第十九話

目的地へ到着するまでも、また様々なものを初見で目の当たりにしている。

どの教室を覗いても、物が一人でに動いては言葉を発していたり、音楽室や美術室では絵や写真が動いていたり、無人で楽器が演奏されていたり。

生徒内などでは見かけない顔の怪異が動き回っていたりと、本当に自分が別世界へ足を踏み入れた感覚だった。


「…Dig、訊きたい事がある

私はお前達に会う前、巨大な影のようなものに追われた

…あれば一体何なんだ?」


私は歩きながら彼へ質問した。

…、Digは何だか、中学生以下とは思えない程堂々とした様子でいた。


「…あれはWentyの変装だよ

あいつはちょっと強い力持ってて、あんな感じで相手を惑わすことが出来るんだ

因みに変身じゃないからな。あくまでも変装」


…、Wentyの変装、だったのか。

…ここで言う変装と変身の違いがよく分からないが…。

とてもあんな小さな身体であれ程の力が使えるとは思えなかった。…色々な怪異があるのだな。

元々はDigもWentyも私を警戒していて、自分達が邪魔されていると思ったから追い出そうとした、と言う事なのだろうか。

…まあどちらにせよ、誤解は解けたようで良かった。


「…、私を殴ったのはお前か?」


私がそう訊くと、Digは少しムスッとした顔で私は振り返り、また前は向き直った。


「…何だよ、怒ってんのか?」


また少し不貞腐れたような返事が返ってくる。

…、別に怒っていると言う訳ではない。


「そんなことはない

…ただ、話があるのならば普通に話しかけてくれば問題なく会話には応じてやっていただろう

……、何故初めあんなに私の事を敵視していたのか違和感を感じている

何かそうなる理由でもあるのか?」


こんなにしっかりとしているのならば、話しようとする気も起きなくないはず。

何故、わざわざ私を驚かすような行動を取ったのかが私には疑問だった。


「…、……

…俺は幽霊に近い存在だ。けど今は座敷童子みたいな存在になってる

昔生きてた時、同じ学年の人達とかに、…、色々されて

それがその時凄く嫌だったんだ。俺はそれから人とか信用出来なくなって、…だからあんたのことも怖かった

また何かされるかもしれないって

…それで、今はそのまま念が此処に残って今はこんな感じで過ごしてる

記憶も感情も身体も、その時のままなんだ」


Digは少し躊躇った様子を見せた後、そう話してくれた。

…私はその話を聞いて、すぐに返事が出来なかった。

…、念が残る上、それも「生きていた頃」と話していたと言うことは、

……生前に、何かがあったのだろうか。


「…そうか

ありがとう」


私は多く追求せずに、それだけ返事をした。

…中にはそう言った理由で怪異になった者もいるのか。

物に命が宿っている事にも、それぞれ何か事情がありそうだ。


「…着いた。此処」


階は混ざり合っていたが、入口の見た目もいつものコンピューター室そのものだった。

…、それで、私はPalと言う者の心を開く、と。


「…Digにとって、Palはどう言った存在なんだ」


Digはそれについて考えたのか、少し間をおいてから返事をした。


「…普通に俺の友達だよ。女子だけど

仲良くでよく遊んでたから。でも最近何か元気なくて

気付いたら会えなくなってた

話とか聞こうとしたんだけど出てきてくれなくて

あいつは電子の世界に住んでるから、その電源が付いてないとこっちに移動出来ない。だからいつでも気分が良くなった時に出て来れるようにパソコン?の電気を付けっぱにしたかった

