第十七話
…目が覚めた。
…一緒に隣で眠った筈のMajorは、もう既にベッドの上には居なかった。
私はベッドから出て、朝の支度をし始める。
クローゼットから今日着る服を取り出し、着替え始めた。
…まだ時間には余裕がある。多少のんびりしていても問題ないだろう。
私は着替え終わると、寝室を出てリビングへのドアを開ける。
「キュー!」
次の瞬間、Doraが顔に向かって飛びついてきたものだから私は思わず声を漏らして驚いてしまう。
肩を撫で下ろしながら、顔に飛びついてきたDoraを胸元で抱え直す。
…全く、朝から驚かさないでくれ。
「あ、おはようー!ご飯出来てるよー」
どうやら、Majorは既に朝食の準備をしてくれているようだった。
私はそのままダイニングテーブルまで向かい、用意されている朝食に手をつけ始めた。
Doraは私の身体をよじ登り、肩まで登るとその場で落ち着いて私の朝食を食べる様子を観察していた。
「…二匹にはもう朝は何か与えたのか?」
Doraが私に寄って来た際にも腹を空かせているようではなく、ただ構って欲しくて来ているようだった。
…もう与えた後だったのだろうか。
「朝の時点で凄いご飯欲しがったから先にあげたよー
色々調べながらあげてたけど、雑食で色々食べるみたいだよ
野菜とかお肉とか…、とりあえず今日は野菜と果物があったからそれをあげたよ
今日はたまたま買い溜めしてあった分があったから良かったけど、一匹だけでも結構食べるみたい…
今後この子達を保護していくなら、色々考えていかないといけないね、」
Majorの話を聞いて、少し考えた。
…そうか、私以外に生き物を家に住まわせるのならばその分の生活や費用も考える必要があるのか。
私達だけでも精一杯な時はあると思うが、それに加えて二匹分…、それに餌はかなり必要になる、と…。
…なるほど、これだから一般家庭で生き物を飼育するのにはかなりの責任感と用意が必要なのか。
少し考えればすぐに理解出来そうなことではあったが、今更改めて気付いた気がする。
それに自分達の知らない生き物を飼っていくとなると、こんなにも考えることが増えるとは…、
…、今後も上手くやっていけるのだろうか。
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「最近コンピュータ室がずっとおかしいのよね…」
職員室で作業をしていると、何やら会話が聞こえてくる。
「どうおかしいんですか?」
「よく一部のパソコンが一人でに起動しているのよ…
おかしすぎるから何回も確認したのに、それでもやっぱり勝手に付いてるのよね…
最近は朝来た時にはもう点いてることが多いかしら…絶対退勤前確認してるのに…」
…少し聞くだけでも不可解な話だ。
パソコンが一人でに起動だと…?
…それも退勤前に確認しているとなると、夜の間に点いていると言うことになる。
…余計に不可解な出来事だ。
「何ですかそれ、誰かの悪戯ですか?」
「それすらも何も分からなくて…
でも学校が終わった後は完全に誰も入れないように整備するし、それこそコンピュータ室なんて使っていない時は厳重に管理しているはずなのに…
それもそのパソコンで何かをした経歴もなくて、本当にただ起動しているだけなのよね
警備員の人に見てもらうようにお願いしても何も分からないって言うし、監視カメラも確認したけど本当に何も写っていないのよ
心底意味が分からなくて」
…監視カメラにも証拠がなければ警備員でさえ証拠を掴むことが出来ない…?
