘ったて小屋のようにボロい。風が吹けば飛んでしまいそうなくらいに。
「それが出来たら、とうの昔にそうしてるさ。お父さんが魔法を使えるのには条件がある」
「魔法なのに条件付きなの? 不便だね」僕は素直に感想を述べる。
「条件その一。人の役に立つ時に使うこと。条件その二。伝承する時に見本として使うこと。どちらかの条件を満たさないと使えない」僕の質問に構わず続ける。
人の役に立つ時か。それでは、
「さて、そういうわけだ。明日から修行だぞ」
なんか、短時間に色々あって、頭が回らない。ひとまず、こくんと首を縦に振る。
翌朝。今日は物を浮かす魔法を教えてくれるらしい。庭にでると、お父さんがそこら辺に落ちている石を持ってくる。拳くらいの大きさだ。
「よし、まずはこれで練習だ」
「え」
「まさか、最初から重いものを浮かせられると思っていたのか?」
もちろん、そう思ってたさ! 期待しすぎたらしい。
それから、毎日のように訓練を続けると、小さなものを浮かせられるようになってきた。コツを掴めば意外とすんなり出来る。この調子なら、お父さんみたいに重いものを浮かせられる日も近い。
ある日のこと。結衣ちゃんと一緒に学校から帰る時にふと思った。もし、落ちている石を浮かせたら、「蓮くん、すごい!」となるに違いない。
「結衣ちゃん、そこに落ちてる石を見てて。浮かせてみせるから」
結衣ちゃんが怪訝な顔をして見てくる。いつもの可愛らしさはどこにもない。ええい、やって見せれば分かってもらえるさ。僕の凄さが。
僕は石に意識を集中する。浮かべ、浮かべ!
ところが、いつまで経っても一ミリも浮かない。肝心な時に使えない魔法なんて、意味がないじゃないか!
その日、僕と結衣ちゃんは無言で帰った。あまりにも気まずくて。
「
そりゃあ、そうさ。なにせ、好きな結衣ちゃんの前で恥をかいたのだから。
「なにがあったのかは知らないが、魔法が使えるのは人の役に立つ時だけだ。そこを肝に銘じておくように」
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