…だけど、あんた達が一々消すから怒ったんだよ」


…電源がついた状態のパソコンがその子の入り口で、私達がそれを絶っていたと言う訳か。

…今まで気付かなかったが、まさかそんな事情があったなんてな。


「…分かった

出来ることはする」


そうDigへ伝え、コンピューター室の中へと入った。

…辺りを見渡すと、やはりあのパソコンの電源は付いていた。

…だが、やはり変化は見られないようだった。

私が中へ入ってそのパソコンまで移動すると、Digも同じように着いて来ていた。

…思い返せば、私はあまりコンピューター下へ入ったことがなかったな。

と言うより、機会があまりなかった。


「誰ー?」「見ない顔」「背でっか」


辺りから様々声が聞こえてきて、少し見渡す。

…実体はない。どれもパソコンから聞こえてくる声だ。


「生人だよ

Palと話しに来た。悪い人じゃない」


歩いて向かいながらDigは説明する。

…私も今はあまり気にせずPalのパソコンまで向かった。


「Digじゃーんやっほー」「Pal?」「最近引き篭もってるからだ」


Digの言葉に対して、また返事がちらほら聞こえてくる。

…物の全てに命が宿っているようで、相変わらず不思議な感覚だった。


「お前ら、何かPalのこと知らないの?」

「知らなーい」「そもそも移動出来ないから見に行けない」「寝てんじゃないのー」


…彼らはPalの事は良く知らないようだった。

…ならば良い方向へ切り出す方法が分からないな。

手探りで進めるしかないか。

そうこう考えているうちにPalのパソコンの前へ到着する。

…。

…もしも、Palがこうなってしまった原因が怪異達の中ではなく、私達の中にあるのだとしたら、

それは本当に申し訳ない事であって、一刻も早く改善に努めなければいけないと思っている。

一体、何が彼女をこうさせてしまったのだろう。

…、まずは何から始めようか。


「…聞こえるだろうか

名前はPalと聞いた。…、私はこの学校の教員だ

…私に顔を見せて、話をしてくれないだろうか」


前置きとして、まず彼女は話しかけてみた。

…、


「……

…誰…?」


すると、画面の奥から返事が聞こえてくる。

…多少の受け答えは出来る状態か。


「名はColonelと言う。話したい事があるんだ

…以前までは問題なかったものの、どうやら最近は他の怪異達に顔すら出さなくなってしまったようだな

…、皆お前を心配しているようだ

何か、そうなってしまった理由はあるのだろうか

もしその原因がこちら側にあるのなら、…それは謝りたいし、これからは過ごしやすい環境を作ろうと思う」


私が話すと、Palは返事をせず黙った。

…、

しばらくすると、

画面の中からゆっくりと若い女性が顔を出した。

…大体高校生ぐらいだろうか。

私はスペースを空けるために少し後ずさった。


「Pal!!お前何やってんだ!心配したんだぞ!!」

「…あれ…Dig…、久しぶり…

…、って、デカ…

誰…?Colonel、だっけ…?」


思ったよりも早くに顔を出したようで驚いた。

黒い髪のストレートで、片目が隠れている。

見た目は人型だが、瞳の様子などから電子の中を生きていると言うことが何となく分かる。

…雰囲気は少し暗い。


「お前何今日は急に顔出して…、何で俺の時は出て来てくれなかったんだよ!」

「…それは…、

…、今日は全く知らない人だったから誰か気になって…」


思った以上に、会話も出来る状態のようだ。

そうなれば、話をしていくのも然程難しい事ではないかもしれない。

…見るからに性格は繊細そうだ。

慎重に話しかけたいところだが。


「…Pal、今こうして顔を出してくれたようだが

今後また同じように皆と関わっていく気持ちはあるのか?」

「…、……、いや…、

…それは…、」


Palは相変わらず小さな声ではっきりとしない返事をしてみせた。

…やはり何か彼女の気持ちを病ませる原因がありそうだ。


「なら、その原因は何なのだろうか

…正直に話してもらって構わない

私はお前の味方だ

何よりお前がこれから過ごしやすい環境へ改善出来るよう行動を起こしたい」


少し、初対面の割に距離を詰めすぎな気もするが、これで構わない。

こちらの気持ちが伝わらなければ意味がない。私が引け目を感じていれば彼女もそのようになってしまうだろう。