確かに業後は完全に施錠をした上、部外者が勝手に侵入出来ないよう厳重に整備を行う。
それも簡単に潜り抜けられるようなものではなく、能力を使ってでもそれは難しい。
…例え今回の出来事が誰かの悪戯だったとしても、ただ起動しているだけならば余計に意図が理解出来ない。
…、一体何が起こっているのだろうか。
「今日の夜業者の人に見てもらおうと思っていたのだけれど、たまたま今日休みだったみたいで頼めなくて…
何か起こってからでは遅いしなるべく早くに解決したいから、今日誰か残れる人に残ってもらえたらって思うんだけれど…
誰か残れる人いるかしら…」
…確かに、学校は全教員や全生徒と共有をして使っている場所だ。
何か起こってからではどれ程被害が出るかも分からなければ、今回に至っては原因もきっかけも何も不明だ。
…余計に早く解決する必要があるのはそうだろう。
「私は今日ちょっと早く帰らないといけなくて残業出来ません…」
「俺も今日は予定あるので残れませんね」
今現在、職員室には私含め四、五人程しかいなかった。
その少ない人数の中でとりあえず話し合っているようなのだが、どうやら偶然皆んな今日は用があるようで手をつけられない様子でいた。
…誰か残るにしても、いつもよりかなり帰りは遅くなってしまうのだろうな。
それも急となると中々難しいだろう。
「そうよね、皆んな突然そんなこと言われても難しいわよね…
あまりにも誰もいないようなら、今日の業後の会議にまた改めて皆んなに訊いてみようと思うのだけれどー…、
……あ、Colonel先生がいるじゃない
Colonel先生、今の話聞いていたかしら…?」
突然作業中に話を振られ、私は返事も出来ないままそちらへ顔を上げた。
…、
「…はい、一応」
「本当?今日の夜、Colonel先生はどうかしら…、全然無理にとは言わないけれど…
会議の時に皆んなに聞けばいいのはそうだけれど、今日の会議はそれ以外にも色々話したいことがあるからその後でこの相談をしてももう皆んな予定を合わせるのは難しいと思っていて……
もし誰かが率先してやってくれるって言うならとてもとても助かるのだけれど…、」
今職員室にいる教員達の、全視線が私に向いている。
…、どう、なのだろうか。
私は別に今日何か予定があるわけでもないが、…Majorに相談次第出来なくはないだろうか。
「…少し待って下さい」
私は携帯電話を取り出し、Majorにメッセージを打って送った。
『今日の夜、他の教員よりも少し遅くまで学校に残らなければいけなくなるかもしれない。
今それを私に頼めないかどうか訊かれているのだが、Majorはそれでも大丈夫だろうか』
…Majorの返事次第で決まるが、…どうだろうか。
教員達に少し待つよう伝えようとしたその時、
丁度Majorも携帯を触っていたのか、すぐに返事が届いた。
『そう?心配だけどお仕事なら仕方ないよね!
僕は全然いいよ〜、帰りとか気を付けてね!🥺🥺
また帰って来たら色々話聞かせてー🙏』
…Majorからの承諾された内容だった。
…、まあ、Majorが許すのならば問題ないか。
「…分かりました、私は今日特に何もないので引き受けられます」
そう伝えると、とても嬉しそうで申し訳なさそうな表情が返事として返ってきた。
「えぇ〜っ本当ーっ??
じゃあ、申し訳ないけれどColonel先生にお願いしようかしら…、
本当急なのにも関わらずごめんなさいね、明日しっかり詫びさせてちょうだい…!」
他のその場にいた教員からも感謝されながら、その時間は過ぎていった。
…どうせ誰かがやらなければいけないことだ。
私はただMajorが大丈夫かどうかだけが不安だったが、彼が問題ないのならば私も問題はない。
Majorもせっかく許してくれたことだし、学校のためにもしっかり見て来るとしよう。
—————————————————————————
まだDoraとDoruもさっき朝ごはんを食べたばかりだと言うのに、既に次の餌を要求してきている。
…確かに朝は急だったからそんなに多くはあげてなかったけど、このペースだと今後かなり量も必要になると思うし費用もかかりそう…。
…どうしよう…これからしっかり飼ってあげられるかな…?
昼ご飯を準備するための買い物に行くのにもまだ時間は早いし、…でも早めに行っても別に悪いことではない。
この子達のためにももう用意してあげるべき…?
「キーッ!」
「キュキュ、」
…今も僕に擦り寄っておねだりしている。
このままにしておくわけにもいかないし…、まだ朝の十一時すぎだけど…もう行っちゃおうかな…。
二匹の様子を見ながら悩んで迷っていた、
その時、
「っ、え、何…?」
僕におねだりをして擦り寄っていた二匹が突然何かに気付いたかのように同じ方向を向き、そのままそちらの方向へ飛んで行ってしまった。
…玄関の方だ。
…そして、次の瞬間、
家のインターホンが鳴った。
……え?
…誰…?
今までまだ荷物を頼んだこともないし、誰も家に来たことなんてない。
…
……、何…?
