第25話 学校の七不思議 告白スポット編①

「本格的に七不思議について調べよう。」


6月中旬、雨が降り続けている影響でジメジメとした嫌な空気が辺りを包んでいる。


そんな中、俺と八神と会長の三人は屋上と階段の間にある小さな空間で他愛もないことを話ながら弁当を食べていた。


八神が一番に食べ終わり、続いて会長が食べ終わる。


それと同時に会長が口にしたことはあまりにも突然であったため、俺と八神は動きを止めてゆっくりと会長の方に顔を向けた。


「七不思議ですか?」


八神が会長に困惑しながら確認を取る。


二年の八神銀が生徒会長である三年の夜桜千草に敬語を使うことは当然のように感じてしまうかもしれない。


しかし実際は八神が会長のことを好きであるため、話すときに緊張してしまうかららしい。


「そうだ。4月に言っただろ?この学校にはフィクションによくある学校の七不思議が実際に存在していると。」


最後に弁当を食べ終わった俺は片付けながら、4月のことを思い出す。


今俺たちがいる階段の近くには人の気配がしない。


会長曰く、これはこの学校の七不思議の一つ『学校の階段』であるらしい。


毎年一年生が一人だけこの場所にやってくる。


他の人が来ることはないし、教えることもない。


各学年が一人ずつ集まっているだけなのだ。


しかし、七不思議を知っている奴が訪れるのではないか?