積極性のある言動だからこそ、相手の気持ちをも働きかけるものだ。

Palは少し顔を逸らして俯いた状態で、横目に私へ視線を向けながら話を聞いていた。

…遠慮気味だが、常時目は合っている。話もしっかりと聞いてくれている状態だ。


「………

…、いや…、あの…

…私が一人で元気なくしてるだけだから…

……申し訳ないし…」


Palは引き続き遠慮をするような返事をしてみせた。

…、自分に対してそう思ってしまう気持ちは、私もよく分かる。


「…それを教えて欲しいんだ

どんなに小さな悩みだろうと構わない。私達が知りたいのは、何故今まで問題のなかったPalがここまで顔を出さなくなってしまったのか。その理由だ

誰にも話さず抱え込んでしまえば、一生その心苦しさを感じ続けることになってしまう

私達は、今後お前にそうさせたくないんだ

…、どうか話してくれないだろうか

別に話されたからと言って叱ったり指摘したりするつもりもない

ただ話を聞きたいんだ」


私は出来る限り彼女へ訴えかけた。

…私の様子を見ると、Palは少し考えるようにまた目を逸らした。


「…

……あの…、

…、……言っていいのか分かんないけど、

昼…?パソコン触ってくる人が変なデータ溜め込んでくるから体調が悪くて…」


…、どう言うことなのだろうか。

間違いなくこちら側も関係している。詳しく訊くに越したことはない。


「昼このパソコンを使用するのは恐らく生徒だろうな

…そのデータとは一体何なんだ

…遠慮しなくていいPalに原因があることではないとは分かっている

…むしろ解決するために訊いていることだ」


また私はPalを落ち着かせるよう話して促し、様子を見た。

…Palはまた私の方へ視線を移しながら俯いた。


「……

…その、生徒さん…?が、これを使う時に、…多分、余分なことを沢山調べて、履歴を消さないままにしてるから…?

…こっちからはあんまり詳しいこと分からないんだけど…、」


控えめだが、Palはそう答えてくれた。

…余計なこととは何だ。

Palはパソコンの状態によって身体にも影響が出るが、実際その細かい原因までは分からないのか。

…自分で解決することが出来ないのならばさぞかし苦しいことだろう。


「…一度こちらからパソコンの状態を調べてみてもいいだろうか

Palが顔を出したままでもパソコンは動かせるのか?」

「あ、うん…、全然…、」


そう言ってPalは少し引っ込んで端に寄った。

…Palが端に寄ったことで画面が見えるようになり、私はパソコンの操作をし始めてデータの状態を探った。

…履歴、と言っていたな…、ウィンドウやタブを調べたらいいだろうか。

確認出来る場所まで移動し、開いてみると、


「うゎ…、これだよ…」


Palの表情は困ったように眉間に皺が寄った。

履歴を開いてみると、数え切れないほどの開きっぱなしのタブが溜まっていた。

…もう数えれば百以上はあるだろうか。

内容は、恐らく授業に関係がないようなものばかりだ。


「…これは酷いな

叱られるようなことをするのならば、せめて隠し通せるようにすればいいものの…、

…こう言ったデータが溜まっていくことは、Palにとって負担がかかるのか」

「…なんか身体の中にゴミが溜まって行く感覚…、重くなってく

お腹痛いとか頭痛いとは違うんだけど、身体は怠くなるし思いし、気分も悪くなるから外に出る気分になれなくて…

原因をみんなに言ったら、きっと怒って生人達に悪さしたりしちゃうから…、…私のせいでそうなるのが嫌だったんだ

…単に気分悪すぎて喋れなかったのもあるけど…」


…皆に事情を伝えられないのにも色々と訳があったと言うことか。

…とにかく、原因を突き止めることが出来て良かった。

解決には繋がるだろうか。


「…とりあえずこのデータを消去してみる

…一括で消すから、突然気分が良くなったりはしないかもしれないが、身体に変化を覚えた時に教えてくれ」


私はパソコンの操作で、各地に溜まったデータを消去していった。

…今まで私達の様子を見ていたDigが、Palに向かって話しかけた。


「…信用されてなかったわけだ…!

俺になら言ってくれれば色々考えたのに!何ならこいつのことも殴らずに済んだのに…!」

「……それはごめん…

もしもって考えたら怖くて…」

「とにかく、これから何かあった時はしっかり言ってくれ!

