第十八話
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「————だからどうするんだって言ってんだろ!!」
「それを今から考えるって言ってるでしょ一回落ち着きなよ!!」
……ぼんやりとした視界の中目が覚め、私はうっすらと目を開ける。
…っ、頭が痛い。
…、…やはり、私は先程何者かに頭部を殴打されたのだろうか。
顔を上げて正面の光景を確認しようとするが、
ふと、身体の身動きが効かない事に気付く。
また自分の下半身の方へと顔を向けると、
椅子に全身を縛り付けられていることが分かった。
…っな、何…っ、
捕えられているだと…っ、それも夜の学校で…?
やはり誰かが不法侵入していたと言うことなのか…っ、
「あ、あ!!起きた!おい起きちゃったじゃねぇか!!」
正面の方から誰かの声がし、咄嗟に顔を上げる。
今回の主犯かと思い気だけでも構えて威嚇しようとした、
が、
「わ!わ!!おいどうすんだよ!!」
「うわああもう知らないよーー!!時間食ったのお前のせいだからー!!」
……、何、だ…?
…子供…?
目の前で声を出していたのは、子供の姿をしたモンスターだった。
…、それも、二人組…?…両方とも男子だ。
…大体、十一歳から十二歳程だろうか、片方が一つ目の子供で肌が水色、もう一人は頭から二本の角を生やしていて緑色の肌をしている。
……けど、何だろうか、
服装が少し今の時代と違う気がする。
「…っっおい、ねぇこっち見てるって…!!
早くしないと俺達が———」
「分かった!分かったから落ち着いて!!
いいこと思いついたから!!」
すると、片方の子供がそう言って二人で私に背を向けながら何か小声で話し始める。
…、……だが、若干聞こえてくる内容ではほとんど今までの会話のような内容と変わっていない。
…。
一体何がしたいのだろうか。
「…な、なぁ、
お前達、此処で何をしているんだ…?」
私は彼らに水を差すような気持ちになりながら問いかける。
…私をこの状態にしたにしろ、二人にとても戦えるような様子はなかった。
「っ、何って!
お、お前が俺達の場所彷徨くからとっちめてやろうとしたんだろ!!」
「バカっ、違うって!!
喧嘩腰になっても勝てないって言っただろ!!」
……、何やら言っている意味も分からないし、話が纏まりそうにない。
…もはや何を見せられているのか分からない。
「…な、なぁ、
私を縛ったのはお前達か?早く解いてくれないか」
私はまた言い合いをする二人へ声を掛けた。
「そ、そんなことしたらお前逃げるだろ!
もう同じことして欲しくないから逃してなんかやらないからな!!」
…相手は子供だが、意思は固いようだった。
…どうしたものか、とても話すだけでは逃れられそうにない。
…、辺りを少し見渡してみるが、場所はどうやら科学室のようだ。
と言うことは四階…、…何故わざわざこの階なのかも分からないが。
「全く何をしているんですか?
…、あーあ、こんな風に縛り付けて」
すると、傍から声が聞こえ、そちらへ顔を向ける。
…その時見たものに、少し目を疑った。
「あ、模型さん……」
「だ、だってそうでもしないと俺達がやられちゃう!!」
普段科学室に置いてある人体模型が、一人でに歩いて言葉を話していた。
…、本当に何が起こっているんだ…?
まるで状況を理解出来ないし、追い付くことさえ出来ない。
「やられちゃうって、彼、こんなにも困ってしまっているじゃないですか
見るだけで分かります。彼に敵意はありませんよ
離してあげてもいいですか?」
すると人体模型は私の方へ近付き、私の体を縛っているロープを解こうと手を掛けかける。
「っだ、ダメだ!!」
「じゃあ、どうするんですか?」
人体模型は呆れたように二人へ向き直り、腰に手を当てた。
「…、…じ、じんもん…、」
「尋問?貴方達、尋問の意味ちゃんと分かってますか?
分かっているのなら、もう今の時点で尋問は失敗ですよ
いい加減な計画で事を進めない方がいいです
尋問なんてしなくとも、普通に話をすればいいじゃないですか
彼には能力を発動出来なくする妖法をかけたのでしょう、おまけに縛り付けまでしているんですからこちらが襲われる心配はないはずです
…でしょう?ほら、早くしっかりと話をして下さい」
人体模型は二人をこちらへ連れて来ると、私の正面に立たせた。
…、まるで私が今から説教をするとでも言うような空気だ。
「……、…お、お前、
俺達のこといじめたいんだろ
しかも他の奴らと一緒に…!お前らが後から来た癖に追い出そうとするなんて酷いぞ!」
…、
……やはり、何の話をしているのか分からない。
…何か、思い違いでもしているのだろうか。
「…、何の話だろうか」
「と、とぼけんな!palの出入り口何回も塞ぎやがって!
