ビリビリ惑星

春藤あずさ

第1話

 数十年の旅を経て、宇宙船はある惑星へと近付いた。木星や金星のように、大気はガスのようなもので覆われており、時折稲光が走っている。

 この恒星系に近付いた時、その惑星から何か人工物のようなものが飛び出してきたと、主張した船員がいたのだ。


 電波でファーストコンタクトを試みる。返事はない。

 それならば、この謎の大気のなかに、飛び込んでみるしかないだろう。


 宇宙船は、おそらく二酸化炭素や窒素で構成されているのであろう、ガスの層を突破した。


 その瞬間であった。


 宇宙船は謎の力により、制御を失った。

 窓から外を見ると、ビル群も見えるが、それよりも、船体にまとわりつくような、紫色の稲光が目についた。

 船員達は、体の内側から、ビリビリと電撃のようなものが走っているのを感じた。


「なんだ?!やはり知的生命体がいるのか?!」


『何者だ。我々の星に侵入するとは。』


 船内に響くほどの大音量で、謎の声が聞こえた。

 制御不能に陥った宇宙船は、惑星の地面に当たるであろう場所まで、ゆっくりと進行した。 



 そこには、体全体は黄色がかっており、手足が長く、10等身で鼻のない、シワだらけの異星人がいた。

 全長は5メートルほどになろうか。人間の基準でいうと巨大である。

 その顔を操縦席の窓に近付けて、窓から中を覗いていた。


『ふむ。敵意はなさそうだ。何をしにきた。』


「うわ、えー、私たちは、銀河探索の任務で、地球という惑星からきました。この恒星系に到着した際、人工物のようなものが出てくるのが見えたので、調査の為立ち寄りました。」


「大気で遮られて、中の様子が全くわからなかったので、仕方なく大気圏を突破いたしました。」


『なるほど。確かにこの惑星は、外から見えないよう、我々が少し細工をしておるからな。地球というのは、ソイル星系の惑星のことだろうか。ここから23光年ほど向こうにある星系だ。』

 そう言って、手足の長い異星人は、地球の方向を指差し、紫色の稲光をまっすぐ光らせた。


「おそらくそうです。こちらでは、ソイル星系と呼ばれているのですね。」


『パパー!何してるの?』


『ベラ、何をしているのだ。我は仕事中であるぞ。この船が不法侵入を犯したので、裁いておるのだ。』


『わー、おっきな船!すごい!』


『こら、仕事の邪魔をするな。』


 若い女の子のような声が聞こえた。その声量も、門番の異星人と同じく、船内に響くほど巨大であった。窓から見ても、その子本人の姿は見えない。


『はぁ……まあいい。我々はこの星を、ガベルと呼んでいる。呼びたければ、ガベル星人とでも呼べ。』


「じょ、情報ありがとうございます。おい、他に聞いておくべきことはあるか。」


「失礼かもしれませんが、これだけは聞いておかなければなりません。貴方たちは、他の星と戦争をする気はありますでしょうか。」


『戦争か?攻めてこられれば戦争はするであろうが…地球人は、我々と戦争がしたいのか?』

 その言葉と同時に、船員全員に今まで以上の電撃が走った。皮膚がビリビリするとかいうレベルではない。心臓の鼓動に合わせ、全身がびくつくような電流が走った。よく見ると、皮膚の表面から、紫色の電気が飛び出しているのが見える。


「いえ、そうではありません。正直、我々は自分の星である、地球の中さえ統一できておりませんので、他の星と戦争はしたくないのです。」


『そうであれば、我々と同じであるな。我々も、他の星とは戦争はしたくない。』


「その言葉が聞ければ結構です。我々は銀河の平安を祈っております。」


『そうか。地球人はこの星を攻める気はないのだな?』


「もちろんです。そんな余裕はありませんので。我々はあくまで、調査船です。」


『この星から今すぐ出ていくのであれば、我々も構わない。この星の大気を突破するのは、難儀であろう。大気の外まで送ろう。』


 その声が聞こえると、ここまで運ばれた時と同じように、ゆっくりと大気圏から離脱した。それと同時に、身体中を走っていた電撃も消えた。


「なんだったんだ……すごい生き物だったな。ガベル星人は……」


 船員の1人がそう呟くと、後ろから声が聞こえた。


『そうかなぁ。お父さんはすごいけど、みんなあんな感じだよ?』


 驚いて振り向くと、そこには、身長1mほどの、ガベル星人がいた。肌は黄色く、腕と足は異様に長い。顔に鼻はなく、頭部からツインテールのように黒い髪が伸びていた。


「な?!まさか君は……ベラかい?」


『そうだよ!いろんな星に行けるなんてすごい!私もついてくことにしたの。』


 ベラは、普通の人間ほどの声量でそう言うと、キュルンという音が聞こえそうなほど、ウインクしながら首をかしげた。


「それは……お父さんは何も言わないのか?我々は他の星と、トラブルを起こしたくないのだが……」


『だいじょぶ!知らない星の船が来たら、だいたい誰か乗ってくよ?』


『これからよろしくね!』


 ベラは、船内全体に響くほどの声量でそう言った。

 異星人との長い旅のはじまりだった。

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ビリビリ惑星 春藤あずさ @Syundou-Azusa

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