第2話 キミと一緒に

 疲れからか体が酷く重たい感覚を覚えて一瞬だけ目を瞑ろう――そう思っていたら、周囲の雑音がスッと消え去っており、再びゆっくりと目を開けてみれば、そこはいつか見た覚えがある図書館だった。


「やぁ、待ってたよ」


 そう声がした方へと振り返ると、そこにはアンティーク調のカフェテーブルの上にティーセットを置いてくつろいでいるユーリが居た。


 本と本棚しか存在し無いと思っていたこの図書館にそれ以外の物が有る事に驚いていると、ユーリが肩をすくめて見せた。


「別にこの図書館にだって本以外のものだってあるさ。君は知らないだろうけど、僕以外の人間だっているしね」


 それを聞いて、さらに目を見開く。


 てっきりこの図書館にはユーリしかいない……そう思っていたのだから。


「まぁ今はそんな話は置いておいて、今日は疲れているんだろう? ここに座りなよ」


 そう言ってユーリは自身が座っていた席から鮮やかな所作で立ち上がると、対面の椅子を引いて座る様に促してきたので躊躇していたら、ユーリが眩しいくらいの笑顔のまま無言の圧力をかけてきたので、やむなく座ろうと近づくと鼻先を爽やかな香りが通り過ぎていった。


「今日はキミが疲れているかと思ってカモミールティを用意したけど、もし他に要望があるならすぐに別のを用意するよ?」


 ティーポットを掲げながら顔を近づけてくるユーリの事を極力見ない様にしながら首を横に振ると、ユーリは鮮やかな所作でティーポットからお茶を注ぎ始める。


「はいどうぞ。まだ熱いかもしれないから、僕が吹いて冷ましてあげようか?」


 悪戯っぽい笑顔でそう聞いてくるユーリに対し大きく首を横に振り、カップへと急いで手を伸ばして唇へとお茶が触れた瞬間、思っていた以上の熱が唇に当たって慌ててむせない様に堪えながらカップを机の上に置く。


「ははは、だから言ったじゃないか。キミは結構そそっかしい所あるよね」


 そう言いながらポンポンと頭を軽く叩かれて、恥ずかしさと照れくささから黙って下を向く。


「僕の前では――僕の前でだけは、気を張らなくていいんだよ。キミはいつも必要以上に頑張りすぎなんだから。もっと僕に甘えたっていいんだ」


 軽く叩いていた手はいつの間にか子供をあやす様な、それでいて壊れ物に触れる様に繊細に撫でてきていて、ユーリの自分よりはずっと大きい――それでいて細く、長く、温かい指の感触を感じる。


「さて、そろそろお茶も冷めてきたころだから飲んじゃいなよ。大丈夫、僕はいつだってキミの傍にいるから」


 耳元で囁く様に、それでいてあやす様な声を聴きながらお茶を一口、二口と飲み込んでいくと、胸につっかえていたわだかまりや頭の中に充満していた様々な感情がスーッと抜けて行くと共に、急激に眠気が襲ってきた。


「そろそろ、お別れの時間かな? キミはいつも限界になってから僕の所にやってくるからね、次からはもっと早く――ゆっくり話が出来るときにまたおいで」


 そんなユーリの労わる様な声を聴きながら意識がスーッと遠のいていき、ゆっくりと重い瞼を開けるとそこは見慣れた景色ではあったものの、先ほどまで感じていた疲れが不思議と少しだけ軽くなったような気がした。

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読者であるキミだけの物語 猫又ノ猫助 @Toy0012

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