俺達のこと馬鹿にしてんだろ!!」
……余計な話が分からなくなってしまった。
私は少し黙って、相手が何を話しているのか考えようとしたが、
…やはり、何も心当たりはなく、思い付かなかった。
「…ね、だから言ったでしょう
彼らにそんなつもりはないって
だからちゃんと話す必要があるって言ったのにこんな風に縛り付けたりして…
これじゃあ元々彼らに敵意はなかったのに逆に生んでしまうことになりますよ
彼らやられたくないんでしょう?」
人体模型がまた彼らへ聞くと、とうとう少年は頬を膨らませて黙り込んだ。
…、上手く話を纏めてくれているようで助かる。
しかし、何故そもそも身体模型が勝手に動いて…、それに見知らぬ顔の少年まで此処にいるのだろうか…。
まだまだ謎は深まるばかりだ。
「…すみませんね、お騒がせしてしまって
自分から話をするので、聞いて下さい
まずは、申し遅れました
自分達はこの学校を居所としている怪異です
あなた方に殺意まではないのでご安心下さい
大体夜になると活動を始めるのですが、中には自分が怪異と理解出来ていない子もいるので、その辺りは気を遣ってあげて下さい」
とりあえず、私はその人体模型からの話を最後まで聞くことにした。
…この学校の怪異…、…先程の私を追ってきた黒い影もそれに入るのだろうか?
……七不思議…と同じような存在なのだろうか。
話からするとどうやら他にもいるようだが…、
まさかこの学校にそんな存在が居ただなんて…、
「…それで、本題に入るのですが、
今回こうなってしまった理由としては、私達のPalの心を開こうと取った行動と、あなた方の校内の異常を止めようと取った行動で入れ違いが起きてしまったようなんですね
Palは電子機器を介してこちらへ出入りする子なのですが、あなたがさっき消したコンピュータ室のパソコンがあったでしょう、あれがPalの出入りする窓みたいな仕組みになっています
それで、最近あのパソコンをつけっぱなしにされていることから疑問を抱いて何度も電源を落とすようにしていたのだと思います
…直接伝えたかったんですが、まあ何せ、自分達は怪異なので…あまり公に姿を表せられるわけでもなかったんです
今まで戸惑わせてしまってすみません、」
縛られっぱなしでいながら、静かにその話を聞いていた。し
…、なるほど…とりあえず、事情は分かった。
こちら側とあちら側でちょっとしたすれ違いが起きていた、と言う訳なのだろう。
私をこうして拘束したことも、決して殺す目的などではないのだろうな。
「なぜこんな手荒な真似をしてしまったかと言うと、
今までに私達からあなた方へ接触する機会がなく、危険性が想定出来なかったからです
…まあ、中には自分達のような存在を取っ捕まえて利益に変えようとする人もいる訳ですから
売られるのは嫌ですので、様子見も含めて病むを得ずこう言った手を選びました
とりあえずさっきも言ったように、あなた方に殺意はありませんし、痛めつけるつもりもないので心配しなくて大丈夫です」
…なるほど。
…、そう言えば、Majorも海で今の私も同じような経験をしていたな。
Majorも初めは連れ込まれる際には驚くような扱い方をされたと言ったが、こちらのことをまだよく知っていないあちら側からするとそうすることしか出来ないのも納得出来る。
…まあ、それはそうと、私も帰宅出来なくなるわけではなさそうで安心した。
「…分かった
事情を話してくれてありがとう。状況は理解出来た
…、で、
最終的に私達にどうして欲しいのだろうか」
彼はついさっき、話し合う必要があると言った。
…ならば、もっと他に何かしら要望がある筈だろう。
様子を見ていると、恐らくパソコンの電源以上に協力して欲しいことがありそうだ。
「そうですね、まず———」
「ぱ、Palを元気にして欲しい!!
お前此処の先生なんだろ、話して心開いてやってよ!」
人体模型の後ろに立っていた少年が話を切るようにして話し始めた。
…やはり、そのPalと言う人物が鍵になるのか。
「ちょっと、…彼はこの学校の先生ではありますが、あなた達は生徒ではないでしょう
この場合において彼が先生であることは関係ないですよ、」
「知らないよ、と言うか何でもいいよ、
とにかくPalとまた普通に話が出来るようになりたいんだ…!
