第24話
ひかりは何やら必死にスマホを眺めていた。コスプレした女の人の写真を次々スクロールしている。どこかで見覚えがあるようなものも混じっている。
「おはよう、ひかり」
「ぶっ!」
ひかりはいきなり吹き出してスマホを取り落とした。
慌てて拾いながら、「いきなりなにしてくれてんの」と言わんばかりに目配せをしてくる。
千晴は小声で耳打ちする。
「なんかもう、みんなにバレてるみたい」
「えっ、そうなの……? 私たちが両片思いのイチャラブ確変フィーバータイム中だってことが?」
「いやそれはバレてない」
そもそもそんな事実はない。
「なぜか僕がひかりの下僕ってことになってるらしくて」
「下僕……?」
ひかりは眉をひそめた。
もしかして一緒になって怒ってくれるのだろうか。
ひかりはいずまいを正すと、凛と通る声でいった。
「千晴、ジュース買ってきて」
「かしこまりました」
千晴は回れ右をしてまっすぐ教室を出た。
ここは一回仕切り直そう。みんなに見られていると思うとやりづらい。
廊下を歩きながら一度トイレに退避しようかと思っていると、何者かに背中を押された。振り向くとひかりが立っている。走って追いかけてきたようだ。
「御用ですかお嬢様」
「ち、違うの違うの! さっきのはついフリに乗ったっていうか……みんなの目を欺くためのカモフラージュだから!」
「そのわりにめっちゃすっと出たね」
「ハルくんこそすっと出たね」
お互いの視線が交錯する。
そして、どちらからともなく吹き出した。
「まあ案外、悪くはないのかもね」
「私たち……うまくやっていけるかも! 楽しい学園生活が始まりそうな予感!」
「それ昨日も言ってなかった? ダメなフラグたてないで?」
昨日のはあくまで予感(個人の感想です)だった。
「でも最初からこうすればよかったのかも……。この前はリカレとかわけのわからないこと言ってごめんなさい」
「いやさすがに『ずっと好きでした私の下僕になってください』よりはまだマシだと思うよ」
「まあその下僕っていうのも、ある種リカレと意味的にはイコールみたいなところもあるし」
「全国の理解ある彼くんを敵に回したよ」
すでに話は出回ってしまっている。ここは変に否定して刺激するより、おとなしく認めたほうがよさそうだ。
下僕という響きは少しアレなので、別の呼称をおいおい考えるとして。
千晴はズボンのポケットに忍ばせていたブレスレッドを取り出した。
一応持ち歩いてはいるが、もはや腕に巻く気にもならない。
「これ持って帰ったらいきなりバイト首になったんだけど。そんで学校来たらいきなり下僕だし。やっぱりこれクソ石では?」
「ちょっと口が悪いわよハルくん落ち着いて」
「ムカついたからメルカリで売ろうかと思ってるんだけど。いくらぐらいがいいと思う?」
「それ一応ブランド商売だから、あんまりボロクソ言われると困るの。とにかく落ち着いて? 私にフォローさせないで?」
怒りでつい言葉尻が荒くなってしまった。
ひかりにフォローさせてしまうなんて相当だ。
しかしこのブレスレッドを見つめていると、なにかあの譲治のドヤ顔が浮かんでくるようであまり気分がよくない。
「けどいきなりバイト首になったって……なにかやったの?」
「僕は何もしてないよ。『行きまーす!』 で逃げられたんだよ」
ひかりは首をかしげた。
ひかりがそのまま言葉もなくなってしまうなんて相当だ。しばらく固まっていたが、なにか思い出したような顔で手をうった。
「そうだ、そしたらアルバイト……昨日の話、受けたら? うちに掃除に来てくれるんでしょ?」
「あぁ……」
そんな話もあったか。
しかし一度断った手前……いや、あの男が雇い主になるのは気が進まない。
「どうしたの? なにか、気に入らない?」
「う~~~ん……」
「そっか、学校の外で私に会うのが嫌なんだ……」
「いや言ってない言ってない」
なだめながらポケットに手を突っ込む。
折り目のついた譲治の名刺がそのまま入っていた。
昨晩もバイトを首になったと母に伝えると、「ああ、千晴が無職に! そしてそのままニートに……」などとはじまってしまった。
(あとで電話してみるか……)
ヤミ属性のひかりちゃん ~数年ぶりに再会した孤高のお嬢様がヤミ落ちして迫ってきて両肩重いな件~ 荒三水 @aresanzui
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