恐る恐る廊下に出て、玄関の方へ覗く。
…二匹とも何やら興奮した様子で玄関のドアを爪で引っ掻いている。
……僕もそちらへ向かい、
玄関を開ける前に一度立ち止まった。
「…突然すみません。驚かせてしまって
私からこのようなことを言っても信頼されないとは思いますが、
悪意を持ってこちらへ足を運んでいるわけではありません
どうか、気を許してはくれないでしょうか」
玄関の向こうから、丁寧に話す誰かの声が聞こえてくる。
……誰か分からないけど…、
警戒はしよう。
…でもこの二匹がこんなに食い付いてるのにのも気になる…。
…僕はそっと、玄関のドアを覗き込むようにしてそっと開けた。
すると、DoraとDoruは真っ先にドアの隙間から外へ出て、鳴き声を上げながらその人へ飛びついた。
「おやおや、元気そうで何よりです
…また人様へ迷惑をかけましたね、良くないですよ」
その人は、僕と同じスケルトンだった。
…身長は僕よりも高いが、先生よりかは低い。
青いスーツを着ていて、本人から見て右目の目元に星のような紋章が刻まれている。
…元気そう、って何…?
まるで今まで認識があるかのような…。
DoraとDoruは、まるでもう僕には興味がないかのようにその人に甘えて顔元へ擦り寄っていた。
「同じスケルトンとは驚きました
突然すみません、改めまして自己紹介をさせていただきますね
わたくし、Biodiversite家の執事を務めさせていただいております、
Reptileと申します。以後お見知り置きを」
能力で取り出した名刺を渡され、それを受け取る。
……Biodiversite家…、貴族……?
聞いたこともないけど…、
書いてある住所も此処から近い場所ではなかった。
…でも、確かに言ってることに偽りはなさそう…。
僕は名刺からまたReptileさんへ向き直った。
「当方、我が館の方にて生物の保全活動を行っております
完全にわたくしとご主人様のご好意による個人的なものにはなりますが、世界に残る様々な生物を館で保護をし、次世代へ繋げられるよう活動をしている者です
…DoraとDoruもそのうちに含まれる生態なのですが、絶賛やんちゃ盛りな時期でして
昨日の夜、勝手に館を抜け出してしまったようですね
全く…自分達ではどうにも出来ないのはあなた達でしょう
良い人に拾われて良かったですね、しっかりと詫びて下さい、ほら」
Reptileさんが二匹の顔をこちらへ向けると、DoraとDoruは僕に向かって頭を下げるような動きを見せた。
…少し可愛らしくて、僕は顔に出てしまいながら軽く会釈し返す。
「これは列記とした脱走ですよ。ご主人様にも厳しく叱ってもらいますからね」
…二匹とも、既にReptileさんにとても慣れている様子だった。
……そうだったんだ。
何処からか逃げ出したんだろうとは思っていたけど、違う時代から来たわけでもなくて、ちゃんと保護されている子達だったんだ。
…まだ少し状況に追いつけないけど、とにかく安全になれるなら良かった。
「二匹を脱走させてしまったことは完全にこちらの整備不足になります
それに、今のこの二匹は先程も言ったように育ち盛りでして、かなりの量食事をします
とても一般の方々で育てることは不可能でしょう、あなた方の元々持っていた食料もかなり消費させてしまったと思います
突然の事にもなり、ご迷惑をおかけししてしまい大変申し訳ございません」
二匹を抱きながら、Reptileさんは深々と頭を下げ丁寧に僕へ謝罪をした。
…確かにちゃんと執事って感じ…。
ずっとにこやかで柔らかくて、凄くしっかりしてそうだし、…それに、何だか物凄く強くそう。
「とんでもないです…、二匹が帰るべき場所へ行けるのなら何よりです」
「何ともご丁寧に、恐れ入ります
こちらお詫びとして菓子折りとフルーツ盛りをお贈りさせていただきますね」
Reptileさんがまた能力で取り出し僕に差し出してくると、
DoraとDoruが食いつくようにそのフルーツへ飛びつこうとする。
Reptileさんは二匹が離れないようしっかりと押さえて抱えていた。
「こらこら、あなた達の物ではありませんよ
帰ってからしっかりと与えますから大人しくしていて下さいね、いい子でしょう
何かとすみませんね、中々見ない食べ物が揃っているとは思いますが、どれも珍しい物で私共のお勧めの品となっております
日持ち対策済みですので、ごゆっくりお召し上がりいただければと思います
それでは、大変お世話になりました。失礼致します
どうぞお身体にはお気を付けて」
僕が菓子折りとフルーツ盛りを受け取ると、Reptileさんはまた丁寧に会釈をして僕の元から去ろうとした。
……けど、
…何か、引っかかる。
「…あの、」
僕はもう一度去って行こうとするReptileさんへ声をかけた。
…Reptileさんはまた僕の方へ顔を向けた。
さっきから納得のいかないことがある。
…昨日の夜脱走して僕達の元に来て、
…館の場所も近くないのに、こんなに早く場所を特定出来るなんてことある…?