それで生人に悪さする奴らもそいつらだから、いつも仲良い俺達なら大丈夫だよ

ちゃんと言えよな!」


Digも相変わらず落ち着いた様子では無かったが、Palの状態があまりに重い訳ではなくて安心している様子だった。

…それほど時間がかかるというわけでもなく、いらないデータは全て消去できた筈だ。

少しでも、Palの状態が良くなればいいのだが。


「…データは消去し終えた

今の時点では何か変化はあるのだろうか、」

「…、確かにちょっと身体軽くなった気はするけど…、」


Palはそう言って少し姿勢を伸ばして見せた。

…彼女も確実な原因までは分かっていないようだったが、実際履歴に溜まっていたデータはとんでもない量だったから少なからずこれが原因の一つではあるのだろう。

私はもう一度パソコンのデータを確認した後、ポップアップメニューを閉じた。


「……あ、でも、やっぱり気分楽になってきたかも…

…今パソコンの外出れそう」


間も無くして、見た目からもPalの身体の気怠さは消えていき、そのまま画面から身を出そうと前のめりになる。

私達は彼女が出られるよう少しスペースを取った。

…すると、Palは躊躇うこともなく、ゆっくりと画面から完全に身体を出し、教室の床へと両足をついた。


「Pal!!もーーこんな簡単に出てきてくれんならもっと何かしてやったのに!」


Digは出て来たPalへ抱き付いた。

…Palも、嬉しそうにしながらも恥ずかしそうに笑顔を見せた。


「Palーお久ー」「元気なったじゃん」「良かったねー」


周りのパソコンからもまたちらほら声が聞こえてきた。

…皆、Palのことを心配していたようだ。


「皆んなー、もう元気だよ

また話そうね」


Palもそれに応えて返事をして見せた。


「…頼み事は解決したか?」


私は二人の様子を見ながら、腰に手を当てて訊いた。

…何ともまあ、私なんかが力になれたようで良かった。

何だか、生徒一人の問題を解決したような気分だ。


「…、まぁな、Palも戻って来たし」


Digは少し口を尖らせながら言った。

…だが、どこか照れ隠しを感じるかのような様子だった。


「何だ、お礼ぐらい言ってくれてもいいんじゃないか」


私は半笑いで、若干揶揄うようにまたDigに問い詰めた。

私にそう言われ、目を細めて視線を送ってくる。


「…でも私、このまま解決できなかったら、これからどうなっちゃうんだろうって凄く不安だったから

助けてくれてありがとう」


Palが、私にそう伝えて微笑んだ。

…笑えるようにもなって何よりだ。

私も返事をするようにPalに微笑み返した。


「また何かあったならば私を呼ぶといい。出来る限り力になろう

…また人を殴るようなことがないためにもな」


Digにまた揶揄うように言ってみたが、

…Digはまた私を少し睨んだ後、何も思っていないかのように笑みに直した。


「助かった

頼んだのがお前で良かったかもな」


…とは言え、生徒が無断でパソコンを好き勝手使っていた事が今回の原因だ。

…、同じことが繰り返されないためにも、また指導し直さなければ。

とりあえず、用が済んだのならば今日もう帰るか…、

……?

…しまった。

Majorに一度も返事が出来ていない


「おい、なあ、私の携帯はどうした」


殴られた後から一度も携帯を触っていない。

Majorに酷く心配をかけさせてはいないか、


「?携帯?あーなんかみんな触ってる光る板みたいヤツ?

