第2話・魔族
王国を目指していたツギキとシエル。しかし今度はシエルが謎のトラップに掛かってしまう。
「シエルさぁ……ほんとに魔法使いなの?」
そう言いながら魔法が付与されている罠を素手で破壊するツギキ。
(この人と喧嘩になったら絶対に勝てないな……)
シエルがそう思っているとツギキが急に少し身構えた。
「この罠作った人?……いや、人じゃあないね君……」
ツギキの目線の先を見るとおそらく魔族の少女がこちらを見ていた。
「貴方はだぁれ?」
そう聞いてくる少女。ツギキは表情を緩め少女に近づいた。
「俺の名前はツギキ。君は?」
「私はユードラ!ツギキ、良かったら私のお家に遊びに来てよ!」
その話を聞きシエルが止めに入る。
「ツギキ様!コイツは魔族ですから何を考えてるかわかりませんよ!」
「大丈夫だよシエル。君が思ってるほどユードラは考えてないから…だって考えてること分かるもん!」
(そんな事スキル以外であり得るのか?)
シエルがそう考えているとツギキは得意げに言った。
「スキル…が何か知らないけど俺は生まれつき考えてる事と相手の行動は読めるよ!試しに俺の事を杖で叩いてみて!」
「えっ……はい!」
考えてる事が読まれていたのに驚きながらもツギキの言う通り杖で叩こうとしてみた。すると動きを本当に読まれていたようで何もできずに止められた。シエルが言葉を発そうとするとツギキが先に言う。
「すごいって?ありがとう!」
シエルはもはや怖くなってきた。その様子を見て笑うユードラ。ツギキとシエルもつられて笑い始めた。その後ユードラの家へと足を運んだ二人。シエルは何かしてくるのではと警戒していたが以外にもユードラの家族に暖かく迎えられた。
「わざわざこんな所まで来てくださって…これでも飲んで体を温めてください」
そう言いながらユードラの祖母がスープを振る舞ってくれた。
「おばあちゃんのスープは世界一美味しいんだよ!」
そう自慢げに話すユードラを見て微笑むツギキ。するとユードラの兄、アーネストがツギキに声を掛ける。
「……あんたさっき罠素手で壊してたよね…あれ魔獣にも壊せないのにどうやったの?」
「えっ?うーん……なんか普通に?」
ツギキの話を聞きアーネストは目を輝かせながらツギキに色んな話を聞いた。ツギキはそのうち、アーネストと仲が良くなっていた。
その日の夜、ツギキとシエルは出発の準備を済ませてユードラの家を後にした。
「ユードラ、アーネスト、皆さんもありがとうございました!」
ツギキが礼を言うと
「また来てね!」
とユードラが手を振りながら見送ってくれる。ツギキは見えなくなるまで手を振り返した。
そしてしばらく進んだ後、ユードラの家の方に向かう集団を見つけ嫌な予感がしたツギキは声を掛けた。
「君たちどこ行くの?」
そう聞かれた集団のリーダーらしき人物はツギキを睨みながら答えた。
「お前魔族じゃねぇだろうな…ここらで魔族が出たって噂があってな」
「魔族だったら……どうするの?」
「もちろん村の安全を守るために討伐させてもらう!」
そう言われツギキの表情が変わる。
「魔族探したいのなら俺に勝ってからにしろ!」
「あぁ?望むところだぜ!行くぞ皆!」
盾を持った男がツギキに突っ込んでくる。シエルが急いで防御魔法を貼ろうとするとツギキは凄まじいスピードで盾を粉砕し、その後男を気絶させた。
「次…もっと早いのよこして…」
そう呟くツギキに向かってくるさっきのリーダーのような男。しかし手も足も出ずにツギキに気絶させられる。それを見た残りの二人は二人を抱え急いで山を降りていった。
「ふぅ……これで安全だね…」
ツギキがふと目をやるとそこにはアーネストがいた。
「アーネスト、もう遅いからお家に帰るんだよ」
そう言われるもアーネストはツギキの言うことを無視してツギキにお願いする。
「家族は良いって言ってるから……僕も連れて行って!」
しかし頼みを断るツギキ。
「君には家族を守るって言う役目があるでしょ?だから来ちゃだめだよ!」
そう言われ渋々了承するアーネスト。帰るのを見届けてからシエルと森を進み始めた。しかしある程度進んだ所でツギキが急に立ち止まる。
「……!?ユードラとアーネストが!!」
そう言い残し凄まじいスピードで来た道を戻るツギキ。シエルも急いでその後を追う。
「ちょっ!?ツギキ様、どこ行くんですか!?」
そう聞くがツギキはすでに見えなくなっていた。
ツギキがユードラの家に駆けつけるとそこには悲惨な光景が広がっていた。家は火の海になり、外にはユードラ以外が血を流し倒れていた。勿論その中にアーネストも居た。