能力があるにしても、探って此処まで来たと言うよりも、
何だか、初めから此処を分かっていたかのような雰囲気だった。
……それに、
さっき、「あなた方」って…、
…僕の他に先生がいるってことも知ってるってこと…?
「…嘘、ついていませんか
何か、僕に違う情報を話しましたよね
僕もしっかりとあなたを認識したいので、本当のことを教えて下さい」
僕達の名前も、既に知られている気がする。
…ここまで丁寧なのにも関わらず、不自然に名前だけ訊かれなかった。
貴族の執事と言うことはそうだと思うし、さっきの名刺の情報も間違っていなかったとは思うけど、
…それよりも他に、引っかかることがあった。
Reptileさんは僕の質問を聞くと、少し間を置いて考えるような表情で僕の顔を見つめた。
「…、こちらへはまた後日改めてお伺いさせていただこうと考えております。その際に詳しくまたお話させていただきますね
…Colonelさんにも、面と向かってお礼申し上げたいので
今日はここで失礼致します、またお二人様のお時間が空いている際にお伺い致します」
また、そうにこやかに応えながら、空間魔法を使って去って行った。
…やっぱり、名前知られてた。
…それに、何か謎めいてるんだよな…、絶対ただのスケルトンじゃないし。
その辺がモヤモヤしたけど、…また来るならその時に聞かせてもらえそうかな。
こちらとしても、何か偽ったことを伝えられた上隠されるままでいるのも気が落ち着かない。
次いつ来るのか分からないけど、この話はまた先生にもしっかりしておくようにしよう。
…あぁ、でも、先生は今日帰り遅くなるんだっけ。
……、何だかスッキリしないし、…少し怖いし。
先生、早く帰って来ないかな…。
—————————————————————————
今日の夜は、他の教員達の退勤時間よりも大幅に遅い時間に居残ることになった。
…もうすっかり日も落ちて、教員も生徒も全員完全に校舎を出た。
まずは監視カメラの映像を確認出来る警備室に向かって確認をしてから、その後色々と見て回るよう言われているが、…果たして何が起こっているのだろうか。
先程私も、確かにコンピュータ室内を見て廻り、全てのパソコンの電源も確認した上しっかりと施錠までした。
それから少し間を置いて日が落ちるのを待っていた訳だが、
…今のところ、何も異変は見られない。
…、そろそろ、向かい始めるとするか。
私は時間まで自分の机で作業の続きをしていたが、丁度切りのいいところまで終わった為、
電源を落として懐中電灯を手に持っては職員室を出た。
警備室は、この階の廊下を真っ直ぐ歩いた先にあるからそれ程遠くはない。
…当たり前だが、校舎内は酷くしんと静まり返っていた。
廊下で、ただ私の足音だけが響いて聞こえる。
…校舎内の廊下の電気は、今回は点けっぱなしにしていた。
懐中電灯は非常用として持ち歩き、全て確認し終えて完全に退勤する頃にはしっかりと消灯する予定だ。
警備室に到着し、点けてあるいくつかの監視カメラの映像を見た。
…ゆっくりと気を張って一つ一つ確認をしていくが、
やはり、どこにも異変は見つからなかった。
…何か不可解な音声が録れているわけでもなく、映像も問題がない。
……、
この時点では、まだ何も情報を得ることは出来ないようだった。
私は一旦警備室の電源を付けたまま部屋を出て、次にコンピュータ室へ向かった
…コンピュータ室は四階の端にある。
私はまたその階の反対側まで廊下を歩き、階段を登って行った。
…今考えると、私達教員よりも警備関係に詳しい警備員でも何も情報が得られなかったのなら、
私達が頑張ったところで何も変化はないのではないか、と疑問を抱いてしまう。
…まあしかし、確かにこの時間まで残るのは今日の私が初めてだ。
ここまで残って、初めて何か情報が得られるかもしれない。
