右指蠱毒・後編

 実家での騒動の朝起きると既にお婆さんも他の親族も帰っていた。


 台所で叔父さんが食パンを二枚トースターで焼いていた。


「おはよう。昨日は急遽あんな騒動に巻き込んで申し訳ない。」


「いえ、私も家族についてもっと関心を持っていればこんなことにならなかったのかもしれません。」


 微妙な空気になったところでトースターがチンと音を立てた。


「とりあえず食べようか。」


「はい。」


 叔父さんも私も昨日の騒動で夕ご飯を食べていなかったので、食パンを黙々と食べ進めた。



 食べ終わって食器を片づけた。そして改めて『右指蠱毒』についての話しを始めた。


「そもそも、蠱毒の力を何に使ったんですか?」


「富のため、一族のためと聞いてい……、それ以上は分からない。」


「そうですか……、蠱毒の力は経済も動かすのかな……。」


 叔父さんはそれを聞いた途端何かを考え始めた。


「どうしました?」


「いや、ちょっと辻褄が合うのでね……。」


「もしかして、左手の指の所在が分かったんですか?」


 叔父さんは真剣な顔になった。そして、どこか悲しそうな表情だ。


「実は君の父親は事業に失敗してね……、借金をしていたんだ。でも、ある程度払って病死したんだ。その借金を相続したのが、君のお兄さんで……。」


「まさか……。」


 知らなかった。目から涙がこぼれ落ちた。間違えない、父と兄は『右指蠱毒』のやり方に倣って『左指蠱毒』をしたのだ。


「なんで……、なんで私に相談してくれなかったの……。お兄ちゃん……。」


 涙が止まらない。叔父さんは私の肩をさすってくれている。


 兄は蠱毒の力を使って借金を返したのだ。私を巻き込みたくなかったのだろう。それでも、あんな最期になるのなら私に相談してほしかった。もっと他のやり方があったはずだ。


「私が気づいていれば……。」


 後悔が一段と大きくなった。そのまま私は子供の様に泣き続けた。



 泣き疲れたのか、私はいつの間にか寝てしまったようだ。時計は十二時過ぎを指している。


「起きたか。ちょうど昼飯出来たところだから。」


 叔父さんがご飯と味噌汁と焼き魚を配膳している。


「いただきます……。」


 手を合わせて小さな声で呟くように言った。お互い無言で食べていた。沈黙の食卓には悲しい空気が張り詰めている。


 食べ終わって、私は食器を洗った。そして私はある場所に行くことにした。


「叔父さん、私お墓参りに行ってくるから。」


「そうか、分かった。」


 叔父さんの喉が少し震えていた。叔父さんもこらえている事があるのだろう。



 白い菊の花を買って墓地に向かった。この前に掃除をしたばかりなので綺麗なままだった。


 古い花を捨て、白い菊の花を花瓶に挿した。


「気づかなくてごめんね……。でも、ありがとう。私のための行動で、隠し事で……。」


 言葉が詰まったと思ったら、また涙が出ていた。


「だから、私お兄ちゃんの分まで生きるから、頑張るから……、そっちで見守っててね。」


 初夏の爽やかな風が吹き抜けた。

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