「アーネスト!しっかりして!」
ツギキが急いで止血するもアーネストは静かにツギキの手を握りただ『ありがとう』とだけ言い遺し息を引き取った。
「貴様、何者だ!!」
そう言いながらツギキに槍を向ける男達。怒りが頂点に達していたツギキは瞬きする間に全員の槍を破壊した。
「………楽に死ねると思うなよ…?」
ツギキがそう言いながら槍の先を手に取る。危険を感じ一時撤退しようとしたがすでに遅く、一瞬で四肢を切断された。
「次は……声帯だな…」
そう言いながら男を踏みつけるツギキ。ツギキは一人ずつ声帯のみを切り取った。その後しっかりと止血をし男達を火の当たる場所に移動させた。
「そのまま焼け死ぬのを待ちなよ…」
そう言いツギキは家の裏へと向かった。
家の裏は目を覆いたくなる様な状況だった。男達に捕まったユードラは服を剥ぎ取られ、男達の性欲を満たすために使われていた。見張り役の男がツギキを見て仲間に伝えようとするが伝えるより先に四肢を潰され声帯を切ったあと、おおよそ人間が損傷しても命に別状のない鼻や目、爪や歯、髪など全ての部分を切り取った。
見張り役を瀕死にしたツギキは残りの男の方へ向かって来る。
「何だお前!?見張りはどうなった!?」
「見ろよ…そこら辺で肉だるまになってるぞ…」
それを見た男がツギキに大きなナイフで斬りかかる。しかしその刃は粉々に砕け散り、次に見た景色は空だった。
「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」
迫る激痛に耐えかねた男は舌を噛み切ろうとするがすでに歯も残ってなかった。ツギキは男を執拗に踏みつける。
「このクソが!何で魔族が悪いんだ!お前達のほうがよっぽど悪人じゃねぇか!!皆を……アーネストを返せよ!!」
泣きながらそう叫ぶツギキ。しばらくして後ろからシエルに声を掛けられる。
「ツギキ様…もうソイツは死んでますよ…」
そう言われ我に戻ったツギキは急いでユードラの方へ行く。男達に全てを奪われてしまい自暴自棄になりかけていたユードラ。そんなユードラをツギキはそっと抱きしめる。
「ごめんね…俺が………もう少し速かったら……」
そう謝るツギキにユードラは涙を拭き微笑みながら言う。
「謝ること無いよ!助けに来てくれてありがとう!」
そう言いながらも手と足は小刻みに震えていた。ツギキはユードラを置いて行く訳にはいかないのでユードラの家族を埋葬し、ユードラを連れて森を出た。
森を出てすぐにユードラを休ませる為にも今晩の寝泊まりするテントを設置する場所を確保したツギキ。ユードラは寝袋に入るとすぐに眠りについた。
ユードラが寝てからツギキはキャンプファイヤーを眺めながらシエルと話していた。
「ツギキ様………先程の者達は恐らくギルド非公認の討伐者かと……」
「んー?知らないけど一人も活かすわけ無いじゃん……あいつ等の家族を見つけたら俺は殺すし仲間がいても殺すよ…人の幸せ奪って奪われないと思ってたら大間違いだよ………」
「それは……殺し屋であったツギキ様本人にも言えることですか?」
シエルは勢い余って聞きすぎてしまったとすぐに後悔した。しかしツギキは少しの沈黙を挟んだ後爆笑し始めた。
「そーだね!俺も奪われて当然の人間だよ!だからまともな死に方しなかったんだよ……というか命を奪った以上は奪われないとおかしいもんね!不幸になる以外生きる道ないんだよ!」
ツギキのその発言に少し間違いを感じたシエルは珍しくキツい表情で言った。
「それは間違ってますよツギキ様。必ず不幸になる必要はないですよ…だって皆ご飯を食べるときに命が犠牲になってますから奪わずに生きられる生き物なんていないんですよ。だから…ツギキ様が不幸になるのは少しおかしい気がします…」
そう言われ無言だったツギキ。シエルがふと顔を見ると静かに涙を流していた。
「だって…そう思ってないと………おかしくなりそうだもん……もっと皆と居たかった…ミチト君と…もっとおしゃべりとか………したかった…」
珍しく見えたツギキの本心。シエルはツギキの頭をそっと撫でた。
「代わりになれるかわかりませんが僕で良ければそばに居ますよ…」
そう言われツギキはシエルに抱きつきしばらく泣いてからそのまま眠ってしまった。
「……ツギキ様…意外と中は子供なのかな…」
普段とは全く違う様子を見せるツギキに少し困惑しながらもツギキの心を癒やしてあげたいと心から願うシエルだった。
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