そうこう考えているうちに四階へ到着し、コンピュータ室の前まで到着した。
扉を開けて少し中へ入って見渡すが、
…どのパソコンも、画面は付いていなかった。
…なんだ、何も起きていないではないか。
私はそのまま中へと入り教室の照明を点ける。
…一通り歩いては確認し、パソコンを一つ一つ軽く確認してみても、何も異変は見られなかった。
透視能力まで使って辺りを確認してみたが、
やはり何も分かることはない。
…、
一旦、また警備室へ戻ってみるか。
コンピュータ室を確かに消灯した後、
今度は教室を施錠してみてからまた警備室へと向かった。
…出来ることは試しているが、果たしてこれで何か情報は得られるのだろうか。
私は考えながら時間短縮の為、少しテレポートを使って移動をしてしまう。
…この時点で、自分が既に事を解決出来る気がしていないことが自覚出来る。
警備室へ到着し、中へ入ってまた画面を確認する。
……また一つ一つ画面を確認してみたが、
やはり、何も変化はない。
……。
…またコンピュータ室へ向かってみるか…。
私はまた警備室を出て、コンピュータ室へと向かった。
…次警備室へ戻って来て何もなければ、
もう今日は帰ろう。Majorも待っていることだろうし。
また私は適当にテレポートを使ってコンピュータ室の前まで移動する。
…やはり目で見ている分には何も変化は見られない。
視覚や聴覚、嗅覚から考えても何も…
…————
コンピュータ室の扉の鍵を開けようと手を掛けたが、
コンピュータ室の鍵は、何故か空いていた。
……、…?
さっき、確かに施錠をしたはずだ。
しっかりと確認までした、間違いない。
何故、空いているんだ…?
思考と同じように止まった手をまた恐る恐る動かし、コンピュータ室へと入る。
中を見渡すと、
……、一つ、入り口から少し離れた位置のパソコンが確かに一つ起動していた。
………、
先程は点いていなかった。
それに、私は警備室まで行ってまた此処へ戻って来るまでテレポートを使った。
あんなほぼ数秒の間で、
一体何が起こったと言うんだ…?
私は教室の照明を点け、そのパソコンの前まで向かった。
…手動によって起こされたものなのか…?
私はそのパソコンに近付き、画面を覗き込む。
……ログインのみされて、ホーム画面のままのようだ。
と言うことは、やはり誰かがログインまでは手動で行なっているのか…?
…一通りそのパソコンの履歴を見たりデータを見たりしても、特に変に触られた部分などはなさそうだ。
……、やはり、パソコン自体に異常はない。
…一体何なんだ…?
私はその場でコンピュータ室内を見渡した。
……、…相変わらずしんとしていて、何の気配もない。
……。
…また透視能力を使って確認までしてみたが、
やはり、何も見つかりそうにはなかった。
………。
…確かに、おかしい。
明らかにパソコンが一人でに起動している。
…けど、私が見るだけでは何も原因が分かりそうにない。
今度はコンピュータ室を消灯せずに、少し急ぎ足でそのまま施錠もせずに教室を出た。
…しかし、これで警備室へ行っても何も得られない気が……、
謎をただただ膨らませながら階段の角を曲がろうとした、
その時、
開けっぱなしにしたコンピュータ室のドアがかなりの勢いをつけて閉まり、廊下中にその音が響いた。
音に驚き、咄嗟にそちらを見る。
……、……何、だ
何が、起こっているんだ……?
…、…っ
私はまた急ぎで警備室までテレポートしようとしたが、
発動出来ずに、少しその場に躓いてしまった。
…っな、
何、…??
………
……、とてつもなく、
嫌な予感が、する。
私は躓いた足を持ち直して、警備室まで走り出した。
ついさっきまでは何も起こっていなかったと言うのに、
突然に、次々異変が現れ始めた。
一体、一体何が起こっているんだ…っ!
