左指蠱毒・後編

 蠱毒の力を手に入れた後、私は真っ先に株を買った。私が買った株はみるみるうちに高騰した。


「この調子なら何とかなる!」


 蠱毒の力は本物だった。買って売却、買って売却を繰り返し、借金をがむしゃらに返済した。そして、全て返し終わった。少し余裕があるくらいに、稼ぐことが出来た。


 何もかも、丸く収まったと思った時だった、私は血反吐を吐いて倒れた。


 次ぎに目を開けたときは、病院だった。これが代償だ。クソ親父と同じ運命を辿ると分かっていた。だから伊藤さんは止めようとした。病室の外から足音が聞こえた。扉が勢いよく開いた。


「お兄ちゃん!」


 妹だった。こんなに感情を表に出している妹を初めて見た。


「大丈夫なんだよね……。」


「持って数日……らしい。」


 妹はこの言葉を聞いた途端泣き崩れた。


「なんで……、なんでいつも見送る側なの!お母さんもお父さんも……、お兄ちゃんまで……、なんで皆私を置いて逝くの……。私を一人にしないでよ……。」


 妹にかける言葉が見つからない。


「ごめん……。ごめんな……。」


 喉から絞り出したのは謝罪の言葉だ。このやり方が正しい。そう自分に言い聞かせてきた。でも、泣き崩れた妹の前でそんなことは言えなかった。


 私の入院中、妹はずっと傍にいてくれた。おかげで死ぬのは怖くなかった。それよりも、妹を一人にさせてしまう罪悪感が膨れ上がった。


 結局私は何がしたかったのだろう。妹を守りたかったのだろうか。その結果、妹を傷つけてしまったとしても、守り抜くことが出来たらいいのだろうか。違う、妥協したのだ。確実な安パイを選んだのだ。借金を返す方法などいくらでもあるのに、楽な方法を、くだらない自己犠牲を選んだのだ。だから、最期に妹に言わなければいけない事がある。


「ごめん、ごめん……。一人にしてしまってごめんな……。」


「お兄ちゃんは悪くないよ……。」


 薄れゆく意識中この会話を最期に私は死んだ。

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右指蠱毒・左指蠱毒 彼岸 幽鬼 @meem

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