第6話

「では、これからゼウス対ウィリアムの実践訓練を始める。ルールは魔法あり体術ありのなんでもアリな試合だ。互いに全力で挑むように」


 入試試験も残り3日後に控えた日の自宅の中庭。そこで俺とゼウスは互いに剣を構える。これから行うのはゼウスとの初めての実践訓練。魔法も使える本当の実戦形式となっている。

 ゼウスは元王国騎士団団長だ。剣術も達者で魔法も使うことができる。かなり手ごわい相手だ。だが、俺だってただボーっと3か月を過ごしていたわけではない。今こそこの鬼教師二人のスパルタ訓練の成果の賜物を見せるとき!


「それでは。試合、開始!」

「身体強化、闇の領域ダークフィールド


 俺は手始めに2つの魔法を使った。身体強化はその名の通り、身体能力を強化させることのできる無属性魔法だ。どっちかといえば魔力操作に近いが。ほら、最初に言った通り、強化したい部位に魔力を集めるとそこの部位の身体能力が上がるというやつ。あれを全身にうまーく回して、全体的に身体強化を行う。それがこの身体強化という魔法だ。

 そして、闇の領域ダークフィールドは、俺が造った闇属性のオリジナル魔法だ。この魔法は俺を中心とした半径100メートルの魔法陣を地面に構築し、その魔法陣の中に入っている生物から魔力を吸い取る魔法だ。吸い取った魔力はそのまま俺のもとに入ってくるため、一時的にだが俺は自分の魔力プラス相手から吸い取った魔力を使って、半永久的に魔法を使用することが可能となる。例えば、魔法を使って魔力を消費したとしても、相手が俺の半径100メートル以内にいれば魔力を吸収することができるからだ。魔法陣は常に俺を中心として移動することができるため、俺が相手から離れなければほぼ永久で気に相手から魔力を奪えるのだ。

 また、この魔法は、魔力を吸い取る相手を選ぶことができる。そのため、間違って仲間から大量に魔力を吸い取ってました、なんてことにはならない。しかし、魔力を吸収した魔力を受け取れるのは俺だけなので、仲間も一緒に強化、なんていうチート技はさすがに無理だ。いつかそんな魔法を造れたらいいが。


 2つの魔法を展開した俺はまず最初に相手の様子見から始めた。基本的に俺の戦術はカウンターと決めている。俺から仕掛ける意味がないからだ。闇の領域ダークフィールド内に相手をとらえている限り、時間がたてばたつほど不利になるのは相手なのだ。そのため俺は時間稼ぎの意味も兼ねて最初は様子見から入ることに決めていた。


「ふむ。厄介な魔法ですね」

「そうだろ?俺のオリジナル魔法だからな」

「素晴らしいです。ですが……」


 ゼウスはそういうと、いきなり地面を切り裂き始めた。いや、


「魔法陣に若干のほころびが見られます。こんなに粗い魔法陣ではすぐに壊されてしまいますよ」


 なんじゃそりゃああぁぁぁ!?魔法陣を切り裂くとかありえんだろ!?あああああ!俺の、俺の血と涙と汗の結晶が、構築10秒後に破壊されたああぁぁぁぁ!おのれゼウスゥゥゥ!許さんぞ!


「隙だらけですよ?」


 俺が頭を抱えて悶絶しているうちに、いつのまにかすぐそこにゼウスが迫ってきていた。身体強化によって強化された俺の視力がぎりぎりゼウスのことを視界にとらえることができたため、初撃はとりあえず受け流すことができた。


 俺は受け流すと同時に返しの動作でゼウスの胴体に一閃。しかし、さすがは元王国騎士団団長。かなり俺に踏み込んできていた体勢からすさまじい反射速度でバックステップをすると俺の攻撃を回避した。その後すぐさま俺は追撃のためにゼウスに元に踏み込む。だが、ゼウスはそのタイミングに合わせて剣を振ってきた。

 

ガキンッ!


「危ねぇ。危うく首が吹き飛ぶところだったぜ」

「素晴らしいで。これで決める予定だったんですがね」

「俺も簡単には死にたくないからな」


 俺はぎりぎりのタイミングでゼウスの剣を受け止める。

 

 冗談のつもりで死にたくないと口にした俺、それに対してアリス師匠が言った。


「安心しろウィリアム。死んだ直後なら私の回復魔法で蘇生させることができる。思いっきり殺しあえ」

「それもそうですね。では、殺すつもりで行きますよ、ウィリアム様」


 ……やばいやばい。それはまずいぞ。


ヒュンッ

ヒュヒュンッ


 ゼウスのやつ、ガチで殺しに来てる。さっきと剣の鋭さが全然違う。それに、こう……殺気?がすさまじいことになってる。前に立ってるだけでも失禁しそうな感じの濃密な殺気だ。だが……


「ふふふ、はっはっはっ!いいな!最高だ!これでこそ戦いという感じがする。肌がぴりつくこの感じ。癖になりそうだ!」


 俺はとてつもなく楽しくなっていた。いや、これは俺というよりも…「ウィリアム」か?


「一切出し惜しみはしない。本気で行くぞ!」

「ええ。最初からそうしてください」

「それもそうだな」


 激しい剣劇を繰り広げていたゼウスから俺は大きく後ろにとび、距離をとった。そして、今俺の持っている魔法の知識と「ウィリアム」の才能を総動員し、闇の領域ダークフィールドの魔法陣を瞬時に修正。そして俺はもう一度魔法陣を構築した。


「闇の領域ダークフィールド

「!?」

 

 それは先ほどよりもより魔法陣を強固にした改良版だ。ゼウスとてそう簡単に壊せるものではないだろう。これで俺が一つ有利になった。


「……これにはさすがに驚きました。まさかこの極短時間の間にもう魔法陣を改良するとは。いやはや恐れ入りました。これでこそ正真正銘の厄介な魔法ですな。魔力量の少ない私にとってはかなり痛い魔法です」

「……」


 ゼウスはそういっている。だが、その顔にはどうにもまだ余裕の色が消えない。なんだ?何を隠している?


「では、私の使える数少ない魔法の中でも、最も得意な魔法を使うとしましょうか。なに、あなた様も使っていらっしゃる、ごく一般的な魔法ですよ」

「もしかして……」

「そうです、身体強化です。これは魔法というよりもどちらかというと綿密な魔法操作。魔力を吸われていようと使える魔法ですからね」


 そういうとゼウスは身体強化を使う。身体強化の特徴として、血管が一瞬だけ赤く光り輝く。そして、光が強ければ強いほど強化レベルは高い。そのため俺は理解した。ゼウスの身体強化は、少なくとも俺の30倍ぐらい強化レベルが高いということを。


「では、いきますよぉ?」


 次の瞬間、俺の視界は暗転し、次に目を覚ますと中にはの芝生で一人横になっていた。

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主人公の噛ませ犬に転生した俺、死ぬほど努力した結果最強になった Booske @infurukun

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