第20話 初めての魔法?
頬から流れる血をぬぐう暇もなく、ローズの攻撃が激化していく。
刃と刃が衝突するたびに火花が散る。
袈裟斬りを防ぐも、追撃をかわしきれず鼻先を斬られる。
その次は肩、その次は脚と、回避しきれない斬撃が増えていく。
ローズの剣舞に、俺は次第に追い詰められていた。
「ふ――っ!!」
思い切ってこちらから斬りかかる。簡単に弾かれ、反撃の刺突が迫る。
俺は横に動いて回避。ローズは向きを変えて俺の首を狙った横薙ぎを放つ。
咄嗟に下がってかわそうとする。が、この間合いはかわしきれない。
俺はあえて前に踏み込んだ。
肩から体当たりして、無理やりローズを後ろに下がらせる。
しかし、ローズが下がり際に振るった剣先に、左肩を薄く斬られた。
(やばい、このままじゃジリ貧だ……!)
全身に小さな傷が増えていく。
焦り、動悸が激しくなる。
激しい斬り合いの中で何度も互いの立ち位置が入れ替わり、そのたびに視界の端にアリスの姿が映った。
アリスは善戦していた。
常に兵士から距離を取り、あの不思議な『御札』から魔法を繰り出している。
アリスは手に持った数枚の御札に魔力を込めた。
御札に描かれた魔法陣が発光すると、それぞれの御札から紫色の電撃が放たれた。
「
「がぁぁぁあ!?」
電撃が兵士らを撃ち抜き、煙を吹きながら気絶させた。
直後、城の方から魔法による砲撃が飛んでくる。魔導士は離れた位置から援護射撃に徹していた。
しかしアリスは焦ることなく、飛んでくる火の玉をバリアっぽい魔法で防いだ。
(す、すごい……! アリスに守られてばっかだな、俺は……)
彼女の戦闘能力は想像以上だった。
最初に現れた十名ほどの兵士は、もう二人しか残ってない。
とはいえそれも時間の問題だ。
城の中から慌ただしい気配が伝わってくる。あと数分もすれば増援が押し寄せてくるだろう。
(そうなったら俺もアリスも終わりだ。いや、最悪アリスだけは逃さないと……)
「死ねぇ!!」
「くはっ!?」
意識が逸れたほんの一瞬だった。
ローズの刺突を避けきれず、右腕に食らってしまう。
(くそ、やられた……ッ!!)
俺はグアッと顔を歪める。
咄嗟に身を引いたおかげで、そこまで深くは刺さらなかった。
しかし、これまでとは明らかに重みの違う、致命的な傷を負ってしまった。
右腕にうまく力を入れられない。入れようとすると激痛が走る。
傷口からドクドク血が流れ、頭がくらくらしてきた。
「トドメだ!」
追撃が迫る。
俺は歯を食いしばり、痛む右腕を根性で持ち上げる。
ローズの剣を刀で受け止め、しかし体勢を崩され、足裏で地面を削りながら吹っ飛ばされた。
「ええい、しぶとい! 無駄な抵抗はやめろ! お前のような邪悪な存在が、この神聖な王宮に足を踏み入れているというだけで吐き気がするんだ!」
「はぁ……はぁ……はぁ……っ」
ローズは苛立っていた。その目は殺気に満ちている。
俺は肩で息をしながら右腕を押さえ付ける。敗北は目前だった。
(いってえぇぇ……やばい、たぶん次は防げない……ッ)
城の方から兵士たちの足音が近付いてくる。
もう数十秒で増援がここに着くことは見ずともわかった。
(クッソ、どうすれば勝てる!? 魔法を使わない相手だと魔剣の力も発揮できない! 魔力出力を一気に上げれば不意を突けるか!? でもそのあと動けなくなったら……)
「――勇者様」
と、その時だった。
いつの間にかそばにいたアリスが、背中越しに『あるもの』を渡してきた。
(……あぁ、そうだ。俺はもう、一人じゃないんだ)
彼女の声を聞いて、こんな状況なのにホッとしてしまう。
クリアになった頭で策を練り、目線だけで周囲を見回す。すぐに閃いた。
「今度こそ最後だ、悪魔がァ!」
ローズが剣を上段に構えて突っ込んでくる。
俺はパッと刀を手放した。
空いた両手で首元のヒモを解き、外した赤いマントをバサッとローズの前に広げる。
「なっ!?」
ローズは目を見開いたままマントに突っ込んでくる。
俺は闘牛ショーのようにするりとローズをかわし、マントをローズの顔に巻き付ける。側面から思い切り蹴り飛ばした。
「オラああああ!」
ローズが吹っ飛んでいく。
バシャーンと音を立てて、敷地内にある噴水の中に突っ込んだ。
「くっ、小癪な真似をッ!!」
ローズは顔を真っ赤にして立ち上がり、体に巻き付いたマントを振り払う。
全身ずぶ濡れとなり、足元は水に浸かっている。
ローズはそのままこちらに駆け出そうとして、「ん?」と自分が投げ捨てたマントを見た。
噴水の水面に浮いている赤いマント。
その内側に貼り付けられた『御札』が、淡く発光する。
『これに魔力を込めると
光の発信源は、さっきアリスから手渡された『御札』だった。
御札に込められた魔法はアリスが使っていた電撃だ。初めての俺に相手に直撃させられる技量はない。
だけど、水は電気をよく通す。
マントに貼り付けてローズともども噴水の中にぶち込めば、必ず当たる。
魔力はすでに込めてある。
意味があるかは分からないけど、俺はアリスを真似して技名を叫んだ。
「
「ぎゃあぁぁぁああ!?」
紫色の電撃が水面をほとばしり、ローズに感電する。
彼は悲鳴をあげながら気絶した。
「こんな仕打ちしてごめんな。あんなに稽古つけてくれたのに……」
罪悪感が湧いてきて、俺はそれをグッと呑み込む。
「勇者様、増援が来ます! 今のうちに!」
アリスに言われ、俺は刀を拾って走り出した。
すぐそこには何十人もの兵士が迫っている。城の方からは魔術師が砲撃を放ってきていた。
火の玉が降り注ぐ。俺たちはそれらを避けながら走り抜ける。
しかし、全てを避けきるのは不可能。頭上に避けきれない火の玉が迫った。
「ふ――ッ!」
俺は立ち止まり、刀を火の玉にぶつけるように振るった。
魔法の強制解除。火の玉が刃先に触れたそばから両断されていき、消滅する。
だがその時、近くに落ちた別の火の玉が地面をめくり上げ、飛散した土の塊がアリスの足に直撃した。
「うっ!? す、すみません、すぐに治します……!」
「悪いけど時間がない、運ぶぞ!」
俺は転倒したアリスをお姫様抱っこした。
アリスは頬を赤くしながら、申し訳なさそうに魔法で足を治す。ついでに俺の腕の傷も治してくてた。
城壁が目の前に迫っている。
アリスは俺に抱っこされたまま、ローブの内から御札を取り出した。
「有効範囲に入りました。飛びます!」
「おうよ!」
「位置替え!」
彼女が御札に魔力を込める。
瞬間、目の前の景色がガラリと移り変わる。
俺たちは一瞬にして、テミス教会のアリスの部屋まで転移した。
魔王に呪われた勇者、全人類に嫌われながら魔王討伐を目指す 夢笛 @yumehue
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔王に呪われた勇者、全人類に嫌われながら魔王討伐を目指すの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます