夕食のお供
雨宮 徹
夕食のお供
私は今日も必死に自転車を漕ぐ。なぜか。ダイエットのためだ。
私は大学生になって以降、一人暮らしのため外食が多くなった。結果、コレステロール値が基準を上回ってしまった。当たり前である。自業自得というやつだ。
医者からはこう言われた。「適度に運動をしなさい」と。
せっかく運動をするのなら、趣味として楽しめるものがいい。ネットで調べると、ジョギングなんかがオススメされているが、ピンと来ない。目的地もなく走るのは、性に合わない。そして、私は飽き性だ。三日坊主になるのは、目に見えている。ランニングシューズを買って出費がかさむだけだ。
他に何かないか、調べている時だった。サイクリングという単語が目に入ったのは。サイクリングなら、既にある自転車を使えば、すぐに始められる。でも、一つ問題があった。ジョギングと同じで、目的地を決める必要がある。私は考えに考え、一つの妙案を思いついた。
そして、現在、必死に自転車を漕いでいるのだ。今日の目的地を目指して。
今日の目的地は「焼肉天国」。その名の通り、焼き肉屋さんだ。ここは私の行きつけだ。私は店の前に着くと、ブレーキを踏む。
私の行きつけではあるけれど、入店している人を見たことはない。美味しくないからではなく、立地が悪いからに違いない。
今日も、換気扇からいい匂いが漂う。金網に置かれた牛タンやカルビたち。想像するだけで、よだれが出る。
私は近くの自転車置き場に駐輪すると、バッグからタッパーを取り出す。白米が入ったタッパーを。私は換気扇の前に立つと、焼き肉の匂いをお供にして、ひたすら白米を食べる。ここの匂いは最高で、茶碗三杯はいける。しかし、それではダイエットの意味がない。サイクリングで脂肪を燃焼し、お腹が空いたタイミングで白米を食べる。こうすれば、食費も抑えられる。
ある日のことだった。「焼肉天国」の前に来ると、何やら張り紙がしてある。そこには、こう書かれていた。「当店は、3月31日をもって閉店しました。ご愛顧、ありがとうございました」
なんということだ。私は行きつけをなくしてしまった。ただ、呆然と立ち尽くすほかなかった。
そうとなれば、今夜のお供を考えなくてはならない。私はひたすらに、自転車を漕ぐ。新たな行きつけを探して。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
今回のお題の「金網」を見た時は、路上の金網を思い浮かべました。でも、それでは一瞬の登場に過ぎないと考え、今回の話を書きました。
主人公の「私」は、換気扇から流れる匂いをお供に白米を食べています。しかし、食事のバランスは大丈夫なのか、作者である私自身も心配です。
最後には行きつけが無くなったことを嘆く主人公ですが、自分がお店にお金を落としていないのだから、当然の結果です。
最後に自作の宣伝を。
作品名は『謎解きは東雲(しののめ)舞にお任せを』です。
https://kakuyomu.jp/works/16818093076738421151
内容は中学校を舞台にした日常の謎ものです。ジャンルはミステリーですが、暗いものではありません。殺人ミステリーに疲れた方はぜひ、ご一読ください。
夕食のお供 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993
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