走って警備室まで向かって勢い余ながらまた画面を確認する。
それを見た途端、血の気が引いた。
画面中に、
不可解な影がいくつも映り込んでいたのだ。
原型を留めていないような、黒いような、白いような、
あまりに様々で、それが不自然に蠢いている。
訳が分からない状況に、若干息が切れ始める。
何が起こっているか分からない。
テレポートすらまともに発動出来なかった自分に、
更に、酷く焦りが生じ始める。
「…っだ、誰かいるのか…!!
姿を隠すな、正体を表せッ!!」
私は何かすら分からないモノに対して大声で呼びかけながら飛び出すようにして廊下へ出た。
廊下の奥へと目を向けたその刹那、
今まで点けっぱなしにしていた廊下の照明が、
全て一人でに、消灯していった。
…照明が落ちたことよりも、
私は、目の前の光景に背筋を凍らせずにはいられなかった。
そう近くない距離の正面に、
廊下の床から天井までを覆い尽くす程の大きさの、何かすら分からない形もない黒い影がこちらへ向いていた。
何かすら分からない何も関わらず、
明らかに、視線がこちらへ向いていることだけが分かった。
……あぁ、これは、
まずい
私は身に危険を感じ、
私は自分のすぐ傍にあった非常用階段の扉を開け、急いで階段を降り始めた。
こんなことになるなど思ってもみなかった、レイピアすら用意していない…っ!!
それに、武器を持ったところであんなのに勝てる気もしない…っ、一体どうすればいいと言うんだ…!
非常用階段で一階分を降り、そのまま廊下へと降り校舎を出ようと考えまた非常用階段の出口を開けたが、
出た先は何故か一階ではなく四階になっていた。
っ、何故…ッ!?
確かにさっきは警備室で二階に居て、そこから下へ降りたのだから一階の筈、
何故四階へ飛ばされているんだ!?
その廊下へ出た先の奥では、
既に先程目の前に立ちはだかっていたデカい影がまた私を見つめていた。
今度は、間も無く私の方へと近付いて来ていることが分かる。
「…くッ、」
まずい、まずい…っっ、
私は急いで陰とすれ違う前に1番手前の階段を降りて行く。
が、一向に下の階へ降りられる試しがなかった。
な、何なんだ一体…ッ!!ループしているのか…!?
くそッ、あまりに不可解過ぎて頭が追い付かん…ッ!!
私は一向に下へ降りられないまま階段を降りるのをやめ、何階かすら分からない階の廊下を再び走り始めた。
廊下を走りながら、背後へ向いて確認をする。
…、あの影が追って来ている。
だが、廊下の角まで来ると、一瞬こちらを確認するまで見渡して探しているような間があった。
…透視能力などは使えない…?
ならばどこか隠れられる場所を使えば撒けるか…っ、
私はまた走った先の階段を一階分降り、
その階の空き教室へと入り、そのまま掃除用具入れのロッカー中へと身を隠した。
…クラスとして使用されていない空き教室は施錠をしない。
無事そこへ入り込んで身は隠せたが、果たして効果はあるのだろうか…。
走った余韻で息切れそうな呼吸を必死に抑える。
……っ、
くそ、一体どうすれば……っ
成す術もなく、私はその場で息を殺すことしか出来なかった。
…すると、
何か近くで動くような音が聞こえてくる。
…奴が来たのか……?
私は気付き息を殺し続けた。
………
…すると、やがてその動くような音は段々と遠ざかって行った。
…、………
…行った、だろうか、
私は完全に周りの気配や音がなくなった事を確認し、数秒その場で留まった後、
…ゆっくりと、なるべく音を立てないようにドアを開け、外を覗き込んだ。
……、気配が消えた。
…撒いた、のだろうか。
私はゆっくりと一歩外へ踏み出した。
すると、ポケットに入れてあった携帯がバイブレーションを鳴らした。
若干それにすら驚きを覚えてしまう。
咄嗟に携帯を手に取り、ホーム画面を見る。
『先生遅くない…?
大丈夫?まだ長引きそう…?』
Majorからの、着信だった。
Major、
文字を打っている暇はない。
急いでMajorに電話をかけようと画面を開いた、次の瞬間、
突然背後から何か気配がして—————
気付いた時には既に遅く、
そのまま頭から激痛を感じた後、私は気を失った。
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