記憶喪失1日目-7

「私のせいで…シャルル嬢にこんな演技までさせてしまったんですね…。ニコルの気を引きたいから…ですよね?そんなプライドまで捨ててまでそんなことをさせてしまった私の責任です…。」


そういうとワッ、と手で顔を覆い泣いている。


・・・おやおや?なんだか様子がおかしいぞ?

グレイ公爵とやらは相変わらず面白そうにこの状況を傍観している。


「えっと、ソフィーさん?」


恐る恐る声を掛ける。


「なんでしょうか。」


少しわざとらしくも感じるように涙を拭ってこちらを見る。


「ソフィーさんは、私とニコルが別れるのは嬉しくないんですか?」

「…いえ、そんなことは…」


そういうとバツの悪そうな表情になり、なぜかチラッとグレイ公爵の方を見た気がした。


「…えっと、ニコル?これはどういうこと?」


思っていた状況とかなり違う形になってしまっていることに、ニコルを睨みながら質問する。


「…いや、俺にも分からない、すまない。…ソフィー?」


「ちがっ…ちがうの!これが演技でまたニコルとの関係を邪魔されて怖い思いするのかと思ったら…」


そういってまた両手で顔を覆い始めた。

・・・なんだかきな臭くなって参りましたねぇ。この状況をどう収集するかと考えあぐねていると、グレイ公爵が突然滅茶苦茶な事を言い出した。




「じゃあ、シャルルは俺と婚約するか?そうしたらソフィー嬢とやらも心配しなくて済むんじゃないか?」



「「「「!?!?!?」」」」」


しばし周りで盗み聞きしていた人たちもザワザワし始める。その中でソフィーがひときわ驚いているように見えた。


「あ、頭おかしいんじゃないの!?」

私も負けじと動揺し返事をする。


「なぜだ?シャルルも記憶がないんだろ?俺とお前は古くからの付き合いだし、色々教えてやれるぞ。…そこにいる他の女ばかり見ているニコル卿よりもな。

それに、生憎俺にはまだ婚約者もいない。新しく婚約者になったらソフィー嬢もニコル卿にとってもいいのではないか?」


「だ…だからって

「…ダメです!!!!!!!!!!」


大きな声で突然叫ぶソフィーにびっくりしてガニ股でのけ反ってしまう。初めてこの重たいだけのドレスに感謝した。


「…グレイ公爵閣下、シャルル嬢は周りからも悪女と呼ばれているんです。私も階段から突き落とされそうにもなったことがあります…そんな人が婚約者になればグレイ公爵閣下の評価も落ちてしまいます!私の為にそこまでしなくて大丈夫ですので…婚約はお考え直しください!」


そういってまたオヨヨ、みたいな感じ(オヨヨ、みたいな感じとしか表現出来ないくらいわざとらしい様子)で泣き始めた。あくまで自分の為ベースで話をする女は信用できないと先祖のそのまた先祖の知らない人が言っていた気がする。


「…ソフィー?」

ニコルも様子がおかしいソフィーに何か疑問を持っているようだ。


「ほう?婚約者の評判ごときで私の地位が揺らぐことへの心配をしてくれているのか?こんなお嬢さんにも心配されるなんて、公爵家も地に落ちたもんだな。なぁ?シャルル。些末な伯爵令嬢ごときに公爵令嬢が言われ放題じゃないか。」


「なっ、ちがっ…違います…。出過ぎた真似でした…どうぞお許しください。」



ほんとにこの体の持ち主はこんな腹黒そうな女をいじめていたのか?それにしてはイニシアティブはソフィーにあるように見えるのだが。

…なーんか疑わしい気がしてきた。とはいえ、まずはこの場を収集して、情報を集めるところから始めるとしよう。


「グレイ公爵…あんた名前は?」


「ぷっ、…ディオン。ディオン・グレイだ。」





「ディオン。(チッ、名前までイケメンかよ)私、ディオンと婚約するわ。その代わり色々記憶について教えてもらうからね。」

「あぁ、俺にできる事ならなんでも言ってくれ。マイレディー。」


そう言うとディオンは私の手の甲にわざとらしく口づけをする。キザめ。イケメンだからってなんでも許されると思うなよ。許す。



こうして、古くからの知り合いだと名乗るディオン・グレイとの婚約が突如決まり、波乱の一日と私のGWの惰眠は帰ってくることなく、終わってしまった。

この日ソフィーの怒りに満ちた顔は強く印象に残っている。


余談だが、パーティーを滅茶苦茶にしてしまったお詫びをロレーヌ嬢に伝えたところ

「記憶がなくなってもわたくし達のシャルル様に一生ついていきますわぁ~!!!」と高らかに言っていたので、交友関係については今一度考える必要があるようだ。

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記憶喪失のフリをして悪役令嬢を乗り切ります! うんぽこ @ununpocopoco

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