左指蠱毒
左指蠱毒・前編
父が血反吐を吐いて倒れた。その時中学三年生だった、私は学校を早退して病院に向かった。
病室にいる父は点滴をしていた。父は母が死んでから、株や事業に手当たり次第に使って破産した。妹はこの事を知らない。
「俺だけ呼んだのは、遺産の話しをするためだろ、クソ親父。」
「そうだな……、この借金を返すために『右指蠱毒』についてお前に話しておきたくてな。」
そして、病室で『右指蠱毒』についての話しを淡々と聞いた。要するに、一家の長男である私がやるから効果があるらしい。しかし、書物に書かれている内容と違い、左手の指で行うと言う。私が父の中にある蠱毒の力を受け継ぐと言うことだ。つまり今回行うのは『左指蠱毒』だ。
「俺と親父だけが犠牲になる、と言う事なら協力する。妹には話してないよな。」
私は父を睨み付けた。この男が憎い。
「言ってない。私が死んだ後の事は諸々手配してある。神主の伊藤さんが中心になってしてくれるから。あと伊藤さんの話しによれば指を呪物にする時間が数年間必要だから、お前は死ぬ前にやりたいこととかやっておけよ。」
妹のために死ねるなら後悔しない。私は拳を握りしめた。
そして、数日後に父は死んだ。父が言っていた通りに話が進んだ。神主の伊藤と名乗る人物が現れ、葬式から父の指の呪物化まで行った。社会人になるまでの経済的な支援は叔父さんがしてくれた。
それから数年後、私も妹も社会人になった頃、伊藤さんから呪物が完成したと連絡が入った。
伊藤さんが勤めている神社に向かった。大きなクスノキが御神木のようだ。社務所に向かうと、無精髭を生やした男性が出迎えた。
「久しぶりですね。出来ればあんな物作りたく無かったんですけどね……。」
「クソ親父の借金だ。どんな方法であれ、返さないといけない。」
「そうですか…。それではこちらに。」
伊藤さんに社務所の和室に案内された。低めのテーブルの上に細長い御札の塊がある。
「あれが……。」
「はい、あれが呪物です。本当にこの方法しか無いとお考えで?妹さんには相談したんですか?」
「妹には教えない。あと、クソ親父がどのくらい借金のしてたかぐらい知ってるだろ。もう、この方法しか無いんだ。」
「分かりました。」
伊藤さんが申し訳なさそうな顔をした。そして、御札を剥がし始めた。剥がされていくうちに中が指では無い事に気づいた。細長い小瓶が姿を現した。中には黒い粉末が入っている。
「これが蠱毒の力か……。」
「はい、一度依り代である指に力を移し、その後力を抽出した物です……。本当によろしいのですか?あなたが死ねば妹さんは一人になりますよ。」
「さっき言った通りだ。後戻りは出来ない。」
そう言うと伊藤さんは湯呑みに黒い粉末を入れ水に溶かした。私はそれを飲み干した。血生臭い黒い液体を。
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