第二次世界大戦下ドイツ。
ヒトラーユーゲントに集められた少年たちは超能力を有していた。
これは超能力者であるハンス少年と激動の時代の物語である。
まず押さえておくべきなのは絶妙なリアリティラインの設定。
戦時下のナチス・ドイツはメディア戦略やプロパガンダ工作など当時から見れば先進的な政策や軍事活動を行っていた。そのなかで超能力部隊の育成という軍事活動があったという設定はありえたかもしれない。じっさいに60年代のアメリカでは超能力部隊が組織された事実も存在している。
またそうした堅苦しさを感じさせない文章も魅力のひとつ。みずみずしい文体で描かれる世界は読んでいて純粋な気持ちに立ち返らせる。
ハンス少年にはヴォ―ダンと呼ばれる死の影を視ることができ、それは少年期の弱さとして彼に影を落とす。人物設定でしっかりと読ませるのだ。
話の流れ、つまり歴史は変わることがない。それでもハンスらの行動は胸に迫るものがある。そうしたありえたかもしれない戦地を描いた点が素晴らしかった。
個人的には歴史が濁流の川のように落ちていく前にある、ひと時のジュブナイルは好みだった。
作品はまだ連載途中だが、彼らの行く末を見守りたい。