せっかくこの状況なんだから頼ってもいいだろ、もう俺達じゃ顔出してくれない気がするし…、
なぁお願いだよ、先生なんだからそう言うことも出来るだろ…!」
彼は少し必死な様子で私に要望を伝えた。
…、確かに生徒対応と同じようなものだ。
どうやらPalにはかなりの思入れがあるらしい。何としてでも解決したい様子だ。
…お互いの問題解決としても取り合ってやるべきか。
「…分かった。引き受ける
だが、要求する側ならばまずこの拘束を解いてくれないか
そちらの勘違いでここまでされたならば詫びられる権利もあると思うのだが」
さっきからずっとこの状態だ。
いい加減に解いて欲しいところだし、単純に体勢が苦しいと言うこともある。
…まだPalがどのような人物なのかすらも分からないが、果たして本当に私で解決するのだろうか。
「あぁ、そうですね。すみません…直ぐに解きますね
…ほら、あなたが縛ったんでしょう、解いてあげて下さい」
すんなりではなかったが、少年は私の拘束を解き始めた。
…しかし、考え直すと本当に不思議な状況だ。
ここまで学校で仕事をしてきて、夜になればこんな事があるなど何も知らなかった。
まぁ、今まで何も起きなかったことが示しているように、存在しているからと言って害がある訳ではないようだ。
「…まだ名前を聞いていない。何と言うんだ
…、三人はいつからこの学校にいるのだろうか」
拘束を解かれながら、人体模型へ訊いた。
まだまだ分からない事が沢山ある。今後同じ学校で過ごしていくのならば知っておく必要もあると思った。
「申し遅れました、自分の名前が一応Messelと言って…、こっちの、一つ目の方がWentyで、鬼の方がDigと言います
此処にいるのは…、もう30年以上前からですかね
二人の服装が良い証明になるんですが、一昔前の服装をしているでしょう
その辺りの時代からずっとですね…、此処の先生や生徒達が移り変わって行く様子もずっと見ていましたよ」
私は何気なくMesselの方へ目を向けながら話を聞いていた。
…ならば、他の怪異達も同じように昔から此処にいると言うことか。
改めてMesselの様子を見ていると、彼は話している時も淡々としていて、表情もあまり変わらなかった。
…この、物に意思が宿るタイプの怪異はどう言ったジャンルに分類されるのだろうか。
魂のみの存在が物の中へ入り乗っ取ると言った話はよく聞いたことがあるが、彼もその一種なのだろうか。
…この二人も、まだ中学生の年齢にも満たしていない様子だが、
何故此処に居るのだろうか。
「…ねー僕この後帰らなきゃいけないんだけど!
こんなに時間かかると思わなかったよ、もう帰るねー、バイバ〜イ」
「えっ、待てよー!
もーまた一人じゃん…!また会いに来いよー!!」
Wentyがそう言って、適当に別れを告げるとそのまま消え去って行ってしまった。
Digは表情をムスッとさせながら引き続き手を動かし、私の拘束を解き切った。
…帰る場所もあるのか。
校内での話なのだろうか、それともまた別の場所から来た怪異なのだろうか…?
「はい、終わった!
取ったぞ、Palの所行ってくれるんだろうな!」
相変わらずな様子で、Digは私へ話す。
…まあ、ともかく、
今後も知っていく機会はあるのだろう。
今日はとりあえず、要望に応えてやらなければ。
拘束を解かれると、私はその場に立ち、縄の当たっていた部分をさすった。
「…Colonelだ。よろしく頼む
今後世話になるかもしれん、互いに認識しておくとしよう」
固められていた身体が落ち着くと、私はまた彼らに向き直った。
…こうしてMesselと並んで立つと、大体同じぐらいの身長であることが分かる。
人体模型は平均身長よりも少し大きめに使ってるからか、私より少し低い程度だった。
「Colonelさん…、
…実は、もう名前も顔もこちらからは知っている状態なんですよ
昼の間によく見かけますからね、Monocularさんと仲が良いでしょう?
この教室で話しているのもいつも見ています」
…、そうか、元々知られていたのか。
…と言うことは、怪異達から私達の存在はもう既に知られている、と言うことになるのか。
「おいー!!無視するなよ!!
早くPalの所行くって言ってんだろ!!」
Digは横から大声を上げて私に呼び掛ける。
…こうして見るとDigも身体が小さい。やはり中学生にも満たない程の大きさだ。
「まあまあ、そんなに急ぐ必要はないじゃないですか、夜はまだ始まったばかりですよ
こちら側からお願いするんですから、あんまり無理させないようにして下さいね」
「…Dig、まずは場所まで案内してくれ
お前達が動き始める時間になると校舎の構造が少し変わるのだろう、目的地に着けば私も言われた指示通りに動こう」
私は身長の差が大きいDigの元にしゃがみ、身長を合わせて話を聞いた。
その私の様子を見ると、何か余計に腹が立ったのかまた眉間に皺を寄せた。
「…Messelは一々気遣いすぎだっつーの!!
もーーっ分かった!だから早く行くぞって言ってんの!!
どんどん話長くなる!こっちだ!」
少しやけくそになったDigに突然腕を引かれ、その場から移動し始める。
…感情管理の忙しい奴だな、単純に身長に差があるから腕を引かれても歩き辛い。
廊下を歩きながら、Messelの居た方へ振り返る。
「ではでは
またお会いできるのを楽しみにしていますね」
彼はそう言って、若干微笑んで私へゆっくりと手を振って見送っていた。
…不思議な感覚だ。
同じような見た目や存在であるモンスターは普段から一緒に生活をしていると言うのに、
彼らがモンスターではないと言うことが雰囲気から分かる。
気のせいか、辺りの空気も少しいつもとは違う感覚を覚えていた。
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