ポケットに戻しておいたよ。流石に盗んだり預かったりする勇気なかったし」


Digが私のズボンのポケットを指差して言った。

私は急いでポケットから携帯を取り出し、電源を付けた。

…三件、Majorから連絡が届いている。


『先生大丈夫…?』

『大丈夫?』

『何かあったの…?』


…届いたのは一時間以上前だ。

そんなにも長い間既読をつけてそのままにしていただなんて、…心配しないわけがない。

すぐにMajorに対して返信をした。


『遅くなってすまない。今から帰る。』


…無事メッセージは送れたようで、送信済みの印がついた。

そう言えば、まだ晩飯を食べていないんだった。気付けば腹も減ってきた気がする。


「何だよお前、彼女とかいんのか」


そう言われ、顔を上げる。

…返信を済ませることに必死で何も気にしていなかった。

Digは少し目を細めながら私の方を見ている。


「…まぁな、」


今は多く語らず、私はそれだけ返した。

Digはまた様子を伺うように私を見た。


「…、へー

とにかく今日はもう帰るんだな」

「…何だ、そんなに名残惜しそうにして」


Digは私にそう言われると、不貞腐れたように顔を背けた。


「…久しぶりに生人と話せて嬉しかったんだね

Colonelさんは此処の先生だから、昼でも夕方でもまた会えるよ、先生って毎日のように来てるし

Colonelさんも、また遊びに来てね」


Palは微笑んで私へ言った。

…Digはそれ以上何も言わなかったが、私を見送るようにこちらを見ている。

…、まぁ、一時期はどうなるかとも思ったし、こんなことになる事すら想定していなかったが、

また新しい縁が増えたものだな。


「…そうだな

また話せたらと思う」


私が返すと、Palはまた微笑んだ。


「校舎出るのはもう難しくないと思うよ。いつも通りの感覚の道で帰れるから

帰り気を付けてね」




帰りの廊下はもういつも通りに戻っていて、迷うようなこともなかった。

…どう言った原理で校舎内の構造が変わっていたのか分からないが、何ともまあ不思議な体験をしたものだ。

こんなこともあるのだな…。

あれから問題もなく家へ到着し、部屋の鍵を開けて中へ入ろうとする。

…すると、私がドアノブを引こうとしたその瞬間、

それよりも早く中からドアが開き、Majorが顔を出した。


「……、大丈夫…?」


不安で、心配しているかのような表情で私の様子を伺っている。

…私の帰る音を聞きつけて先に玄関を開けたのだろう。


「…あぁ、大丈夫だ

…、この通り。何ともない」


私はMajorに自分の身が正常であることを示した。

…Majorはほんの少しだけ怪訝な顔をしながらまた私の顔を覗き込む。


「…、何かあったんでしょ…?」


…。

…別に、隠す気もない。

この際、これだけ心配させているのだから話さなければ誤解されてしまうのだろう。

それに、Majorには過去に海の出来事に関してもわざわざ説明をしてもらった。

ほとんど、私があまりに気にするから教えてもらったようなものだ。

Majorには口を割らせた癖、自分は話さないと言うのはフェアじゃない。


「…また後で話す

食事もしながらな」


そう言いながら玄関まで入るが、

…そう言えばと、ある事に気が付いた気がした。

…、

ドラとドラがいない…?


