第3話・鉄鬼

 次の日になりツギキ達は朝早くから王国目指して出発していた。

「シエル、ユードラ…俺についてきてくれてありがとう……」

唐突にツギキはボソリと呟く。シエルとユードラは笑顔で『こちらこそ』と答える。ツギキは二人の笑顔を見て凍りついたような冷たい心の中が暖かくなった様な気がした。

同時刻・王国にて…

「フン、ココガ王の城カ……」

そう言いながら王の居る城へと迫る魔王直属の配下、スィデロ・ラルヴァ。鉄鬼の異名を持ちかつて伝説の勇者との戦闘に敗れ、魔王に拾われてからというもの勇者への復讐を目指し、力自慢に王国を破壊し続けていた。 

「鉄鬼が来るぞ!!各員、大砲準備!!」

「隊長!炸裂弾詰め込み終了、目標射程距離に到達しました!!」

「良いぞぉ!!撃てぇ!!」

凄まじい勢いでスィデロ・ラルヴァに降り注ぐ炸裂弾。しかしスィデロ・ラルヴァにはかすり傷すらつかなかった。それどころかスピードを上げ王国護衛部隊を軽々撃破していくスィデロ・ラルヴァ。戦力を失った王国だったがそこに次期国王、ガゼット王子が立ち上がった。

「我が国を脅かす醜い悪魔め!この私が退治する!」

「…フン、勇者ハココニモイナイカ……モウイイ!!ココヲ破壊シタ後、勇者ガ現レルマデ破壊ヲ繰リ返ス事ニスル!!」

そう怒り狂いながら激突してくるスィデロ・ラルヴァ。最初は躱していたが、そのうち体力に限界が訪れガゼットは一撃喰らってしまった。

「ぐぅ…クソっ…」

「ハハハハハハ!!貴様ノ技ハ外見バカリデ威力ナド無イ!!貴様自身ノ外見ダケナノガソノママ技ニ現レテイルゾ!!」

そうガゼットを馬鹿にしながら笑うスィデロ・ラルヴァ。動けないガゼットを放置しどんどん王国を破壊していった。

「や、やめろ!!」

そうガゼットが叫ぶも意味はなく父である国王も目の前で殺害されてしまった。

「お父様!!」

ガゼットはもはや絶望していた。王国を破壊し終わりとどめを刺そうとするスィデロ・ラルヴァ。もう終わりだ…諦めかけたとき、眼の前でツギキがスィデロ・ラルヴァの打撃を食い止めていた。

「もう大丈夫ですよ…後は安心して俺に任せてください。貴方はシエルと共にここを離れてください」

ツギキがそう軽く説明しながらスィデロ・ラルヴァを投げ飛ばす。投げ飛ばしたと同時にシエルとユードラはガゼットを抱え遠くへと離れた。離れてから安心したのかガゼットは気を失ってしまった。その頃、ツギキはスィデロ・ラルヴァと対峙していた。

「ウゴゴゴ…貴様…何者ダ…?」

「……ツギキ…最恐の暗殺者だよ!」

「……ソウカ…ツギキ、相当ナ実力者ノヨウダ…魔王様ニ近イ物ヲ感ジル…貴様ヲ葬レバ必ズ勇者ニモ勝テル!!我ガ復讐ノ礎トナレ!!ツギキ!!」

そう言いながら捨て身でタックルを繰り出すスィデロ・ラルヴァ。ツギキもその防御をしないと言う硬い意志に敬意を称し素手で殴りかかる。ドゴォォォンッ!!両者がぶつかり凄まじい音が鳴り響く。シエルが急いで駆け付けるとツギキが無傷で立っていた。

「ツギキ様!もう終わりましたか!」

「うん!俺が負けること無いからね!」

嬉しそうに会話をする二人。意識が朦朧とする中スィデロ・ラルヴァは魔王と過ごした日々を思い出し、胸が痛くなる。その中で結んだ約束…それは二人でいつか魔王の大好きな故郷の景色を見に行こうというものだった。

「ア…主……私ハ………コンナ所デ…約束ヲ……果スコトモ……」

そう言いながら壊れた体を引きずるスィデロ・ラルヴァ。ツギキはその姿を見て自身の過去と重ね、スィデロ・ラルヴァに話し掛ける。

「君がした事は許せない…でも…強かったよ…今までの中では…尊敬する……主?に会いたいんでしょ…わかるよ…大切な人に会いたい気持ち…必ず連れて行ってあげるから……安心して眠って…」

そう言いながらツギキはそっと手を握る。手を握られ初めて魔王と会った日を思い出しながら静かに息を引き取った。その後、約束どおり魔王に合わせる為壊れた体の一部のみを残して埋葬してあげた。

「ツギキ様は優しいですね…」 

シエルがツギキに言う。

「…アイツ見てるとどうしても自分に似てる所あってね……ただ俺は…大切な人…ミチト君に看取ってもらえたけどアイツは大切な人に看取ってもらえなかった……少し可哀想でさ…」

ツギキのその言葉を聞くと胸が締め付けられる様な気持ちになるシエル。ツギキが生きていられなかった、すなわち皆と過ごしたかった時間を埋めることは自分には出来ない。けど代わりにこっちでは側に居てあげられる…シエルはその日、ツギキをずっと側で支えていくと心に誓った。

「ツギキ、シエル!あの人意識戻った!」

「ホント!?ユードラお手柄だね!」

ツギキがそう言いながら頭を撫でると何故かユードラは手を払いのけそっぽを向いてしまう。

「嫌だった!?ごめんね…」

ツギキが謝るとユードラはツギキの手を握りながら言った。

「私の事…子供扱いしないで…」

ユードラはツギキの目をしっかり見ながら言う。ツギキはその可愛さに少し心を奪われていたがガゼットの声で現実に引き戻される。しばらくしてツギキ達は別の街へ旅立つことにする。王国を後にしようとするとガゼットが話し掛けてきた。

「ありがとう…少年。君が来てくれなければ私は死んでいただろう…この恩はいつか必ず返す……だからその…私も旅に連れて行ってくれ!!」

唐突に言われ困惑するツギキ。しかしガゼットは話を続ける。

「国の民を守れなかった……不甲斐ない私をどうか……連れて行ってくれ!!」

そう言われその決意に心を動かされるツギキ。

「……うん!よろしく、ガゼットさん!」

こうしてガゼットも共に旅をすることになった。不安だったが覚悟を決め、今は無き城に手を合わせてからガゼットは生まれ故郷を後にした。

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最恐の暗殺者は異世界でも余裕!? @m1-t0b0-ru

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