そういった疑問も浮かんでくるが、そもそも七不思議と言い出したのは昔この階段に来ていた人たちらしい。


そいつらは、「七不思議は見つけるのが楽しい。」と思っていたらしく、他の人には教えなかったようだ。


ただしこの階段にくる後輩に対しては、七不思議があるということと、学校の階段については教えたみたいだ。


それを聞いた後輩たちが、噂程度として自分たちの後輩に教えていく。


そうして、今の代にも存在だけは伝わっている。


そんな中、会長は卒業までに残りの6つが本当に存在するのかを確かめたいと思ったのだ。


会長が一、二年生のときは先輩が乗り気ではなかったらしく、探すことができなかった。


三年になった今、最高学年という権力を活用して強引に俺と八神を協力させて見つけようとしている。


「でも、どうやって探すんですか?手がかりなんてないでしょう?」


俺の口にした疑問に対して会長は不敵な笑みを浮かべる。


「実は一つ、目星をつけているんだよなぁ!」


どうだ見たか、と楽しそうに会長は笑う。


一人で探してるじゃねぇか。


先程までの0.1秒の思考時間を返せ。


「一人で探したんですか?」


八神も同じことを思ったらしく、不服そうに言葉を出す。


八神、お前はついさっきまで七不思議のこと忘れていただろ。


俺もだけど。


八神の言葉に会長はゆっくりと頭を横に振った。


「違う。この学校には目安箱があるだろ?あれで集まってき情報の中にそれらしいものがあったんだ。」


目安箱、江戸時代に8代将軍の徳川吉宗が庶民の要求や不満などの意見を直接集めるために設置されたものだ。


今でも学校や会社に似たようなものが置かれていることは珍しくなく、学校に置かれているものは先生や生徒会が中身を確認している。


「目安箱に入れられる意見ってどんなのがあるんですか?」


話は脱線してしまうが、気になったので聞いてみた。


「真面目なものもあるが、大体はどうでもいいことばかりだな。目安箱をお悩み相談用に使っている奴らばかりだ。」


どうやら鬱憤が溜まっているらしい。


会長は愚痴をこぼした後、何かを思いついたかのように目を見開いて俺たちの方を見た。


「今度お前たちも目安箱の中身確認を手伝ってくれないか?」


「いやでーす。」


「ぜひやらせてください!」


俺と八神は反対の答えを出した。


八神、睨むな。一人で行けばいいだろ。


「それで、目安箱の中にどんな情報が入れられていたんですか?」


八神の目線は無視して、自分で脱線させた話を強引に戻す。


俺の言葉を受けて、会長は勿体ぶりながらも教えてくれた。


「それはだな……、学校内での告白はすべて失敗するということだ!!」


外は大雨なのにもかかわらず、辺りは静寂に包まれる。


「じゃあ解散ということで。」


「俺も授業の準備がありますので…。」


静寂を破った俺と八神の言葉を聞いて、慌てたように会長が引き留める。


「まてまて!馬鹿げた話に思うかもしれないが、実際すごい数の告白失敗についての相談が書かれているんだって!あと八神お前、いつも開始5分前に移動してるだろ。」


左手で俺の腕を、右手で八神の腕をつかみながら必死に説明している会長に冷めた視線を送る。


しかし、横を見てみると、八神が嬉しそうに顔をほころばしていた。


こいつだいぶキモいな。


恋は盲目とはまさにこのことか。


そう思っている間にも会長は言葉を続ける。


「そうだ!実際に目安箱を確認しに来てくれ!まだ時間はあるだろ?」


この近くには時計が置かれていないため、八神の腕時計を三人で覗き込む。


描かれた時刻を見ると、5時間目の開始まで20分ぐらい余裕があった。


「わかりました、行きましょうか。な?空波からなみ。」


八神がすぐに承諾したことで、俺は二人に強引に生徒会室まで連れていかれた。




生徒会室は俺たちがいた階段がある校舎の二階、職員室のすぐ近くにあった。


中に入ると大きなホワイトボードが目の中に飛び込んでくる。


そこには大きく『体育祭・文化祭』と書かれていた。


この学校では体育祭が9月の初めに、文化祭が10月の終わりに開催される。


この二つの運営は生徒会が中心となって行われる。


5月、11月と生徒会選挙が行われるが、5月に当選する方が忙しくなるのは目に見えている。


かと言って、受験を控えた3年生が会長を務めることはそこまで珍しいことではないらしい。


勉強面に自信があるか、推薦のためなのか、あるいはどちらもなのか。


部屋の真ん中には長机が二つ隙間を作らずに置かれている。


部屋の隅にはごちゃごちゃと様々なものが入っている棚があり、その横には段ボールがいくつも置かれていた。


「お世辞にもきれいとは言えませんね。


俺の言葉に苦笑しながら会長が答える。


「今は忙しくて散らかってるけど、5月までは整理できてたんだぞ?」


ホワイトボード近くの机に目安箱と書かれた箱が置かれてあった。


「昨日みんなで確認してから放置してたんだよ。」


そんなてきとうで良いのか。


俺たち3人は目安箱に近づく。


箱の横には無数の紙が整理されて置かれている。


「左は先生に確認してもらうもので、真ん中は生徒からの些細な相談事、そして右が告白について書かれたものだ。」


会長の説明を聞きながら、紙の束を見る。


真ん中が一番多い。いや、左が少なすぎるのか?


右に置かれた紙を手に取る。


全部で13枚あった。


「これっていつからいつまでのやつですか?」


八神も俺の手にある紙を見ながら疑問を口にする。


「今週の月曜から昨日の放課後までの4日間だな。」


今日は金曜日だから毎週木曜日に回収しているのか。


4日間としてみると、13枚はかなり多い。


一枚一枚見ていけば同じ筆跡のものもあったが、それでも9人が書いているのがわかった。


そのどれもが「告白に失敗しました」といった内容ばかり。


「確かに不思議だな。」


13枚の手紙を一通り見た後、俺はそう呟いた。


「そうだろそうだろ。今週は特に多かったが、1枚以上は毎週来ているからな。」


なぜか自慢げに会長は頷き、さらに言葉を続ける。


「なぜ毎週のように学校内で告白が行われているのか。なぜそのどれもが失敗に終わっているのか。不思議だよな、実に不思議だ。」


外の天気など気にするそぶりも見せず、会長は楽しそうに笑う。


無邪気で好奇心旺盛、周りを振り回すような性格だがついて行くと意外と楽しい。


八神の方を見なくともキモい表情をしているのがなんとなくわかった。


この後はなにを調べていくのかを話し合おうとしたが、顔を見上げて生徒会室にある少し埃の被った時計を見ると、5時間目まで残り5分しかなかった。


他の2人もそのことに気づいたため、俺たちは生徒会室を後にしてそれぞれの教室に戻る。


しかしその前に八神が言葉を発した。


「今日の放課後、早速調べ始めましょうか。」


会長は笑った。八神が乗り気になったことが嬉しいようだ。


2人の視線が俺に集まる。


もちろん俺の答えも決まっている。


フッと笑った後、当然のように答えを口に出した。


「放課後は早く帰りたいから無理。」


「「付き合い悪ぃ…。」


2人の呆れた声は大音量の雨音の中、はっきりと聞こえてきた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青空チェンジ! きゅう @iwakyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