記憶喪失1日目-6

命拾いをした…きっとこの女性が私の助け舟になってくれるはず…そう信じ振り向くと…


「…美!!またしても美~!!!!!」


卒倒し鼻血を垂れ流してしまいそうなくらいの綺麗でサラサラのプラチナブロンドに目は薄いブルー。華奢で可憐で…いや美~~~!!!!な女性が立っていた。もうわけがわからないよ。


その後ろからニコルが状況が分からないという顔で急いで追いかけてくる。


これで知らん奴一人いるが役者は揃ったということだ。この女性がソフィーなのだと私は一瞬で理解する。

早速謝罪をしてしまおうと思いソフィーの方に体を向き直す。


「この度は…「グレイ公爵閣下にきちんと謝罪をすべきですよ」…え?」


「ん?」


しっかりとした口調でソフィーが私に謝罪を要求している。グレイ公爵とやらに。え、誰・・・?それにこの腕をつかんでいた謎の男も一緒に「?」マーク頭に出ちゃってるし。


「いつものシャルル嬢の横暴は私なら我慢できます。でも悪いことは悪いと認めてきちんと謝罪できるようになってください。グレイ公爵閣下も迷惑していると思います。そうやって異性に誰にでも思わせぶりなことをするのはよくないことですよ。」


…ドユコト?グレイ公爵ってこの謎のイケメンのこと?だとしたら被害者は私なんだけど…?


これが日頃の行いというやつか…。とほほ。


「…ごめんなさい、ソフィーさん。私あなたの言っていることが本当に分からないです。でも、今日は貴方に謝りに来たんです。実は私、記憶を失ってしまってまして、今までの非道をニコルから聞きました。本当に最低なことをしてしまって申し訳ございませんでした!!!!」


深々と頭を下げた。


「なっ…」


「ほぅ」


明らかにソフィーは動揺しているようだった。グレイ公爵とやらは面白そうに相槌を打っている。邪魔だからどこかに行ってほしい。


「つきましては、私シャルルはニコルと婚約破棄をする運びとなりましたので、今後はお二人の関係を応援しています!本当にニコルには何の感情もありません!今まで本当にごめんなさい!」


そう言って再度頭を下げた。これを見てニコルも納得といった表情をしている。

しかし、肝心のソフィーは、何かわなわなと小刻みに震えている。さすがにされた事が酷かったのもあり、簡単に謝罪を受け入れられないのだろうか。

それも勿論想定していた。その時は二度と顔を見せませんと言ってそのまま退場する予定だった。一石二鳥である。


「そんな…それもどうせ演技なんですよね?」


「いえ、本当に記憶喪失なんです。さっきニコルの助けがなければ自分の名前さえも知りませんでした。」


「……そんなの、困ります。」

小さい声でソフィーが何か言ったようだが聞き取れず思わず聞き返すと、また黙ってしまう。


ははん?ニコルとの関係を邪魔されたくないってことかな?安心してもらうためにいっちょ一肌脱ぎますか!


「ご安心を!2人の婚約を心よりお祝いしてるのでなんならプレゼントまで用意しちゃいますよ~!婚約式には呼んでくださいね!なんつって!」

てへぺろポーズをしてみたがネタが古いのか誰にも通じず一人で滑ってしまったみたいになった。一人グレイ公爵とやらは肩を震わせて笑いを堪えている。くそが。


「…シャルル嬢、無理をしないでください…演技はもうやめてください。」


なぜか必死に私の記憶喪失自体を捏造しようとするソフィーの様子に違和感を覚え始めた。ニコルもその違和感に何だか動揺しているように見える。

・・・おや?


「たしかに記憶がないのにこの場にいるという意味ではかなり無理をしてますね…。

…あ!でも話を聞いて、私の記憶はないけどソフィーさんには絶対に謝らなくちゃダメだ!と思ってここまで来たのでそれは信じてください!!ニコルとお幸せに!ヒューヒュー!」


そう茶化すと、なぜかソフィーはまさに悲劇のヒロインといった雰囲気でシクシクと泣き始めた。


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