粛正のグォドフィ

満梛 陽焚

粛正のグォドフィ

 昔々、或る処に[ダフィト]という若い大男がいました。ダフィトは小さい頃から悪戯が好きで、中学校に上がると、ヤンキーになり、なんとか入った高校を中退すると、半グレになり、タイから帰ると、大変立派な反社になっていました。

 ダフィトは働きぶりが認められて、早くから出世していましたが、兄貴や親父の行う、昔ながらの不効率な生産性の無い人情的な仕事振りが気に入らず、そのやり方に反発し、度々仲間内で争いを起こし、やがては仲間との間に深い軋轢が生じていました。

 そして、とうとう、孤立して行き場の無くなったダフィトは、真の家族よりも自分を大事にしてくれた恩義を忘れ、兄貴と親父を闇討ちし、あやめてしまいました。この出来事が国中の反社に知れ渡ると、ダフィトはお尋者として懸賞金が掛けられ、あらゆる無法者から狙われる、裏社会の有名人になりました。

 困ったダフィトは、祖国を去ると、自分の噂が及ばない遠方の国、[カムタマ国]へ逃亡し、名前を[グォドフィ]と名乗ると、その類稀なる奸智かんちを発揮し、瞬く間にスラム街の首長になりました。

 グォドフィがカムタマ国に来て、3年が経つと、悪い貴族や宗教家が、グォドフィを頻繁に訪ねて来るようになり、気が付けば、グォドフィはカムタマ国で一番の悪人と呼ばれる存在になっていました。

 この時、グォドフィは邪智じゃちのキャリアハイを迎え、その姿は恐ろしくも美しく、時分の花を謳歌する、悪の権化そのものでした。グォドフィは運命に従うまま、多くの悪人や有象無象と徒党を組むと、兵を引き連れ、カムタマ国王の居城を襲撃しました。

 しかし、グォドフィによる、この暴挙は失敗に終わります。

 カムタマ国王は古の賢者より賜った、ドラゴンの杖を天にかざすと、天空に巨大な龍が現れ、グォドフィ目掛けて煉獄の火焔を吐き出しました。これには、さすがのグォドフィも敵わず、無残にも黒焦げとなって倒れたのです。

 そして、カムタマ国王は、古の天子が月の姫より賜った、死なぬ薬をグォドフィに飲ませると、髪の毛一本程の光しか差し込まぬ、地下牢へ閉じ込めました。そして、いつしか時は経ち、グォドフィの事など人々は忘れ去っていきました。  

 近年、開示された文書によると、今も、グォドフィは、闇深い地下牢に閉じ込められてい。その姿を見たと云う者によれば、グォドフィは肛門から口へと槍を突き刺され、串刺しにされた状態で、宙吊りにされ、両の手足は楔で繋ぎ合わされ、鼻から聖水を流し込まれ、眼は永遠と見開かれ、耳元では聖職者による詠唱が毎日行われ、取り憑いた最悪の悪魔を、天に昇華させる御祓おはらいが行われている。という事です。

 無慈悲に見えるかも知れませんが、悪魔をこの世に残して、第二のグォドフィを誕生させるわけにはいかないのです。グォドフィもそれを望んでいます。だからこそ、カムタマ国王は、グォドフィが息絶える刹那の時、その真意を感じ取り、死なぬ薬を与えたのです。

 今、世界が平和なのは、グォドフィの良心が最悪の悪魔を閉じ込めているからです。グォドフィは、いつ終わるとも無い、悪魔との闘いに、この瞬間も立ち向かっています。

 カムタマ国王は、彼の善良な意思と勇気を讃え、霊山ネムの麓にひそやかとした磐座いわくらを築きました。今でも、その磐座の存在を知る者は殆どいません。それでいいのです、グォドフィがそれを望んでいるのですから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

粛正のグォドフィ 満梛 陽焚 @churyuho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画