「…なぁ、あの二匹はどうした」


私はMajorに訊いた。

…すると、Majorは思い出したかのような表情を見せ、少し顔を俯かせた。


「そ、それが…、」


…若干口篭ってMajorが曖昧な返事をして見せる。

…、こちらでも、何かあったのか。


「…お互いに話す事があるようだな、」

—————————————————————————

「ねー、この学校って七不思議あるらしいよー」


朝放課中に、廊下を歩いていると生徒達の方から会話の声が聞こえてくる。


「え、何?急に。こわ」

「昼は何ともないけど、夜になると色々動き出すらしいよー」

「どこ情報だよそれ」

「聞いたことないけど笑」


私の足は少し距離を取った位置で動きを止め、話を聞き続けてしまう。


「ただの噂でしょー

確定的な証拠とかないって」

「また証拠とか言って!信じないにしてもこう言う話って面白いじゃん?」

「面白くないよ普通に怖いよ

肝試しとか望んでないからやめてー」


…結局は、話し始めた生徒も内容を信じて話している様子はなかった。

私はまた歩く足を動かし始めた。

…、昨日の夜の彼らが七不思議の括りになるかどうかは分からないが、一応校内でそう言った話は出回っているのだな。

実際彼らが生徒達の前に姿を現したりしたことはないのだろうが、

こう言った情報は一体どうやって広まっていくのだろうか…。




「Colonel先生、コンピューター室の件ってどうなりましたー?」


教員の朝礼中に、学年主任が私に訊いた。

…しまった。説明の仕方を考えていなかった。

彼らのことはここで頑なに隠す必要はないのだろうが、

ここでそのまま説明しても、おそらく信じてはもらえないだろう。

…、同じ事を繰り返さないための連絡事項を考えなければ。

…それに、

あの時Digは、私達に襲われたりすることを恐れていた。

…私達に対して、恐怖を抱いている怪異もあると言うことだ。

私は少し考えた。


「…コンピューター室自体に異常はありませんでした。…原因も実際には分かりません

ですが、恐らくこれから同じような事が起こる事もないでしょう

…しかし、ついでを思ってパソコンを調べてみた結果、生徒の不正検索履歴が多量に残っている事が分かりました

昨日は気付いたパソコンのみ私が対処をしましたが、他のパソコンも同じ状態である可能性があります

また調べてみる必要があるでしょう」


私の話す内容に、コンピューター室の異常よりも生徒の不正に関して教員達は食いついている様子だった。

…、生徒の不正の対策に関しては、ここで統一する必要がある。


「…そうだったんですね、

今まで知りませんでした…、いつ頃くらいからなんでしょう…

今年はまだ生徒達にインターネットで検索をさせる授業内容を行っていないので、余計におかしいですね」

「かなり多量でしたので数ヶ月前ぐらいからでしょう

履歴が残っているせいでパソコンのデータを圧迫することも少なからず考えられます

一度、全教員で生徒を指導し直す必要があるかと」


私が提案すると、他の教員も共感するような反応を示した。

…少しは、改善されるだろうか。


「分かりました、では今日の教室での朝礼で生徒達に連絡として伝えましょう

一旦は誰が行ったかは置いといて、声がけのみとします

それからまた様子を見ていきましょう」




先程の朝会では話が進み、各教室で生徒達にコンピューター室でのパソコンの不正使用を防ぐ声掛けをすることになった。

…生徒によっては、声掛けのみでは治らない可能性がある。

が、その時もその時だ。

私またPalの元へ行くだろうし、対策も厳重にするのみ。

…まぁ、恐らく現状が知らされたと本人も自覚すれば、これ以上続けるようなこともないとは思うが。

私は自分の教室へ入り、生徒達に号令を頼んだ。


「起立、おはようございます」


挨拶をすると、私はまた生徒達を席を座らせた。

…まずは一発で始めに例の内容を頭に入れて欲しい。

伝え方が肝心だが、…どうしようか。


「…今日の予定を話す前に、皆んなに伝えなければいけないことがある

一旦、静かに聞いてほしい」


普段通りで少し気の抜けていた生徒達の気が、若干引き締まった気がした。


「昨日、コンピューター室のパソコンで授業で関係のないインターネットでの履歴が見つかった

今は誰のせいか探す気はないが、生徒の中の誰かが原因なのは違いない

…このクラスかもしれないし、別のクラスかもしれない

これは今回の原因である本人だけでなく、全員で意識していかなければいけないことだ

こう言った行動を失くそうとする理由は、皆んなに成長していく上で大切な事を覚えて行って欲しいからだ

今ここで学ばなければ、いざと言う時に経験不足や知識不足で取り返しのつかないことになってしまう可能性だってある

…私達は、皆んなにそうはなって欲しくないからこうやって話をするんだ

少し話が逸れたが、少なくとも使用しているのが自分自身のパソコンではないと言うことを忘れないで欲しい

悪魔でも皆んなは、機会を貸してもらっている状態だ。…壊して戻せなくなるようなことがあれば、たまったものじゃないだろう

…そして、いいか。

自分が悪徳を働くことで、必ず誰かが困ると言う事を忘れないで欲しい

…生徒が教員は迷惑をかける、と言った意味合いではない

自分の意識をしていないところでの一つの些細な悪徳が原因で、誰かが困るんだ。

…そこまでして小さなことをして、知らない人だろうが傷付けることは皆望まないだろう

自分がそれをしたら、他の人がこうなるかもしれないと言った予測を立てて行動することも大切だ

…、私も今日、こう言った話をするきっかけが出来た

少し、これから意識して動いてみてくれ

…以上だ。それじゃあ、今日の連絡をしていく

また、しっかり聞いてくれ」

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Colonel日記 うゆみ饂飩 @myuryu2468

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