社畜はお断り!(仮)
颯風 こゆき
第1話 不思議な声
「ユキナ殿・・・・」
「出たわね、この疫病神!」
真っ白な空間で仁王立ちしながら空を仰ぐ。
「ヤクビョウガミとはなんだ?」
「厄を呼び込むあんたみたいな存在の事よ!」
「何と・・・それはあまりにも酷い言い草だ」
「だったら、もう私の前に現れないで!」
「そうもいなかないのだ。お願いだ。こちらの世界へ来てはくれないか?」
「絶対イヤ!」
しんとした空間で、優樹菜と声の持ち主は今日も攻防戦をする。
「絶対、社畜になんてならないんだからっ!!!!!」
エコーが効いてるかのようなその声は、空間中にこだました。
今日も今日とてため息から一日が始まる。
大学を出て就職した先は、いわゆるブラック企業で、早々と逃げた同僚の分まで背負った荷物を抱え、早出残業、休日出勤は当たり前、パワハラ上司にこき使われ5年・・・。
とうとう体力の限界が来て過労で倒れた。
一週間という短いような長いような入院生活を過ごす間に、沸々と怒りが湧いてきて、退院早々その足で会社に辞表を出した。
そして慌ただしく荷物の整理をして、田舎寄りの町へ引っ越しを果たす。
ここまでの行動の速さに自分でもびっくりするが、逆にどうして今まで行動しなかったのかと自分自身に腹が立つ。
度重なる疲労と圧をかけるパワハラに、正常な判断ができなかったのだと何とか自分を言い聞かせて、引っ越した町で職を探した。
そこで、田舎町には似合わないほどのおしゃれな雑貨屋が目に止まった。
実を言うと、私は昔から雑貨が好きだ。
小さい頃からお小遣いを貯めて小物雑貨を買い、小さな部屋を彩るのが好きだった。
高校、大学と自分でバイトで稼げる様になってからは、休みの度に雑貨屋巡りをしていたほどだ。
それがある日をきっかけに無くなり、ただ生活の為にと就職した矢先が最悪だった。
それでもいつか、いつかと頑張ってみたものの、安月給ではあるが仕事漬けの毎日に、休みの日出かける体力はなく、使い道のないお金は自然に貯金へと変わった。
それがあったから、こんなに行動的になれたのだが、今目の前にある雑貨屋を見て、昔の楽しかった気持ちが湧き上がる。
何度か通う内に、そこでバイトの求人が張り出された瞬間、その張り紙をむしり取り店長さんに頭を下げて雇って貰った。
それからは、平穏な日々が続いて・・・・いたのだ。
その声を聞く様になったのは、平穏な日々を手に入れて数ヶ月経った頃だ、
最初は夢だと思っていた、
何故なら、いつも眠りについた時に聞こえていたからだ。
その声の持ち主は、自分は別の世界の魔導士だと言い、名をユーリと名乗った。
初日から聖女になってくれないかと聞かれたが、私にとってよく見聞きする聖女のイメージは神殿と王族にいいようにこき使われる社畜だと思っていたので、即答で断った。
いくら夢でも社畜に返り咲きなどしたくない。
キッパリはっきり断ったはずなのに、ユーリとういう魔導士はそれから毎夜現れて説得する日々を送っていた。
夢ではないと分かったのは、それから一週間ほど経ってからだ。
「毎夜毎夜、私の安眠を邪魔しないでくれる?」
雲のようなふわふわとした床に身を投げて、めんどくさそうに言い放つ私に、ユーリはオドオドしながら、いつもの説得を試みようとする。
「聖女殿、これは夢ではない。ただ、あなたの脳に直接語りかけているのだ」
「今、脳って言った?じゃあ、何?私、寝てる間も脳が常にフル稼働って事?最悪だわ・・・どうりで疲れが取れないわけだ・・・・」
「そ、そうなのか?」
「そうよ。朝起きると体がダル重いのよ」
「だ?ダル・・・?」
「はぁ・・・体が重く感じて疲れるって意味よ」
「そうか・・・それはすまなかった。なにぶん、起きている時の聖女殿は、私の事を一切受け付けてくれないので、声が届かないのだ」
「そりゃ、そうよ。言ったはずよ?社畜になるつもりはないって。それに、こんな夢物語のような話、真に受けるわけないじゃない」
「・・・・ならば、現実だとわかれば、少しは考える余地をくれるか?」
「・・・そうね。考えてあげてもいいわね」
「承知した。ならば、その疲れをとって差し上げよう」
そう言って声は途切れ、私はそのまま深い眠りについた。
そして目が覚めた瞬間、これまでに感じた事のないような体の軽さと爽快さに感動したのは言うまでもない。
社畜はお断り!(仮) 颯風 こゆき @koyuichi
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