第7話 ドロップアイテム


 今度はお互いに無言で、薄暗い通路を歩いていく。

 村上さんは部屋でむくりと起き上がってから、こっちの方を一切向いてこない。

 気まずいなんてものじゃなく、あからさまな無視を食らってしまっている。

 

「なあ」

「……」

「悪かったって」

「……」

「ぶん殴ったんだしおあいこだろ?」

「まあ……そりゃそうね」


 ああ、やっとこっち向いたか。

 なんで殴られた方が謝ってるのかわかんないけど、機嫌治してくれたならそれでいいや。

 いや、注意を無視して二人爆死させてるんだから、当たり前っちゃ当たり前だけど。


「さて、また戻ってきたわね」

「そうだな」


 さっきと同じ、ボロボロの地下牢っぽいところにたどり着いた。

 俺たちは一度立ち止まって、目に入る範囲をじっくり眺めてみる。


「この鎖、さっきとたわみ方が同じだわ」

「わかるのか?」

「記憶が正しければ、だけどね」


 確かに、広間の入り口足元にあった鎖は、今回も同じ場所に潜んでいる。

 つられて、左手側手前の、鉄格子が外れた牢屋の隅を見てみると、先ほどと同じように、いかにもな宝箱くんがその場に鎮座していた。


「あいつは無視しましょう」

「いや待て」

「何? ひょっとしてまた腕突っ込む気?」


 そういうわけではないんだが。

 俺のゲーム勘によれば、あいつを放っておくのは得策ではない。


「ああいう、宝箱に擬態するモンスターはな」

「モンスター?」

「……怪物はな、大抵倒すといいものを落とすんだよ」


 いや、落とすもゲーム用語だっけ。

 ドロップって日本語で何て言うんだ?

 こりゃ言葉を探すのに苦労しそうだ。


「それで?」


 ああ、そっちは伝わるのか。

 ダンジョンクロウルあるあるを説明するのも一苦労かと思ったが。

 ひょっとして案外ニュアンスで何とかなるのかもしれないな。


「だからなんていうか、一回だけ、あのバケモノ、倒せるかどうか試してみないか?」

「わかったわ」


 おお、話が早くて助かるな。

 ひょっとすると、さっき爆散させられたのを根に持っているだけかもしれないけど。

 なんにせよ、やる気になってくれるのはありがたい。


「これがいいかしら」

「……何してるんだ?」

「この鉄格子を使うのよ」


 そう言って、村上さんは牢屋入り口に落ちていた、鉄格子の一つを手に取った。

 根元から外れてしまっているので、今はもうただの鉄の棒だ。

 逆に言えば、ちょうどいい長さの鉄棒になっているともいえる。


「ああ、賢いな」


 なるほど、これで遠くから突き刺しでもしてやれば、安全に戦えるかもしれないわけだ。

 そっか、別にゲームじゃないんだから、この場に落ちているものは全部使えるんだ。

 なんなら、脆い壁からレンガ引っこ抜いたりもできるかもな。

 ていうか、距離取れること考えると、そういうやつを投げつけるのが一番安全かも。


 うん? でも村上さん、どんどん近づいて行ってるな?


「セイヤッ!」


 俺が感心して傍観していたら、突然漢らしい掛け声が響いて。

 村上さんの持っていた鉄棒がブレた。

 正確には、残像を幻視してしまいそうな速度で振り下ろされた。

 目標はもちろん、例の宝箱だ。


「ピギュウッ!」

「お、おおう」


 ベキリという破壊音と一緒に、なんか小動物の断末魔みたいな声がした。

 おまけになんか、赤っぽい汁みたいなものが噴き出している。

 衝撃に続いて、水たまりを作るように、みるみるあふれ出している。


「……よし」

「よし……なのか?」

「敵を倒したんだから、良いんでしょ?」

「まあ……そうだな。ありがとう」


 うん。なんか罪悪感を感じてしまっていたけれど、そもそもヤツを倒そうと提案したのは俺の方なわけだし。

 これで文句を言うってのも、理不尽な話だろう。

 ここは素直に感謝を伝えて、俺はドロップの確認に移るとしよう。


「ところで……ホントにそれ漁るの?」

「え、ああ……」


 言われてみれば、こんな得体の知れない汁に触れて大丈夫なんだろうか。

 いや、流石に酸とかだったら、地面の方が解けてしまうだろうし。

 ちょーっと触れるくらい、大丈夫だと思うけどな……?


「まあ、爆発したら笑ってくれ」

「そういう問題じゃ……まあいいわ」


 まあこれで何もなかったら、ただばっちいだけなわけだが。


「おや……?」


 俺の心配も必要なかったようで、手を突っ込む前から、宝箱モンスターの口の中で、何かが光を反射しているのがわかった。



=====


実績解除:初めてオチで爆発しなかった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

トライ・アンド・ブーム! ビーデシオン @be-deshion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